モブホイネタ



男ははあ、と熱の籠った息を吐いた。何故だろう、何故こうも格好良いのだろう。と男は制服を身に纏ったホイストの後ろ姿を見詰めた。

「今日もかっけぇっす、ホイストさん」

気持ちが溢れだして思わずそれは口から出た。すると男の言葉に反応したホイストが振り返って彼はため息をついた。男のそれとは違い、どこか冷めている。

「あなたはそれしか知らないのですか」

「それ、っすか?」

「毎度毎度、今日もかっけぇっすホイストさん、と仰っていますがあなたの頭にはその言葉しか存在していないのでしょうか」

「はい、そりゃあもちろん!ホイストさん、かっけぇっす!!」

男は屈託なく笑ってホイストをお決まりの言葉で褒めた。呑気な彼にホイストはまた知れずため息を溢す。嫌味だったのに。男にはそれが通じなかった。

「大体、あなたには主人に仕え支える身としての自覚が欠落していると思われます」

ホイストは至極にこやかにそしてさらりとそう言った。何を言っても堪えない男にむきになっているなどと間違っても思われたくはないからだ。

「まずはその言葉遣いと、派手な髪を改めたら如何でしょう」

男は見るからに派手だった。髪は金に染め上げられており寝癖なのか何なのか、無造作に跳ねている。ホイストと同じ制服に身を包んでいながらも印象はまるで違った。
そしてホイストは少々この男が苦手だった。なんというか、ホイストから見てみればこの男は異質すぎたのだ。図体がでかいわりに脳味噌が小さい、男の単純明快な思考回路は何とも愚かしくて好きではあったが、それに反してこちらの予測不能な突拍子のない奇行に走ったりする。そういう理解しがたいものはあまり好かない、それがホイストの性格だった。

「えー、でも。フリーセルさんたちは別に直さなくていいって」

拗ねた子供のように言い訳を述べる男にホイストは内心呆れた。
フリーセルたちは、基本この男に甘い。始めに何度教育しても改善されなかったため仕方なくはあるものの、言葉遣いだって今さら急にお前が改まった口調になったら気持ち悪いということで容認されているし頭髪も同様だ。まあ確かにホイストだってある日突然、男が自分のような容姿で礼儀正しく接してきたら戸惑うだろうとは思う。思うのだが、いやそれにしたって。

「……それに甘んじるのはどうかと思いますが」

あくまでも男への否定の体を崩さずにいると、さすがに彼も気付いたのか自分の毛先を摘まみくりくりといじり始めた。

「……そんなに駄目っすかね」

「そんなに駄目っす、と思われます」

男の言葉をそのまま繰り返してやると彼は項垂れてしまった。そんなにはっきり言わなくてもと小声で言うのが聞こえたので、ホイストは本当のことですからと言い切った。
男がホイストを見上げた。なんとも惨めな、と言えばいいのか。なんというか、男は溢れてしまいそうな涙を必死に堪えているような顔をしていた。いい年してどこの子供ですかと言葉には出さないがホイストは胸中で呟いた。

「俺もホイストさんみたいにすればかっこよくなれますか」

そう言われてホイストは気がなさそうに首を振った。

「何も私のようにしなくても」

例えば髪を黒く染めるだとか、制服のボタンを閉めるだとか。
やり方は色々とあるでしょうと言いつつホイストは仕事に戻る。
そんなホイストの姿を眺め男は彼に向かって手を伸ばした。

「でもほら、こんな感じに髪型もさっぱりさせて……」

「っ!!」

さっぱりとしたホイストの後ろ髪に手を這わせる。すると男の指先が触れた瞬間にびくりと盛大に肩を震わせたホイストが目にも止まらぬ速さで男の手を叩き落とした。

「………………」

「………………」

振り返ったホイストの冷ややかな視線と男の呆然としたような視線が絡む。
沈黙は長かった。

「触らないでいただけますか」

寒いぼが立ちそうだとホイストは首筋を手で擦った。
そんな様子もぼうっと眺めるだけだった男がふとした瞬間に瞳に光を宿し始める。
何だか嫌な予感がする。

「ホイストさんて敏感なんすか」

何を言うのかと思えば。
男は目をかっと見開いて何か希望に満ち溢れたような表情でホイストを見上げている。ホイストがそれとなく顔を逸らすと男はしつこく回り込んで顔を覗き込んできた。嫌になるくらい彼は生き生きとしていた。

「ねぇ、ホイストさん。ねぇ、ねぇ!そうっすよね、ね!」

「無駄口を叩く暇があるのでしたら業務に戻った方がよろしいかと」

「ほらそうやって話逸らす!図星なんすか、そうなんすね!?」

嬉しそうに男はホイストに触れようと手を伸ばしてくる。それらをホイストはぱちんと片手で叩き倒した。しかし男は何度あしらわれても表情が変わらない。やはり予測不能だ、ホイストは男の笑顔を見て呆れ返った。

「ホイストさん!」

「いい加減にしてください」

「へへへ」

ついにはホイストの冷たい言葉にも喜ぶ始末だ。ホイストが本日何度目かのため息を吐く。するとその隙を狙ったかのようなタイミングで男がホイストの腰にダイブした。

「なっ!」

がっちりとホールドされて平静を装っていたホイストも思わず声をあげた。
ぐり、と男の頭が腰にすり寄せられる。

「ホイストさん、かっけぇっす」

男が小さく呟く。
それからまた間をあけて口を開いた。

「でも、それとおんなじくらい、ホイストさんかわいいっす!」

今日、男がホイストを褒める常套句にレパートリーが増えた。それが良いことなのかは分からないが。

「かっこよくってかわいくって、大好きっすホイストさん!」

衝撃でほんの少しずれた眼鏡を直すと、いかにも幸せそうな男の顔が見えた。
妙な人物に好かれたものだとホイストはその顔を見て思うのだった。









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みんなもっとモブホイ書こうよ!
モブホイ増やそうよ!つかホイスト受け増やそうよ!
モブダイに引き続き自給自足シリーズ(笑)ですwwwwww

ホイストさんへの想いを詰め込んだらこうなった。攻めがアホでわんこな感じとかすごく私得wwwwwww
ホイストさんを一目見た時から私の心は決まっていた…。ホイスト受けは……うまい!と。