「お前、急に倒れたんだよ」

俺は悪いと思いつつ自分が原因で倒れたことは隠すことにした。言えるわけがない。だろ?

「は、まじかよ」

ギャモンは信じられないというような顔で呟いた。
内心俺はバレるんじゃないかとびくびくしていたのだが、その心配はなかった。

「最近ろくに寝てねぇからか」

え?と。
思わずギャモンの目の前で間の抜けた声を上げてしまった。

「まともに寝たのいつだぁ?」

一人言のようにぼそぼそと喋りながらギャモンは何でもないように立ち上がろうとする。が、俺は慌ててギャモンの腕を掴んで座らせた。

「いや、お前それどういうことだよ」

「はぁ?何がだよ」

「最近寝てねぇのかよお前」

「だから何だってんだよ」

「い、いやー…えっと…」

これは思わぬことを聞いてしまった。最近寝てないって、一体なにしてんだこいつ。
けど俺は感情を言葉に出せないでいた。言いたいことがあるのだが、どうにも喉の奥にへばりついており上手く吐き出せない。

「おい、離せよ」

口ごもる俺を余所にギャモンが手を振り払おうとする。そこを必死に俺は繋ぎ止める。

「何すんだよ離せ!」

「嫌だ!」

「嫌だって、子供かてめぇは!!」

「言いてぇことがあんだよ!!」

「だったら早く言えよ!!」

「……き、急に言えねぇんだよ!!」

「はあぁ!?ふざけんなだったら離せ!」

「嫌だっつってんだろ!」

放課後だから良かったものの、これが昼間だったらえらいことになってたな。遠巻きに人だかりでも出来てたかもしれない。
ギャモンが本格的にうっとおしがり始めて俺は焦る。毎回こんな感じだ。思ったことを何一つ言えやしない。

「はーなーせええー!!」

「嫌だっつたら嫌だ!」

「こんのバカイトぉ…!いい加減にしやがれ!!」

「ししし、心配しちゃ悪いか!!」

言い争いの末、ついにギャモンが手を払い退けた。その瞬間とんでもなくどもってしまったが俺の口からやっと本音が溢れてくれた。

「…………あ?」

ギャモンが目を見開いて俺を凝視した。

「…………心配しちゃ悪いかっつったんだよこのアホギャモン!!」

階段から落ちて気失って(まあこれは俺のせいだが)、その上また心配させるようなこと口走って何でもない風に去っていこうとするなんて。

「………………」

「………………」

ギャモンがなかなか返さないもんだから沈黙が長すぎてどちらも喋れなくなってしまった。恥ずかしすぎて死ねる、つかなんであいつまで恥ずかしそうにしてんだよ。

「あー……その……なんだ」

ギャモンが不意に口を開いた。めちゃくちゃ気まずそうだった。決してこっちを見ないようにしながらあいつは俺の頬をひっぱたいた。

「……余計なお世話だ、ばーか」

けれどまるで力の入っていないその張り手と、小さい言葉に俺たちはますます恥ずかしくなるのだった。





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