背伸びしなきゃキスも出来ない title by 惑星


「情けねぇよ。俺は、俺が」

半ばやけくそのようにカイトが吐き捨てた。その言葉にギャモンはせせら笑った。

「ははは、今頃気付きやがったのかよ」

珍しくカイトが何かに落ち込んでいる。それが面白くてギャモンは食堂のソファに座り込んでいるカイトの方へ近づいた。

「ネギも食えないような弱っちい男が、情けなくない訳がねぇよな?」

「……食えなくて悪かったな」

そんなやり取りをして、そして嬉々としてカイトの顔を覗き込むと意外にも予想以上にしょぼくれた顔をしていたのでギャモンはぎょっとする。もしかして案外深刻な問題なのか、となんだか急に不安になった(のだが素直に心配などできるはずもない)彼は思う存分からかってやろうと思っていたのを急きょ変更して視線をあちこちへさ迷わせながら彼ができる精一杯の然り気無さとやらをかき集めて口を開いた。

「そ、それで?……情けないって、何が、だよ」

本人は、よし、めちゃくちゃ然り気無い!俺って天才!とでも言うくらいに上手く聞けたと思っているのだが端から見ればなかなか酷いものだ。しかし幸いなことに今のカイトはいちいちそんなことを気にすることもできないようでため息をつきながらソファから立ち上がった。

「立って」

カイトが座っていたソファの背凭れに腕を組み体を預けていたギャモンにカイトがそう要求した。なんだか明らかに覇気のないカイトが真面目に心配になってきたギャモンは特に反抗もせずその場に直立した。

「ほらな」

ギャモンが立ったのを確認するとカイトは彼を見上げてまたため息をついた。それからギャモンに近寄り背伸びした。そしてさも当たり前かのようにギャモンの唇を奪った。

「な……かかかか、カイト……!?」

全くもって予測していなかった行動にギャモンは狼狽えてただ口を開閉させる。
カイトは落ち込んだように首を振った。

「背伸びしなきゃ、お前にキスもできねぇなんて。情けないよな」

その言葉にギャモンは瞠目した。なんということだ。カイトはそんなしょうもないことで悩んでいたのか。そんな小さなことで、思わずこちらが心配してしまうほどに。

「あ……お、おまえ……うぐ……」

言葉が出てこない。何か言った方がいいと分かっているのに。
悩みの渦中は紛れもない自分。
その事実にどうしようもなく恥ずかしくなってしまったギャモンは、突然の体温の上昇により熱くなってしまった回らない頭を使い考え、そして冷静になる前に勢いだけで叫んだ。

「だ、だったら……お、俺からすりゃいーだけの話だろ馬鹿野郎!!」

どこか的外れな発言にカイトは呆気に取られながらもぼそりと呟いた。

「いや、それ俺の悩みの解決になってねぇし」

「ううううるせえ!とにかくもう、そんなしょうもないことで悩んでんじゃねぇバカイト!!」

吠えるようにそう言ったギャモンに対し、彼を見上げていたカイトはようやく笑顔を見せた。それから小さな声で分かったと言った。その言葉を聞いてああやっといつもの調子に戻ってきたと安心しギャモンの火照った頬の熱が徐々に冷めていった。
しかしながら、いつもの調子に戻ってきたカイトはそれだけでは終わらなかった。

「じゃあ、頼むぜ?」

顔をギャモンに向けて突き出しながら最後に言ったその言葉は何を期待してのことなのか。それをギャモンが理解した時、自分の勢いだけの発言を深く後悔するのであった。







過去拍手2012/05/29〜2012/06/30