くるくる、すとん title by 惑星


どこの純真な子供だと思われるかもしれないが、魔法使いは本当にいるのだと思う。
ふと、アナが手を上げて踊るように人差し指を振った。まるで魔法の杖を振っているかのようだった。

「くるくるー」

その言葉どおりに、アナが指を宙でくるくると回し始める。そうしてそれは流れるように、誘われるように俺の方へと導かれる。

「すとん!」

ぴたり、と指が俺の胸元で止まった。何だと思っているとちょうど顔を上げたアナと目が合った。アナの瞳がゆっくりと弧を描いていく。ゆるやかな笑み。示された胸のなかで何かが沸き起こる。

「大好き」

一瞬にして周りの空気に溶けだしてしまったその言葉は、けれどしかと俺の元に届いた。アナの言うとおりだ。身体の中のありとあらゆる所を駆け巡り、そうして終いにはすとんと胸の奥のところへ収まった。不思議だ、はじめからそこにあったかのようにそれは心地が良い。

「ギャモンは?」

名前を呼ばれて我に返る。どうしてか身体が固まっていて動かそうにも辛うじて指先が小さく震えるのみだ。代わりに頬が熱くなって頭がぼうっとしてきた。そのせいで思考が鈍ったのか自分自身が何を考えているか分からない。しかし、見えない力に突き動かされるかのように口が自然と開いた。

「……おう、俺も」

好き。
それを聞いてアナが嬉しそうに両手を広げた。思いきり抱きつかれて少し苦しい。ずいぶんと恥ずかしいことを言ってしまった、そんな気がする。

「良かった」

でも心底ほっとしたような、はりつめていた後の安堵のため息のようなそんな響きが聞こえてきて恥ずかしいだとかちょっと苦しいとかそんなことどうでもよくなった。
控え目ながらもアナの背中に手を回してやるとぎゅっとアナの手に力が込められた。ああ、やっぱちょっと苦しい(だってこいつも男だ、それなりに力は強い)。

「アナにもちゃんと届いたよ」

アナが俺の胸元に埋めていた顔を上げる、ああ、この顔を見るとどうも俺は駄目になってしまうらしい。

「くるくる、すとん」

その一言でこんなにも素直になる。それは正しく、1つの魔法なんだと思う。








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