面白いくらい単純な君 title by 揺らぎ


それはまだ、彼がPOGに入って間もなくの話だった。

「次はこの廊下ですよ」

今日は天気がいいですね、とでもいうような調子でビショップは果てしなく長い廊下を指してギャモンにバケツと雑巾を差し出した。ギャモンは黙ってそれらを受け取り雑巾を水の入ったバケツに浸すと渾身の力で雑巾をビショップ目掛けて投げつけた。しかしビショップは難なくそれを交わす。悔しそうにギャモンが唸り声を上げた。

「うがーーっ!!いつまで雑用やらせるつもりだおっさん!!」

ばんばんと長い脚で地団駄を踏むギャモンに対しビショップは静かに息をつく。

「これくらいのことも我慢出来ないのなら、POGではやっていけませんよ」

「つうかよ、これホントにPOGに入った奴ら全員やったのかよ!雑巾掛けとかその他雑用とか……こんな古寺の修行みてぇなの」

「ええ、やりましたよ」

しれっとした顔でビショップが答える。いや、勿論POGに入ったらまずは雑用だとかそんなの嘘に決まっているのだが。

「お前も?」

「ええ、勿論」

疑うようなギャモンの視線をビショップは微笑みで返した。しばらく胡散臭そうにギャモンが睨み付けるがやがて黙ってしゃがみこんでだるそうに雑巾を絞り始めた。
ふふ、と声を殺してビショップが笑った。ギャモンが顔を上げる。

「なんだよ」

「いえ、なんでも」

「いま笑ってただろうがよ!」

「笑ってません」

「笑った!」

そうやってむきになるギャモンがどうにも可笑しくてビショップは知らずまたふっと笑みを溢してしまう。あ、しまったと思うより先にギャモンが「ほらな」と言ってそっぽを向く。

「まったく…早くカイトを倒すパズルを考えたいってのに、なんでこんなこと…」

どうやら拗ねてしまったようで、まったく本当に単純な性格だとビショップは改めて思った。これで巧妙なパズルを作る才能があるだなんて、とんだギャップもあるものだ。

「大丈夫ですよ」

「あ?」

「あなたなら大門カイトを倒すことなんて難のことはないでしょう」

別に何の確証もないがギャモンを持ち上げるようなことをわざと言ってみる。
するとギャモンは一瞬だけ意外そうな顔をしてから満更でもなさそうに口の端を持ち上げた。

「へっ、そりゃあもちろん?俺様の手にかかれば!大門カイトだなんてネギ嫌いはすぐに倒せちまうけどなぁ!」

雑巾を握り締めて高らかにそう宣言するギャモン。それを見てビショップはまた洩れそうになる笑い声を堪えようと然り気無く片手を口元に添えた。
彼はまったく、どれだけ予想通りの反応をしてくれるのだとビショップは彼とのやりとりが楽しくて堪らなかった。
もしも今、こうしてさせている雑用の全てがビショップの嘘だとギャモンに言えばどんな反応をするのだろうか。まあ、ビショップからしてみればどこまでも単純な彼のことだから見せる反応は1つだろうが。

「これが終わったら、教えてあげますよ」

「あ?何を?」

「ふふ、いえ。何でも」

ああ、楽しみ。
子供のように喚き立てて顔を真っ赤にして怒り詰め寄るその姿を見るのが。
ビショップはそんなギャモンの姿を思い浮かべつつ、長い長い廊下を雑巾を掛けて走っていく彼の後ろ姿を見送った。







過去拍手 2012/04/29〜2012/05/29