後ろ髪 title by 揺らぎ


「切ろうかなぁ」

カイトは自身の束ねた後ろ髪を弄りつつ呟いた。

「なんだぁ髪か?」

「おう」

ギャモンが顔を上げカイトの背後へと回った。ふらふらと髪が一束揺れている。その様子をじっと見つめ、ギャモンはいっこうに動かない。

「…何だよ」

端から見ればなかなかシュールなその光景に耐えきれなくなりカイトは前を向いたまま尋ねた。背後からギャモンの視線を痛いほど感じるため動くに動けない。

「俺は切らねぇ方がいいと思うぜ」

「…え、なんで、えええ!いだだだだ!」

ギャモンの意外な発言にカイトが首を巡らせ彼の方を向こうとした時だった。強い力で後ろ髪を引っ張られる。
抜ける。これは、抜ける。切るとか以前に一房髪が取れる。カイトはあまりの痛さに叫んだ。

「こら馬鹿アホギャモン離せ、マジでい、いたたたたたた!」

「ぎゃははははは!それくらい耐えろよバカイト!」

もがくカイトをよそにギャモンは笑いながら十分にカイトの反応を楽しんでから手を離した。
すぐさまカイトはギャモンに詰め寄った。

「いきなり何すんだよ!」

「だから、切らねぇ方がいいって」

「それで何でいきなり引っ張ってんだよ!」

声を荒げるカイトのことなどギャモンは気にも留めない。そしてそんな彼の態度にまたカイトは苛立ちを覚える。
するとギャモンはきょとんとカイトの怒った顔を見つめてから突然ふっと息を吐いてから笑った。

「こうやって長いのがある方が、てめぇを捕まえやすいだろ?」

それはあまり見られないような無邪気な笑顔だった。いたずらを成功させた子供のような、意地が悪いけど、それでも憎むことなんてできない、そんな笑顔。思わず手を伸ばしてしまいそうな…。

「……なんだよ」

気付くとギャモンの口ごもったような声。カイトは無意識のうちにギャモンの頬へ手を伸ばしていた。彼の笑みに誘われて。
カイトの手は頬を伝いこめかみの方へ上がっていき髪を軽く撫でる。それに伴ってギャモンが片目を細めた。

「怒ってたんじゃねーのかよ」

カイトの手から逃れるように顔を背けるがギャモンは決して拒絶をしなかった。ギャモンの耳が赤い。それら全てが嬉しくて、カイトはもう自分が怒っていたことなどどうでもよくなっていた。

「切らなくてもいいか」

髪、とカイトは呟いた。それから赤く染まった耳に顔を近付けてキスを送った。

「………やっぱり、切っちまえ!」

どこまでも子供で初な反応を見せてくれる彼がたまらなくいとおしくなって、カイトは心の中で絶対に切ってやるものかと思うのだった。





過去拍手 2012/03/29〜2012/04/29