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ソウジたちはビジネスホテルに入った。ソウジがてきぱきと仕切っていきギャモンがふと気付いた時には2人して部屋にいた。

「悪いけど、家には友人の家に泊まるって言ってあるから帰れなくて」

「だったら俺の家に来れば良かったのに」

考えなしに口にするギャモンへソウジは制すように視線を送った。彼らはそれぞれのベッド
に腰掛ける。

「……聞いてもいいかい」

ソウジはゆっくりとギャモンに向かって話し掛けた。ギャモンは、何を、と言いたげにただ視線をやる。

「どうしてあんなところにいたの」

ホテル特有の柔らかい光とは裏腹に部屋の空気はどこか張り詰めていて息をするのが少し億劫だった。

「どうしてって……欲しいもの、くれるから」

「欲しいものって何」

いつもと様子の違うソウジを訝しそうに見ながらギャモンは答える。しかしすぐに次を要求された。

「……あったかくて、幸せになれる物だよ」

渋々ギャモンが口を開くとソウジは俯いて動かなくなった。ぶるぶると肩が震えている。ギャモンは眉を寄せた。

「いつから」

「……え?」

「いつからこんなことしてるの」

「はっさいですね」

ソウジの問いにギャモンは淡々と答えていく。見るとソウジの身体は指先まで震えていた。ギャモンは目を逸らした。
嫌な沈黙が流れた。
ギャモンはソウジを置いて帰ろうかとも思ったのだが、この沈黙の中で行動を起こすのは憚られた。
じっと黙ったままでいるとソウジが顔を上げた。ギャモンを見つめた後、彼は腰掛けたベッドから立ち上がった。数歩進めばすぐにギャモンの目の前まで迫る。なんだ、とギャモンがソウジを見上げた。が、次の瞬間に彼はベッドシーツに倒れ込んでいた。そして遅れてやってくる頬の衝撃。

「何すんだよ!」

殴られた。そこまで痛みを感じた訳ではなかったのだが殴られたということに納得がいかなくて声を荒げるのだがソウジは有無を言わさずにギャモンの肩を掴み押さえ込もうとする。

「そんなに好きなの」

「は?」

ただならぬ雰囲気に思わずギャモンの抵抗の手が止まった。
ソウジの顔が至近距離にまで迫った。

「そんなに好きなら僕がしてあげる」

それは頑なな子供のような響きだった。
ソウジは状況の読めないギャモンへ口付けた。
柔らかな感触に泣きたくなった。彼は思ったのだ、こんな形でキスをしたくはなかったな、と。
しかしそれでも甘くて魅惑的で背筋をなぶられるような快感に夢中になるのもまた確かであった。
一方ギャモンはいきなり唇を奪われたことにまた戸惑っていた。今日の先輩はどこかおかしい、なんでだ。今すぐ突き飛ばしてやめさせてやろうかと思ったのだが、あまりに必死なソウジを見て、やめた。ギャモンは彼を享受した。緩く口を開けると恐る恐る、しかし自制が出来ないのか焦ったように舌が割り込んでくる。
下手だなぁ、とギャモンは笑った。いや一般的にそこまで下手だとは言えないのかもしれないのだが、如何せんあまり慣れていないというのが分かってしまうようなたどたどしい舌使いだった。ギャモンが今まで相手にしてきた男は誰も彼もが上手くて手慣れていた、だからどうしてもそれと比べてしまう。
酸素が足りなくなってソウジが唇を離した。ギャモンは口を手の甲で乱暴に拭いわざとらしく口端を上げて見せた。

「なんだよ、あんたも欲求不満?」

「っ……はぁ……」

少しだけソウジの呼吸が乱れている。対してギャモンは涼しい表情だ。

「でも、あんたとはヤれない」

ソウジの顔が険しくなる。

「どうして」

整いきらぬ呼吸のままソウジはギャモンに掴みかかった。

「どうして!僕だって……僕だって!」

貪るように夢中でギャモンのライダースに手を掛ける。そのわりに覚束ない手付きでジッパーを中ほどまで下げたところでギャモンがソウジに向かって問うた。

「……あんた、なんか今日おかしい」

「………………」

はっとソウジは手を止めた。弾かれるように顔を上げる、2人は見つめ合った。
何か言おうとソウジは口を開くのだが、出てこない。言いたいことがあるのだが言葉にならない。
その内にギャモンの方が先に声を発した。

