大切な人へ


※映画ツナグ、のパロ、というよりもあらすじを聞いてイメージで書いたもの
※アニメのギャモンくんより3割増で素直でいい子
※過去捏造





俺はずっと親父の背中を見て生きてきた。
いつでも強くて格好良い、どんなに手一杯な時でも弱きを助ける。
まさに俺の、ヒーローだった。
いつも眩しいくらいの笑顔で笑って、俺の手を取った。
そういえばミハルがお腹の中にいると分かってからは俺の手は親父によっていつもお袋のお腹の上に添えられていたっけ。

『いいかギャモン、お前は逆之上家の長男なんだ。だから、もし俺がいない時にはお前が母ちゃんと……これから生まれてくる兄弟を守ってやるんだ。』

守る、その言葉は俺の心の中で強く反響して広がった。いつも親父が体現している言葉だ。
俺はその時、親父を見つめて強く頷いた。そうすると親父は大きな手で俺を撫でてくれた。それで、そんな俺たちを見ながらお袋が優しく微笑みかける。
そうだ、守らなければならなかった。
親父の言葉も、この暖かな家庭も、俺が守らなければならなかったのだ。
しかしそれは叶わなかった。俺はその大事な2つともを守ることが出来なかったのだ。
親父は妹が生まれる前に死んだ。お袋も妹を産んですぐに死んだ。
何も出来なかった。親父は俺に言ったのに。守れと。そうでなくても常に親父の背中は俺にそう語って聞かせていたというのに。
会いたい。
絶望の淵に立たされた俺の中にふつりと沸き上がったのはそれだった。
会いたい、会って、教えてもらいたいことがある。
どんな時でも俺に道を指し示してくれたのは親父だった。だから。
教えてほしい。俺はこれからどうすればいいのだ。





12月2日、√学園、食堂――――

「ツナグ?」

僕はその言葉にそっと眉を潜めた。

「そうそう、噂があんだとよ」

どこから持ってきた情報なのか僕の後輩である大門カイトくんは、彼の同級生でもあり、また僕の友人でもある逆之上ギャモンくんにそう語りかけた。

「何でも満月の見える晩に、一生に一度だけ死んだ人に会わせてくれるらしい。んでそいつのことをツナグ、って呼ぶ、らしい」

カイトくんは得意気にギャモンくんへ話している、が、ギャモンくんはへーだとかふーんだとか気のなさそうな返事を返していた。それだけは僕の救いだった。

「で?」

「で、って……興味ねぇのかよ、お前」

「馬鹿かよ、嘘っぱちだろんなもん」

どうやらギャモンくんは端からそんな話は信じていないようだった。そんな様子に僕は安心してりんごジュースのパックにストローを刺した。

「ま、そーだろーけどよー。ノノハたちが色々話しててさ。女子は好きだよな、こーゆーの」

カイトくんが言うノノハ、というのは彼らと同学年にあたる井藤ノノハくんのことだろう。活発で男勝りなところもあるけれど、やはり女の子なのかそういうちょっとあり得ないような噂話なんかも好きらしい。
一頻りカイトくんは喋った後、それじゃあと言って彼は食堂を後にした。
残ったのは僕とギャモンくんだけだ。
ず、と音を立ててりんごジュースを啜ると「先輩、」とギャモンくんが話かけてきた。

「ん?どうしたの?」

「軸川先輩は、噂とか信じます?」

「…………え?」

僕は思わず勢いよくギャモンくんを振り返った。ギャモンくんは怒っているような、悲しんでいるような、なんとも言えぬ顔付きで空になったB定食の器を睨んでいた。
まさか、と思って僕はストローを指でぎりぎりと潰す。

「さっき、カイトくんが言ってた……?」

「ツナグ、だかなんだかって、本当にいると思います?」

口振りだけならば、本当にいると思います?ただの噂っすよねぇ、と続きそうなものなのだが彼の表情はそうは言っていなかった。

「……いないんじゃ、ないかな」

ギャモンくんの気持ちは何となく読めた、おそらく、彼はツナグに興味を持ったのだ。いる、いない、ではない。いてほしいと思っているのではないのだろうか。
ギャモンくんはそっすか、と言って背もたれに身体を預けた。
彼は、誰かに会いたいと思っているのだろうか。

