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まず、『誰かの称号を授かるということはその誰かと何かしら通ずるものがある』ということ。まあこれは全てを語る前の前提だな。俺はこの前提を受け、その何かしらというのは常々当たり前のように『能力』だと思っていた。俺はもともとどの分野も人より抜きん出ていたが、殊に数学と地学は飛び抜けていた。ガリレオガリレイといえば数学物理学に天文力学、まさしく俺に相応しい称号だとそう考えていた。
だが先輩からすればそうではないのだろう。恐らく、称号を授けるということは『その人物を象徴する名を授ける』ということ。俺の場合でいえば、俺という人間の在り方を具体的、明確に表すのならガリレオ、というように。そのままの意味で理解されると困るが、細かい概念や定義を無視して単なるイメージとしてなら一番単純明快な言葉は生まれ変わり、というのが伝わりやすいか。
俺はただ単に能力のシンクロを称号として見ていたわけだが、先輩は能力を称号たるものの中の一部としてしか見ていなかったというわけだ。つまりは、ガリレオのような人間はガリレオの能力を持っていて当然だ、ということ。
まあ、先輩がどこまで考えているのかは分からないが、称号を与えられる人物と称号自体の人間の在り方がシンクロしているのなら、またその人間の辿る道も自ずとシンクロしていくと考えているに違いない。それは先輩の口振りから見て明らかだ。だから先輩はこれを決められたこと、『運命』と形容したのだろうということが想像できる。
そして、やっとここで俺が気付いたことというのが関係してくる。
先輩は俺がこういう考えが嫌いだから、だから話をした。間違っちゃいない。俺は嫌いだ。だが俺はここで疑問に思ったわけだ。そう、『先輩自身はどうか』、ということ。
無論、話をした当事者であるから既にもう俺と反対意見だというのは明らかだ。しかし俺が気になるのはその先で、運命だなんだと決められた筋道に沿って生きていくのが嫌だと俺は思うからこそ先輩の話を客観的に受け流せるし否定することができるわけだが、運命と形容した当事者であるあの人は自分の論を客観的に見た時に何を思うのだろう。
俺の疑問は、あの天才の真意だ。
ニュートンは神の存在を固く信じていたそうだ。たしか彼の代表的な万有引力の法則も神の働きかけにより発見できたと語っていると何かの文献で読んだ気がする。この世界は神の支配により成り立っている、という考えと先輩の言う称号持ちの辿る『運命』の考えは通ずるものがあるということに気付いた時に、先輩はいったい何を思うのか。いや、あの人のことだからもうとっくにここは通りすぎたはずだ。
気付いても尚、否定できない自分自身をどう思ったのか。
ここまで組み上げた想像を踏まえると、俺は先輩が言っていた『愚痴』というのはオルペウスの契約者であるカイトへの嫉妬だと軽く片付けていたが、実はそれは早まった見解かもしれない。先輩が抱えていたのは嫉妬ではなく、嫉妬のその先にあるものなのかもしれない。どこか違う、と思ったあの感覚は間違っていなかった。
『称号持ちは称号による運命が決められている』という軸川先輩の論を仮説を立てる上での前提として進めていくと 、そうすると『アインシュタインであるカイトにも決められた運命』が存在することになる。そうなれば俺の生い立ちを先輩が運命と指したように、カイトの行動の一つーつが決められたことであり『カイトがオルペウスと契約した』という事態もまた『称号による決められた運命』と言えることになるわけだ。
ここまでくると飛躍のしすぎかもしれないが今はこれでいい。仮にこの論法を正しいものとして突き通して想像していくと、最終的にある一つの見解に至る。本当に正しいかどうかは今のところ分からないが。
もしかしたら。軸川先輩は、自分自身の称号を…。
と、そこまで考えたところで、

「おーい、何やってんだよ」

不意に下方から声が聞こえた。振り向けばいつの間にか色付いていた夕日が視界に飛び込んできて眩しさに顔を背ける。そのまま夕日を避けて下を向けばちょうど屋上の俺の位置の真下あたりにぶすっとした顔のカイトがこちらを見上げていた。先輩と話していた時に見た時点ではノノハたちがいたはずだが今はカイト1人だった。

「お前、まだ帰んねぇのかよ」

「…お前にゃ関係ねーだろ、バカーイト」

「ああ!?何だとアホギャモン!!」

バカ面のくせして、この俺様を阿呆呼ばわりかあの馬鹿は。

「聞こえなかったか?今度は耳元で言ってやるからそこで待ってろバカイト!」

「はっ、待つわけねぇだろこのアホギャモン!」

俺は下に向かって叫ぶとカイトの喚く声を聞きながら屋上を後にする。あいつのことだ、あんなこと言いながらなんだかんだ言ってあそこで待っているに違いない。本当に馬鹿だな、全くもって。
ああいつもの調子が戻ってきたなと思ったところで俺は今までらしくないことを考えていたことに気付き自分自身に呆れた。だって金にならないことに頭を使うこと自体が考えられないことだ。
踊り場の上で立ち止まる。でも、と面倒臭いとは思いながらも思考が働いていくのを止められない。
学園の生徒会長であり学才にも恵まれた、生涯に数々の栄誉に輝いたニュートンの称号を持つあの人が。お前の背を見て何を思たのか、俺の至った見解を話したらあのバカイトはいったいどんな顔をするのか。なんて。
俺が冷めている、という軸川先輩の想像と俺自身の自己分析は間違っていたのかもしれない。
面倒臭いと思いつつも、俺は無性に気になり始めていた。先輩の真意、そしてそこに行き着くまでに見えてくるであろう数々のものが。
なんか、もしかしたら俺がいちばん熱い奴なんじゃないかと思い更にそこで自分にうんざりした。先輩の話を聞いたのがそもそもの失敗か。
この面倒臭い性格はガリレオの人柄の良さのせいなのかと余計なことを考えているだなんて、さっそく先輩の話に流されているようだった。どうにも気にくわない。ため息を吐いて首を振る。
あの人は確かに俺が面倒を嫌がる性格だってのも知っていて「こういうのが嫌いだと思った」と言ったはずだ。だが今になると、なんというか上手く言えないがあの人に焚き付けられたような気がしてならない。あの人が本当は何を思っているのか。解いてみなよ、とあの会話の裏で先輩はそう言っていたんしゃないか。…まあそんなのは、それこそ俺の単なる想像であり、こんな風に面倒ごとに首を突っ込むなんて俺らしくもねぇ!という主観がばりばりに入った無茶苦茶な見解なのだが。
それでも気になっちまったものは仕方ない。突き詰められるところまでやってみるかと思う。この俺様に解けないものがあるというのは自分自身納得いかねぇしムカつくんだよと、俺は開き直ることにする。だが、その前にとりあえず。アインシュタインのくせしててんでユーモアセンスのねぇ馬鹿の面を拝みに行かねぇとな。
そうして俺は下で待っているであろうカイトをからかうために一階を目指し階段を駆け降りた。










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謎すぎてすみません。そして完結してないので気が向いたら続きます。
ギャモンくんに妹がいたりお金に執着してんのはガリレオだからかなぁと考えた結果こんな話になった。
称号とかガリレオだとかニュートンだとかって考えると色々と思うところがあるよね、ってこと…か、な…。でももしスタッフが忠実にギャモンくんをガリレオにしようとしたらギャモンくんが軟禁されてしまうのでちょっとあり得ないのかな。いや見たいけどね、軟禁プレイ(笑

※加筆修正する可能性があります