「まあ、いいけどよ」

そうして彼は視線を外した。

「とにかく、あんたは駄目だ。だって、俺の欲しいもん持ってねぇから」

そこでソウジは思わずえ、と声を上げた。するとその反応が可笑しかったのかギャモンはふっと息を漏らした。

「もしかして、コレだと思ったのかよ」

徐にギャモンの手が伸ばされソウジの下半身へ添えられた。スラックスの上から密かに起ち上がった性器をなぞる。刹那、ソウジの顔が恥辱の色に染まった。

「ちげぇよ」

自然と口から吐かれる重いため息。薄暗い室内に、危うい体勢の2人。ギャモンはそんな状況が堪らなく萎えてしまって仕方がなかった。欲しているものがここにないだけでこんなにもモチベーションが下がってしまうなんて。
未だ微妙な顔付きで赤面しているソウジを押し退けるとベッドから立ちジッパーを上げた。

「俺が欲しいのはそんなんじゃないんで」

ベッドの上に残るソウジを置いてギャモンは帰ろうと思いドアを目指す。ポケットに手を突っ込んだ。
すると手に何かの感触。こんなところに物でも入れていたかと思いながら確認しようとその何かを取り出してみる。触った感じからこれは薄っぺらい紙のようだと分かる。

「あ…………」

見てみると、それは確かに紙切れだった。二つ折りにされた白い紙切れ。しかしそれだけではない。開いてみるとそこには黒字で名前と連絡先らしきものが書いてある。それと、その紙の中に綺麗に折られた一万円札があった。
ギャモンは連絡先の書かれた白い紙切れを放り、小さめに折られた札を丁寧に開いた。ぱん、としっかり広げてそれを掲げる。

「はは、何だよアイツ……前金のつもりか。いつのまに入れたんだよ」

折り目のついた一万円札はそれはそれはギャモンにとっては美しく思えた。ざら、とした独特の肌触りにぞくぞくとした。内側から吹き上がるこの感覚、これは間違いなく幸福だ。
その場に彼と共に居たソウジは、この時の彼の顔を一生忘れないと思った。
この瞬間に初めて、ソウジはギャモンの年相応の笑顔を見たような気がした。いつも斜に構えたような、一歩引いたような笑みを浮かべている訳でもない。心の底から喜びを表したような笑顔だった。
一頻り札を眺めてから今度はそれを近くまで寄せる。うっとりとぺらぺらの薄い紙一枚を見つめる彼の姿はソウジの目にはなかなか滑稽に映った。ソウジはゆっくりとベッドから降りる。

「ギャモンくん……」

思いきって声をかけてみるが反応はない。今のギャモンには何も見えていないようだ。
ついに彼は札に頬擦りまでし始めた。まるで母の香りの残る衣服に頬を擦りつけ寂しさを紛らわす幼子のようなそれに、ソウジはどうにも見ていられなくなって彼の足元に落ちていた白い紙切れを拾った。

「ギャモンくん、僕ねぇ」

見慣れない男の名前、恐らく先程ネオン街でギャモンと歩いていた男のものかと思い至る。
手の中でかさこそと遊ばせてからソウジはそれを力いっぱい握り潰した。くしゃ、と音が聞こえて丸まった紙を床に叩きつけた。今度は足で踏みつけた。
今日の先輩は何かおかしい、ギャモンの言葉が脳内を駆け巡った。

「ギャモンくんのことが好きなんだよ」

こんなにも取り乱してしまうのは君のせいなのに。
しかしその想いも言葉も彼の元へは一切届くことはなかった。










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すごく勢いで書いてしまいました……楽しくって……。
ビッチなギャモンくん書くの楽しすぎて気付いたら軸川が恐ろしく童貞みたいになりましたよね、下手くそかwwwwww
もしも続くならとりあえずモブさんがでしゃばる予感がそこはかとなく…wwwモブvs軸川、的な?

今はソウ→→→ギャみたいですが私の頭のなかでは最終的にソウギャになって完結してます……一応、一応ね!ハッピーエンドになってますwwwww