窓ふきバイトギャモンと軸川部長の小ネタ


※軸川が女の人とラブシーンしたりしてるよ!
※この時点でのCP要素はなし





ゴンドラが嫌な音を立てて軋んでいる。ぎしり、ぎしり。風が吹くと一見して頑丈そうなゴンドラはたちまち不安定に宙を泳いだ。
逆之上ギャモンは作業着の袖で顎に伝った汗を拭った。作業道具であるスクイジーを持ち直す。先端のブレードににゴムがついてT字状になっているそれは、この仕事での必需品だ。彼は現在、とある会社の高層ビル18階の窓拭き清掃に励んでいた。
18階は地上から50メートル以上離れている。ギャモンはちらりと興味本意でゴンドラから下を覗いた。気が遠くなるような地上の世界に目眩を感じてゴンドラの中にしゃがみこんだ。身体が震える。きゅう、と心臓を掴まれてそのまま地上へ引っ張られそうになるような感覚。ああ、怖い。
家庭の都合で高校へは入学せずにバイト三昧の日々。最初は3つの掛け持ちで精一杯だったのだが段々と慣れてきて、そろそろもう1つくらい新しいバイトをというところへ知人から持ちかけられたビルの窓清掃バイト。
二つ返事で引き受けるんじゃなかった。ギャモンは自身を落ち着かせようと作業着の胸の辺りを力強く握り締める。こんなの割に合わないじゃないかと舌打ちした。なかなか危険な仕事の割に給料は良くない。時間の都合が合っていただけでよく考えずに受け入れた結果だ。
彼はしばらくの後に震える足で立ち上がった。ぎゅう。堅く目を瞑って。
このバイトは決して今回が初めてではない。しかし1人で清掃をするのは今日が初めてであった。だから怖いのだ、まだ十分に慣れていない自分を1人にするだなんてどうかしてる。
スクイジーを両手で握る。柄がアルミ製のそれはひんやりとしていた。その冷たさと時折緩やかに抜けてゆく風に恐怖やら何やらで昂っていた鼓動が落ち着いてくる。風のせいでゴンドラが揺れ多少どきりとはしたが。
怖がっていても仕方あるまい、バイトはバイト。仕事なのだ。働いて金を貰う。安い賃金とはいえ金が手に入る。そう思うと少しは気分が楽になりギャモンは気持ちを新たに目蓋を開いた。

「………………え?」

開けた視界に、思わず声が出た。
18階の、社内。丁度今からギャモンが作業に取り掛かろうとしていた窓に面する室内で。それは起きていた。

(お、お……あれ、何だ、こういうのなんつーんだったっけ?)

先ほどまでは何もなかったのに。
今、目の前で、いや、ガラス一枚隔てた先で繰り広げられる光景に目が離せない。頭の中で思考があれこれと暴れまわった。

(何だっけ、何だっけ、何だっけ……お、お、お。そうだ!)

「オフィスラブ!だ!」

ぱちり。
それはギャモンが社内の光景へ向けて指を差しその言葉を口にした瞬間だった。
正にそのオフィスラブ真っ最中の男と、目が合った。ギャモンは自身から血の気が引いてゆくのを感じた。
室内では男女が仰々しい机の上で濃厚な口付けを交わしていた。男の方はギャモンは何度か顔を見たことがある。恐らくこのビルの会社の中でもそこそこの地位か何かで、顔を覚えていたのは若いだろうに社内で何人もの人間に頭を下げられていたのが印象に残っていたからだろう。ダークグレーのスーツをスマートに着こなすその男は肩まで伸ばした茶髪をさらさらと揺らしながら女を抱き寄せた。そして女が唇を離し男の胸に顔を埋めた時に、彼らは視線を交えたのだ。
スーツの男は女の頭を撫で上げながら呆然とこちらを見上げている。ギャモンはだらだらと自分の背に冷や汗が伝うのを感じた。凍り付いたように動くことが出来なかった。
ギャモンが何も出来ずに立ち尽くしているその時、男が彼を見上げたままふと笑みを溢した。

「……はぁ!?」

男の突然の行動に意図せず喉の奥から裏返った声が出る。男は不敵そうにこちらへ微笑んでいる、その顔からはどこか余裕のようなものが覗いていた。通常であれば社内で、それも仕事中にそういう行為に及んでいるところを見られれば当然焦るはずだ。それなのにまるで見せ付けたいとでも言いたげな涼しい笑み。なんだかこちらが悪いような気がしてきた。別に、悪いも何もないのだが。
男はニヤニヤと笑顔を貼り付けたまま、また女に柔らかく口付けを落とした。しかし目線はギャモンから外されていない。ギャモンは何だか妙にどきどきした。
まるで男はギャモンへと悪戯を仕掛けているようだった。角度を変えて何度も女に深く口付ける。ゆっくり、勿体ぶるように。そして見せびらかすように。何故か目を離せなくなってしまったギャモンは自身の頬が熱くなるのを感じた。動こうにも己の身体は自分の意思では動かせなかった。
そんな中で不意に男がこちらへ向けて片目を瞑った。ウインクだ。何だ、と考えを巡らせる前に男の手が女のスカートの裾へ触れ布地を捲った。その瞬間にギャモンの視界が一気に変化した。
しゃがみこんでしまったのだ。足の力がたちまち抜けて彼はゴンドラの床にへたりこんでいた。目の前はゴンドラの鉄の壁で埋められている。気が付けば彼は肩で息をしていた。激しく肩が上下し、忙しなく口が開閉して空気を取り込む。目眩がした。地上を見て震え上がった時よりも激しい目眩だ。
しばらくしても立ち上がることはしなかった。いや、出来なかった。何故なら今ここで立ち上がろうものなら、あの男と、女が、

「うわあああああ」

ギャモンは激しく首を振った。恐ろしい、立ち上がったら最期だ。女のスカートに手を這わすあの男の手付き。間違いない。間違いない。

「社内でおっ始めるつもりじゃねぇかあのクソ変態野郎……!」

どうしてくれるんだと吐き捨てる。しばらくは立ち上がれない。ゴンドラを動かそうにも立ち上がって操作せねばどうにもならない。熱の引かない顔に両手をやってギャモンはため息をついた。
風が吹いた。ゴンドラがまた宙を泳ぐ。しかしながら、彼にはもう恐怖心はなかった。
こんなバイト、引き受けるんじゃなかった。あの男の嫌な笑みが焼き付いて離れない。
ギャモンはじっと座り込んだまま硬く揺るがぬ大地を恋しく思った。









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ついったでちらりと話した窓ふきバイトのギャモンくんが軸川部長のオフィスラブを見てアワワワってなる話です。
私の頭の中ではここから色々あって最終的にソウギャに行き着くんですがそこまで書く気力はないですwwwwww
いやぁ、ついった初めてからというもののネタとか沢山出てきて更新率が微妙に上がって嬉しい限りですwwwwwww
あとこれは他の文章に比べて時間がかかってないので雑なところなどが目立ちますねすみませんでしたああ!