「ギャモンくんにはさ、」

力を込めた指先、爪が白くなる。

「会いたい人が……いるのかい?」

いたって平静を装って僕はギャモンくんに尋ねた。
ギャモンくんはちらりと僕を見た後、気まずそうに周囲に視線を飛ばした。

「……その……親父に」

小さくて細々とした声に僕は驚いた。
ギャモンくんの表情はどこか思い詰めていて、いつも強気な彼の見せたことのない一面に戸惑いを隠せなかった。

「……お父さんに?」

「ま、ちょっと思っただけなんで」

僕らの間にどこか陰鬱な空気が漂い始めたところでギャモンくんが話を締め括った。
いつものように、彼は綺麗な笑顔で僕に笑いかけた。

「それじゃあ、また」

「……うん、また」

僕が軽く手を振ると、ギャモンくんも席を立ち上がった後に振り返してくれる。
そうして食堂の丸テーブルには、ついには僕1人だけとなった。
潰れてしまったストローをまた指で戻しながらゆっくりと口を付ける。
最近、僕の周りでツナグの噂が出回り始めた。
ああ、嫌だなぁ。嫌だ嫌だと思っていた矢先についには僕の大切な人であるギャモンくんの耳にまで届いてしまった。
甘酸っぱい味が喉を通っていく。目を閉じたらぷんと甘いりんごの香りが鼻をついた。それなのに、あまり美味しく感じられない。
噂というものは、一度出回り始めたら皆が飽くまでこねくりまわされ弄ばれる、そういうものなのだ。
知れず、ため息が溢れた。





12月8日、√総合病院――――

僕はある人のお見舞いに来ていた。両手で抱える程の花束を持って廊下を歩く。確か6階の奥の個室だったはずだ。
ある人というのは、ギャモンくんの妹さんであるミハルちゃんのことだ。彼女は1、2ヶ月ほど前からこの病院に入院しているらしい。
ミハルも人が来ると喜ぶから、ぜひ見舞いに来てやってください。とギャモンくんが前に言っていたのを思い出して僕はこうして見舞いに来たという訳だ。
ミハルちゃんにはまだ会ったことがない。ギャモンくんの妹か、一体どんな子なのだろう。そう思いながら進んでいくと廊下の奥から騒がしい話し声が聞こえてきた。

『ちょっと静かにしなさいよ2人共!』

『うっせぇ!せっかく見舞いに来てやったってゆーのによ!』

『俺が誘ったのはノノハだけだっつーの!』

病院らしからぬ騒がしさだなぁと思わず笑ってしまいそうになる。この声はギャモンくんと、カイトくんにノノハくんか。
廊下の奥まで歩いていくと、銀のプレートに逆之上ミハルという文字。この部屋か、そう思って扉を開けようとする。と、その前に勝手に扉が開いて思わず一歩後ずさる。

「あ……」

「軸川先輩」

目の前にはカイトくんとノノハくんがいた。カイトくんが僕の名前を呼ぶと彼らの後ろからギャモンくんが顔を覗かせる。

「軸川先輩!来てくれたんすか」

ギャモンくんがぱっと顔を綻ばせる。それを見て僕も頬を緩めた。

「軸川先輩もお見舞いに?」

「ああ、うん。そうだよ」

ノノハくんが話しかけてきて僕は我に返る。ギャモンくんへ向けていた視線を思わずカイトくんたちへと戻した。

「おい、ノノハ。行くぞ」

僕とノノハくんが会話をし始めるとカイトくんは僕をすり抜けて廊下へ出ていった。
僕が彼を振り返ると、彼は軽く会釈してからそのままノノハくんを待たずに歩いて行ってしまった。

