告白の日々


『好きなんだけど』

どうしよう。どうしよう。どうしよう。
ずっと頭からあの声とあの言葉が離れない。どうすればいいんだ。
簡潔に言うのなら、告白された。これだろう。
でもどうすればいい、初めて言われた時は馬鹿言うなと突っぱねたものの。それからというもの毎日のようにあの声とあの言葉を振り掛けられる。
その度に答えに詰まった。
この告白の日々に、なんて答えてやればいいんだろうか。

「お前のそういう素直じゃねぇところが好き」

大門カイトにはどこか余裕が見えていた。
さらりとその台詞を吐くと薄ら笑みを浮かべて逆之上ギャモンを凝視する。
対してギャモンは表にはあまり見せないようにと努めつつも内心では焦りの表情であった。

「……そーかよ」

それだけ言うのにひどく労力を使った。
先程のカイトの台詞が出てくるまでは何事もなく言い合いをしていたというのに。

「じゃあな」

カイトがその場を後にする。笑いを堪えていた。どうやらギャモンのポーカーフェイスは無駄だったようだ。天才テラスは貸し切りになった。
ああ、とギャモンはため息をついた。今日もか、とカイトの言葉を頭の中で再生する。

『お前のそういう素直じゃねぇところが好き』

今日はこれ。

『生意気で、でもずっと見てたら呑み込まれちまいそうな目が好きだ』

昨日が、これ。

『恥ずかしくなるとすぐに真っ赤になる頬が好き』

その前は、これ。
好き、好き、好き。いつからか始まったそれは毎日続いていた。

「なんなんだろうな…」

ここまでくるともうギャモンはカイトが自分のことを恋愛感情的に言うところの好きなのだということには気付いていたしもうそこに驚くこともなくなった。そりゃあ最初に言われた時は驚いたし何の冗談だと思ったりもしたが。
今はカイトの言葉にどう答えてやるか、そこに悩んでいる。
カイトはさんざ好き勝手に顔を覆いたくなるような恥ずかしいことを言っておいてギャモンの言葉も待たずに話題を変えたりその場からいなくなったりする。困ったものだ。カイトは返事を求めたりしない、最初の1回を除いては。
初めはただの好きだった。

「お前が好きなんだけど」

それだけだった。そう言われてギャモンは固まった。なにせ、顔を付き合わせれば喧嘩が常であるいわば犬猿のような中である相手から告白を受けたのだから。

「お前は」

と返事を求められ、あの時ギャモンはカイトを突っぱねた。馬鹿言うな、冗談はやめろと。するとカイトは怒るでもなく、傷付くでもなくふうんと納得したように頷いて去っていった。その反応に本当に冗談だったのかよとギャモンは思っていたのだが次の日もそのまた次の日も一言だけの告白をされ続けることになる。
あそこでまともな返事をしなかった自分が悪いのかとギャモンは苛ついたように脚を組んだ。
カイトのことが好きかと問われれば、好き、だと思う。確かにむかつく奴で喧嘩が絶えない相手だが、だって嫌いじゃあない。だが恋愛感情的に好きかと問われると、分からない、と答えたくなる。まあ要するにどっち付かず。曖昧。自分自身ですら判断に迷うくらいのもやもやとしたとらえどころのない感情。
でもこの心臓に悪い毎日をなんとかして終わらせねば、自分の方がどうにかなってしまいそうだ。

「髪」

次の日はこれだった。ギャモンは身構える。いつもの口喧嘩が長引いていたら、気付けば教室には2人だけだった。

「真っ赤で眩しい髪が好き」

来た。好き。昨日は素直じゃないところで、今日は髪。いつまで続けるつもりだとギャモンは思った。それにカイトはいつも突然だ。普段は生意気でむかつく奴なのに。けれど彼は決めていた。
今日こそは、ただ焦ってまともに返せぬだけでは済まさないと。
ギャモンは顔を上げてカイトを見つめた。カイトが意外そうに目を丸くしている。

「っ、俺は!」

ギャモンは口を開いた。思ったよりも大きな声が出て恥ずかしくなる。

「俺は……その、」

どきりどきりと大袈裟に刻んでいく鼓動が邪魔をする。まともに喋れない。

「……なんだよ」

いつもは言うだけ言ってギャモンをほったらかしにしていたカイトが珍しくギャモンの言葉を拾い上げた。だがこれでギャモンは逃げられなくなった。こうなれば何かしら吐き出すしかあるまい。

「……俺はな、お前のその、髪、も…」

何だかこれからとんでもなく恥ずかしいことを口走ってしまうんじゃないかとじわじわ頬が熱くなる。逆上せそうだ。

「ば、ばか正直なとこも…前しか見てねぇ、目も…。その、なんだ、あー、なんつーか」

「うん」

「だ、だからよぉ…」

「おう」

カイトはただただ相槌を打つのみだ。でも暗に先を促している。ギャモンは口をもごもごと動かし引き結んだ。先が出てこない。
本当に逆上せてしまったのだろうか、熱くて思考力が鈍る。言葉も何も浮かんでこない。
見かねたカイトが、ゆっくりと口を開いた。

