とんでもないことになってしまった。
俺は今、死にそうだ。
気を抜いたらそこで終わり、命を奪われてしまうだろう。
一瞬たりとも気が抜けない。
ごくりと俺は唾を飲み込んだ。
命を奪われるだなんて、誰にか?
そりゃあ、超至近距離で寝顔晒してる逆之上にだ。

「……さ、さささ逆之上…!」

何故だ、声が有り得ないほど上ずっている。答えは簡単、俺の膝の上に逆之上の頭が乗っかっているからだ。
屋上で2人きり。好きな奴は無防備に男に身体を預けて眠っている。ああ、この前部活の仲間に借りたエロゲにこんなシーンあったな…。
なんて考えて頭を振る。馬鹿か、なんてこと考えてんだ。
どのようにしてこんな素晴らしい状況になったかと言えば、逆之上と2人で授業をサボり、サボり場所の定番である屋上でただただぼんやりとしていたのだが突然逆之上が俺に膝を貸せと言ってきた。それでてっきり俺が逆之上と何かと行動を共にしているのは俺に邪な感情があるからだということがバレてついに下半身動かなくなるよう膝をかち割られるのかとおもったのだがそうではなかった。
内心怯えながら膝を差し出すと逆之上がごろんと徐にそこへ寝転がり「起こすなよ?」と言いそのまま眠りはじめてしまった。
と、いう訳なのだが。
かれこれもう2時間ほど俺は逆之上の寝顔をガン見している。逆之上はこんなに素直な性格だったっけか、そもそも人にこんな無防備な姿を晒す奴だったか。
もう授業はとっくに終わってる。でも、逆之上は起きる気配がしない。
少し前まで、逆之上とはほとんど話す機会もなかった。けど今じゃ、昼飯一緒に食ったり授業サボったり、こうして膝枕もできる。
なんだか改めて幸せというやつを噛み締める。こんなに仲良くなれるだなんて思いもしなかった。
す、と逆之上に向けて手を伸ばす。だがその手が肌に触れる前になんとか止める。
なに、しようとしたんだ俺は…。
ごぉん、ごぉんと下校を促す鐘が鳴っている。


さて、どうやって起こそう…。

「おーい、逆之上!」
 ここは我慢して普通に声を掛けて起こす。
「ちょっとぐらい…いい、よな?」
 起こすという名目で身体を触る。