「あ、ちょっと、待ってよカイトー」

それを見てノノハくんが慌ててカイトくんを追いかける。こちらを振り返って礼をしてからぱたぱたと走って行った。

「……あ、先輩」

ギャモンくんが口を開いた。

「あの……あの、来てくれて、ありがとうございます」

「え、あ、いやぁ、そんなお礼なんて」

なんだか改まった感じが気恥ずかしくなって僕らは棒立ちのままたどたどしく言葉を交わす。

「あ、こ、これ。お見舞いに」

「え……うわ、こんなすげぇの……」

そういえばと両手の花束を思い出してギャモンくんに押し付けた。するとギャモンくんは申し訳なさそうにしていながらもきちんと受け取ってくれた。

「ありがとうございます」

「ううん。ギャモンくん、前にミハルちゃん花が好きだって言ってたじゃない」

目が覚めたら、喜んでくれるかな?
僕はそう言ってギャモンくんの背後にあるベッドを見やった。少し長めの黒髪の、小さくて可愛らしい少女がそこには横たわっていた。今は眠っているらしく、彼女の胸あたりにかかった白いシーツが規則正しく上下していた。

「…………」

「……ギャモンくん?」

僕の言葉に対して、ギャモンくんはみるみるうちに顔色を変えた。健康的な肌が一挙に青ざめていく。

「ギャモンくん?」

「……先輩……」

花束を抱えるギャモンくんの手が震えた。硬い動きで彼はミハルちゃんの方へ振り向きじっと彼女を見詰めて動かなくなった。

「先輩、どうしよ……」

「え」

ギャモンくんは僕の方は見ずにそのまま口を開いた。僕は彼の言葉が理解できずに聞き返す。

「ミハルは……ミハルが、もう……もう、ずっと、目を覚まさねぇんだ」

不安からだろうか、すがるものがないギャモンくんは抱えていた花束を抱き締めるようにしていた。がさ、とその音が少しだけやかましかった。
そしてこの時に僕は、ギャモンくんにどこか違和感を感じていた。

「前までは、結構元気だったのに……一週間くらい、前から……もう、ずっと。ずっと」

一週間くらい前。そういえば、ギャモンくんがツナグの話を聞いたのも一週間ほど前のことだ。
あの時に様子がおかしかったのはこのせいか。

「どうすりゃいいのか……俺」

僕が知っているギャモンくんというのは、いつも強くて格好よくて、それでいてどこか柔らかな甘い優しさを持った人だと思っていた。
僕にはあまり仲の良い友人がいない。昔から人と関わりを持たなかった。けれどギャモンくんは、そんな僕にも手を差し伸べるような、そしてこんな僕がその手を取りたくなるような人だったのだ。表面はどこか粗暴で口も悪い時があるけれど、その裏にはしっかりと誰かを思いやる温かさを持っている。そんな彼に僕は強く惹かれた。
けれど今の彼はどうだ、今にも何かに押し潰されて倒れてしまいそうになっている。見ているのが辛いくらいに、痛々しかった。

「ミハルも守れなかったら……俺、もう」

「ギャモンくん……」

僕にはどうすることもできなくてギャモンくんの背中にそっと手をやった。逞しい背中が頼りなさげにぎゅっと縮こまった。

「どうしよ……ミハル……ミハル……」

ギャモンくんは今にも泣き出してしまいそうだった。そして、ふと僕は感じていた違和感の正体に気づきはじめていた。

「親父なら……」

彼はどこか子供らしくなっている。口振りや態度を見ていると、なんだかいつもより子供じみていた。それが違和感、普段の彼なら絶対に見せまいとするような弱さや負の感情。それが抑えられないところまできてしまっているのだろうか。

「……え?」

僕が聞き返すと潤んだ銀鼠の瞳がこちらを捉えた。

「親父に……会いたい……」

その言葉に胸が痛くなる。が、僕には何もできない、何も、してやることは、できないのだ。
ギャモンくんはまたミハルちゃんに向き直る。

「どうすりゃいいんだよ」

堪らなくなって僕は手を伸ばした。けれどその指先がギャモンくんに触れる前に僕は固まってしまった。何て声をかけてやればいいのだろう。

「すんません……」

僕が黙って手を降ろすと、ギャモンくんが緩く頭を振った。

「ギャモンくん?」

「こういうこと言う柄じゃねぇのにな」

笑った。
ギャモンくんはこんな時にでも笑ってくれた。それがまた僕には酷で、黙って彼をベッドの脇に置かれた丸椅子に座らせた。僕も仕舞われたパイプ椅子を引っ張り出して彼の隣に座った。

