沈黙のち title by 惑星



「嫌いだよ」

長い長い沈黙の後に先輩が言い放った。長い長い、と言ったがそれはもう長くって重苦しくって何故だか大声で叫びだしたくなるような嫌な沈黙だった。その嫌すぎる沈黙が終わったっていうのに、それは喜ばしいことではなかった。俺は先輩の言葉を胸中で繰り返した。心の中にすとんと軽く落ちるそれは同時に俺自身をもどん底に突き落とした。想像以上に、その言葉は俺を激しく揺さぶったのだ。
なんて返せばいい。そう思って俺は口をつぐんだ。いつもならべらべらと出てくる冗談も何一つ出てこないし決して口下手なわけはないのに自分の気持ちを的確に言葉に表すことが出来なかった。
不意にこちらを伺うような先輩の視線を感じ、俺はひどく動揺してしまった。柄にもなく、ヤバい、どうしよう、だなんて思ってしまった。考えたって何も出ない。喉だってひくついて、声も出ない。怖かった。あの言葉に対して俺が何かを言って、また先輩があの言葉に基づく何かを、俺に向かって言うことが。嫌いを前提にした話を聞くのは、いくら俺でも正直つらすぎた。

「なんて、言うかと思った?」

またしても沈黙の後、先輩が口を開いた。

「え?」

いまいち言われた言葉が理解できなくて我ながら間抜けな声で俺は聞き返した。だけど先輩はただ俺に向かって微笑むだけだった。その顔をぼうっと眺めていると、しばらくして乱雑に散らばっていた言葉の欠片がするすると形を成していってようやく俺は全てを理解したのだった。

「はは…」

渇いた笑いが溢れる。全く、やってくれるじゃねぇか。
どういうことかと言うと、結局のところ俺はこの沈黙によって気付かされたわけだ。
あんなに揺らいで仕方がなかった心も今は嘘のように落ち着いて、嫌いが嘘っぱちだと分かってそうとう安心したらしい。なんだか一方的に負かされた気がするがこればかりはどうにもならない。自分の気持ちを正確に計れていなかった俺の完敗だ。
どうやら俺は、俺が思う以上にこの人のことが好きらしい。

「やっぱアンタには敵わねぇよ」

沈黙の後、俺の出来る最大の告白をしてみた。
先輩は、どこか満足そうに目を細めた。







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