ソウジくんとギャモンくんが夫婦になったよ!


※世界観自体がギャグ





電子音が鳴り響き、逆之上ギャモンは目を覚ました。時刻は丁度7時。先程から鳴り続く時計のアラームを止めてベッドから起き上がる。腰が重くだるい気がする。だがそこまで気にするほどでもないとベッドから降りた。肌寒いと思ってよく見れば彼はトランクスしか身に付けていなかった。いわゆるパン一、という奴だ。
広いベッドにはギャモン1人で、しかしシーツにはまだあたたかさが残っており先程までギャモンの隣で彼が眠っていたのだろう。そう思いながらギャモンはクローゼットからワイシャツを引っ張り出す。シャツを羽織りボタンを留める。重たい瞼を擦りながら彼はスーツを着込んだ。次いでネクタイは締めずに首に引っ掻けたまま洗面所へ向かう。顔を洗ってから棚に置かれたワックスを手に取り寝癖やら何やらで逆立った髪を撫で付けて無理矢理オールバックにする。そして最後に同じく棚に置かれていた太い黒縁フレームの眼鏡を掛ける。もちろん伊達だが。奇抜な赤色の髪はどうにもならないがこれで学生時代のどこかのチンピラみたいな風貌よりは幾分かマシになった、はずだ。と彼は自分自身に言い聞かせた。
リビングへと続く廊下を歩いていくと微かに甘い香りが漂ってきた。リビングと廊下を隔てる扉を開けるとその匂いは強くなる。部屋の中央にあるテーブルには朝食がずらりと並べられていた。
ゆっくりとそれらに近付くと香りの正体が分かった。りんごだった。朝食のメニュー全てがりんご料理だったのだ。カクテルサラダやアップルパイ、コンポートなどといった定番からスープやきんぴらにコロッケにまでりんごの甘い香りがする。もう日本食も洋食もへったくれもなかった。ギャモンはその異様とも言える光景を目の当たりにししばらくテーブルの傍らで突っ立っていた。すると後ろからいきなり腰周りに細い腕が伸びてきて彼は何者かにに抱き込まれる。

「おはよう」

そう言われて腕に巻き付かれたままギャモンが身を捩って振り返るとそこには満面の笑みを浮かべ彼を見上げている軸川ソウジがいた。

「おー、おはよう、ございます…?」

ギャモンは何故かソウジの言葉に対してなんと答えてよいか分からなくなり俊巡した後にぼそぼそと口ごもるように返事をした。答えた後に、あれ、夫婦なのにどうして敬語?と微かに思ったがソウジはそれを気にしていないようだったためあまり気にもとめなかった。
ソウジがギャモンを軽く押して急かすようにテーブルへと座らせる。

「ほら、朝ごはん早く食べちゃってよ。時間ないんだから」

そこでギャモンは自身の身なりを見て思い出す。そうだ、仕事だ。会社だ。彼は自分のすべきことを思いだし、とりあえずりんごがこれでもかと入れられたカクテルサラダをかきこみりんごジュースを煽った。
その姿を確認してからソウジがギャモンの前を通り台所へと向かって歩いていく。の、だが。そこで初めてソウジの後ろ姿を見たギャモンがまだ焼きたてのアップルパイを喉に詰まらせテーブルを叩いた。慌ててソウジがりんごジュースを入れたグラスを差しだし中身を飲み干すとギャモンは信じられないと言うように彼を見た。

「大丈夫?」

「あの…」

「ん?」

「あんた何で裸エプロンなんですか」

「え?ああ、大丈夫だよ。ちゃんとパンツは穿いてるから」

「ぎゃあああああいいって!見せんな!捲んなって!!」

ギャモンは意を決してソウジの格好に突っ込んだというのに、当の彼はけろりとした表情でエプロンの裾を捲ってみせる。そう、会話のとおりソウジは裸エプロンだった。
新婚ほやほやの新妻でも誰が着るんだという胸にりんごのアップリケが付いた真っ赤なひらひらのエプロンにこれまた目にも鮮やかな真緑色のパンツ、しかもこれは何故か紐パンだった。クリスマスカラーか、と突っ込みたくなるような派手な組合せだ。
いや待てよ、赤いエプロンにちらりと見える緑、もしやこれは熟れたりんごをイメージして、

「ぎゃあああ何考えてんだよこのやろおおおお」

「本当に大丈夫?」

まさかエプロンの下にはパンツ一枚、しかも紐パン(重要事項)だとは思わなかったギャモンはその光景に食欲すら失せてしまった。
ギャモンが席を立つとソウジが「もう終わり?」と朝食と彼とを交互に見てくるのでああ、と軽く頷いた。「それじゃあ急いで片付けるね」と言うソウジを残して彼は再び洗面所へ向かった。
歯を磨いて、もう一度顔を洗うと幾分かすっきりした。気持ちを入れかえて仕事へ行こう。そう思いを改め寝室へ戻り鞄を取り玄関口へと向かっていった。
しかしこれでは終わらなかった。リビングから顔を除かせたソウジがギャモンの姿を捉え玄関まで駆け寄ってきた。彼がこちらを向いているため幸いなことに一番ショッキングな背後は見えなかったが、できればもう、その姿さえ見たくなかった。
こちらまで駆けてきたソウジが何かに気付いたようにギャモンの首もとへ手を伸ばす。

「ネクタイ、結んであげるよ」

そう言われてギャモンは自分がまだネクタイを締めていなかったことに気が付いた。自分で結べないわけではないが抵抗する気もないためされるがままにしておいた。

「はい」

少しの間の後、ソウジが手を離す。どうやら綺麗に結べているようだ。

「ありがとうございます」

「うん。どういたしまして」

今までの中でやっとごく普通の夫婦らしいやりとりにギャモンはほっと息をつく。朝から色々とあったが、まあ何とかいい気分で家を出ることは出来そうだ。

「それじゃあ行ってきま、」

「それじゃ、お仕事行ってくるねー」

そうしてギャモンが靴を履こうとした時、突然ソウジに鞄を奪われる。言いかけた言葉も遮られ呆然とその場に立ちつくしていると、玄関扉を開けたソウジが振り返ってギャモンの元へ戻ってきた。ソウジが結んだばかりのネクタイを引っ張った。

「はい、行ってきますのちゅー」

引っ張られた勢いで強引に屈まされるとほんの短い間だが互いの唇が重なった。その行動に唖然とし固まっているとソウジは1人で勝手に満足したのか「行ってきます」と笑顔で言い裸エプロンに鞄と革靴(本来ギャモンが履くはずであった)という奇妙な出で立ちで寒空の下へ出ていってしまった。

「…意味わかんねぇ…」

とりあえず、彼が近所の交番にでも突き出されないかが唯一の心配だった。










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続きますお。
誰かスーツにオールバックで伊達眼鏡のギャモンくんと裸エプロンのソウジくんを描(書)いてください。