「お前は、どう思ってんの」

その言葉にギャモンはごく、と唾を飲み込んだ。

「……わ、かんねぇ」

真っ直ぐなカイトの目に押し出されるようにギャモンが言葉を捻り出す。

「お前のことなんか分かんねぇよ。馬鹿だし、パズル馬鹿だし、ほんとに……バカイトだしよ。き、嫌いじゃねぇけど!でもいきなり好きなんて言われても返せる訳もねぇ。でも、でも。てめぇの、その、髪も目も声も言葉も、全部。頭から離れねぇし、忘れたくとも忘れられねぇ、し…」

途中から自分自身、何を言っているのか分からなくなっていた。それでも勝手に出てくる言葉にギャモンはもう身を任せていた。
ギャモンの話をカイトは黙って聞いていた。急に言葉の勢いが失速して黙りこんでしまってからもしばらく何も言わずに彼の方を見つめていた。

「好きかどうかなんて分かるかよ、バカイト」

最後に苦し紛れにギャモンがそう吐き捨てた。恥ずかしくなるとすぐに赤く染まる頬だが、今は頬だけには止まらず目許にまで恥じらいの赤が差していた。
余裕そうに構えていたカイトも、これにはふと噴き出した。え、とギャモンが彼を見た。

「お前のそういう可愛いとこ、好き」

カイトの口からそう自然と溢れていき、それを聞いたギャモンは肩を縮こまらせて驚愕の表情を浮かべる。

「か、かわっ…!?」

がたんと椅子が音を立てた。ギャモンがのけ反る。

「普段はぴんとしてんのに慌てると震えて上擦る声も好き」

「な、なんで…いつも、いっこだけな、くせに!」

「意外に俺より白くて、綺麗な肌も好き」

カイトは机越しにいるギャモンに迫った。

「よ、寄んな!馬鹿!」

「ペンだこあるけど細くて長い手も好きだ」

「さ、わんなよ!」

腕を掴まれて振り払おうとするもカイトはしっかりとギャモンの手首を握った。力を入れて引き寄せるとあっという間に互いの顔が近付いてギャモンはうっと喉をひきつらせた。

「お前の」

至近距離で声を発するとギャモンの瞳に困惑の色が広がる。握った手首も、縮み上がった身体も完全に固まり竦み上がっている。

「黙らせたくなる口も、」

動けない。カイトの顔が更に近付いてきているというのにギャモンは指一本動かすことすら出来なかった。
これはまずいとギャモンは思った。だってこれは、と辛うじて視線だけをあちこちへ巡らせる。これだけ顔が近付けば、しかも迫ってくる相手が自分のことを好きだと言うのなら、導き出されることは1つじゃないか。

「好きだ」

キス、される。瞬間的にギャモンは目を閉じた。
羞恥やら緊張やらその他のあらゆる感情に耐えきれなかったのだ。
堅く目を瞑るがしかし一向に何も起きる気配がない。

「……なあ、」

近くでカイトの声が聞こえる。おそるおそる目を開けるとカイトは笑っていた。

「キスされそうになっても抵抗しねぇってことはさ、好きってことじゃねぇのかよ」

その言葉にギャモンはかあっと頬を赤く染める。どうやらカイトにしてやられたようだった。

「すっ!?ば、ばっか野郎!んな訳あるかっ!嫌いだ嫌い!てめぇなんかだいっ嫌いだ!!」

まんまとカイトのペースに乗せられてしまったのが悔しくてギャモンはからかうように伸びてくるカイトの手を片っ端から叩き落とした。

「ばーか!てめぇなんか知らねぇ、さっさと消えろ馬鹿!!」

「さっきは俺のこと嫌いじゃねぇって言ってたのに、ほんと可愛いやつ」

「うるせぇ!!」

カイトは頬が緩むのを抑えきれない。赤い頬、しなやかな指、髪、目、口。目の前に在る全てがどうにもいとおしく思えてしまって仕方がない。

「ま、今はそれでいいさ」

「は?……って、ぎゃあ!!」

カイトの発言に気を取られたギャモンの隙をついて、カイトはすかさず彼の頬にキスを贈った。ギャモンは頬に手のひらを押し付ける。
カイトはしてやったりの表情でギャモンに言った。

「すぐにその気にさせてやるよ」

ギャモンの目が見開かれた。ぽかんと口が半開きになっている。それを見てカイトは首を傾げた。

「ん?もしかして口が良かったか?」

そして唇に手を這わすと我に返ったギャモンがわなわなと震えだす。

「ぜ、絶対……好きなんて言ってたまるかぁっ!!」

一瞬、もうその気にさせられそうになっただとか。そんなこと絶対に言ってやらないんだからなとギャモンは心の中で叫んだ。
まだしばらく、この告白の日々は続いていきそうだ。











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サイトでは拍手文を除いて初めてのカイギャですね。
カイトはイケメンだイケメンだと思いながら書いてたらこんな感じになったわけなんだがどうだろう。いや、どうにも…怪しい文章になっただけな気がしなくも…うんwwwww
やっぱり私はカイギャ書けないんだろうか…。

もうこれカイギャは両思いなんですがギャモンくんがデレて俺も好きだって言わない限りお付き合いには発展しないというwwwwwなにその鬼畜ゲーwwwwwww

なんかもっと可愛らしいの書きたかったのにね。僕、サンタさんに今年のプレゼントは文才が欲しいってお願いするんだ^ω^!