「カイトとか」

「うん」

「ノノハにはよ……なんつーか、こんなとこ見せられないってゆーか、見せちゃいけないっつーか……」

確かに、僕がここに来る前はギャモンくんはそんな素振りは見せていなかっただろう。騒がしい元気な声が廊下まで届いていたし。

「でもなんか、先輩の前だと、つい……」

「え……!?」

思わず声が漏れた。弾かれるように隣を向いてしまった。
僕はこんな状況だというのに嬉しくなってしまったのだ。ギャモンくんは、僕に弱味を見せてくれるくらいには僕のことを信頼していてくれているようだ、ということに。
でも舞い上がると同時にまた僕は彼に対して申し訳なくなる。

「だから、なんつーか先輩には迷惑かけてばっかりすね」

ギャモンくんの手が花束の花びらに触れる。

「……この花、枯れる前にミハルが目覚めてくれればいいんだけどよ」

辛いのは、ギャモンくんの方だ。
それなのに僕は無性に泣きたくなった。
僕はずっと1人だった。人と関わることをどちらかといえば自分から避けてきた。そんな僕が、初めてこんなに大切だと思える人が出来た。それなのに。
僕は、彼に『嘘』をついているのだ。
彼はこんなにも僕と素直に向き合っているというのに。
僕はギャモンくんにそんなことないよ、と笑って見せた。それから、少し深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出した。

「ギャモンくん」

名前に反応して、ずっとミハルちゃんを見守っていたギャモンくんはこちらを向いてくれた。
お見舞いに持ってきた花束は未だ彼の腕の中に。オレンジの我慢強きガーベラは、皮肉にも今の彼によく似合っていた。

「君には、会いたい人がいるんだよね?」

誰、とは言わないがそれは互いによく分かっている。
僕は言わなくてはならない。逃げてはいけない。というよりも逃げたくないのだ。彼にだけは嘘をついていたくないし、自分が彼を助けられるのに見てみぬ振りをするのが嫌なのだ。
僕は嘘をついていた。
できることがない、そんなはずがなかった。
僕にはたった1つ、できることがあったんだ。

「会わせてあげられる」

「え?」

「君の会いたい人に」

「…………は?」

いきなり僕が話始めるとギャモンくんは中身を把握出来ていないようで訳の分からないといったような顔になる。まあ、そうだろう。だって彼が会いたい人というのは恐らくもう死んでしまった人なのだから。

「満月の見える晩」

僕がそう言うとギャモンくんははっと息を呑んだ。

「それ……一生に一回だけ、死んだ人間に会えるって……」

「そうだ」

「で、でもそれ……ただのうわさ、」

僕はギャモンくんの言葉を遮るように彼の手を取った。花の香りがする。
何も言わずにギャモンくんを見つめた。しばらく沈黙が続いた。

「僕なら出来る」

そしてしばらくの後、口を開く。
ギャモンくんの瞳が揺れた。まさか、と彼の口から小さく溢れた。
僕は、しっかりと頷いた。

「そうだ。僕は、ツナグだ」

ツナグ。それは死者と生者を引き合わせる案内人。いわば普通の人とは違う存在、異質、異端。僕はそれをずっと隠してきた。
けれど、そんなのもうやめだ。

「君の大事な人に、会わせてあげよう」

僕の大事な人のために。
僕は今日、全てを彼に打ち明けた。








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勢いで書いたから文章がおかしいけどそこは気にしないでもらえると嬉しいです、あといきなりパロとかすみません……。
実際映画の内容全然知りませんわ……でもあらすじをちょっと聞いてなんか書きたくなって……wwww

最近パロを書くのが好きなので個人的には楽しかったです、ちなみにあんまりこの話CP色強くはないですけどほんのりホモな感じで書きました。冒頭で軸川はギャモンのことを友人と形容してましたが普通に友人以上の目で見てますwwwギャモンの方は何よりも誰よりも頼れる先輩、恋ではないけど惹かれる存在ではある、みたいなwwww

中途半端なところで終わりましたが力尽きたのでここまでということで……!