孤独な星は闇を駆け抜けた


※フィーリングで読んでください
※CP要素なし





ゆるゆると流れていく時間。静まる室内には筆がカンバスの上を踊る足音のみが微かに聞こえていた。ほんのりと橙の明かりが窓から射し込み室内に温もりを届けた。

「もうすぐ終わるよー」

そんな中、黙々と筆を操っていたアナが室内に声を落とした。その響きを受けて今までアナの前でひたすら身動きせずに座っていたギャモンが大きく息を吐く。緊張で上がっていた肩がだらしなく落ちる。

「おー…やっとかよ」

「動いてもいいけど、まだそこにいなきゃ駄目」

「…分かってるよ」

解放されたことで気が抜けたギャモンが思わず席を立とうとするとすかさずアナがカンバスの横から顔を出して注意する。ギャモンは視線を逸らしてわざとらしく椅子に座り直した。
絵が描きたい、と言われてギャモンはアナに連れられこの美術室に来ていた。説明もろくにされぬまま椅子に座らされ向かいでアナが筆をとった、おそらくギャモンをモデルにして絵を描き始めたのだろう。と、彼がそう把握してから結構な時間が経っていた。
ふとカンバス越しのアナを見た。カンバスを一心に見つめ筆を滑らすアナの横顔は輪郭が淡く橙に縁取られ美しかった。真剣な相貌がこちらを向いてギャモンは焦るがアナはそんな彼の態度を露ほども気にしていないようだった。
もう動いてもいい、とは言われたがそんなふうに真面目な視線を向けられるとどうにも身動きをする気にもなれない。今までは早く動きたくて堪らなかったというのに、不思議だ。

「…なあ、」

中途半端に自由なためどうにも居心地が悪くなってギャモンは堪らずアナに声をかけた。

「んー?」

「動いても、いいんだよな」

「んー」

返ってくる返事も中途半端。動くにも動けない。そして、またも沈黙。
アナにしてみればどうということはないのだろうが、ギャモンにしてみれば何とも嫌な沈黙である。
筆が音を立てる、するとどうしてもそちらに意識が向いて視線を向ける。
カンバスを踊っていた筆が舞台を離れた。アナがふわりと笑顔を見せる。ぱちりと2人の目が合った。ギャモンは驚いて思わず固まる。

「できたー!」

「…………へ?」

「できたよギャモーン!」

アナが立ち上がった。嬉々とした表情でどうやら完成したらしい絵を眺める。それから訳が分からず椅子に座ったまま呆けているギャモンを呼んだ。
そうしてやっとギャモンは席を立った。ぐ、と伸びをしてから絵を見るためにイーゼルの後ろから回り込みアナの横へ向かう。

「やっとかよ……って、おい」

正面まで回ったギャモンは絵を見て声をあげた。アナが呑気に彼の方を見上げた。

「完成したのこれか」

「うん、そうー」

「……何で俺を見てこんな絵が描けんだよ」

ギャモンはいくらか瞬きを繰り返した。何度見ても、彼をモデルにして描いた絵にはとても見えない。
一面の、黒。闇。ただの黒と形容するにはもったいない、奥へ奥へと引き込むような深みのある黒が延々とカンバスの中を巡るような、一度中へ放り出されてしまったら戻ることはできない。そんな一面の闇がカンバスを満たしていたのだ。
アナはギャモンの言葉に笑顔で答えた。

「アナの作業はー、ここで終わり」

そんな彼の言葉にギャモンがふと首を傾げるといきなり身体が引っ張られる。なかば無理矢理、先ほどまでアナが座っていた椅子に着席させられた。
アナがギャモンの手を取る。とつぜん素肌に感じる人肌の感触にどきりとする。

「ここからは、ギャモンの番!」

「……はぁ!?」

アナがギャモンに新しい細筆を握らせその手に自分の手を重ねる。ギャモンは筆を握る手を見、それから頭上を見上げる。こちらを見下ろす満面の笑みのアナ。

「い、いや…いきなりんなこと言われても何すりゃいんだよ!」

「自分の姿をそのまま描けばいいの」

「じ、自分って…や、だからなぁ、俺は絵とか…」

いきなり座らされ描けと言われても困る。だがアナはギャモンの手を離さない。

「ギャモンは、"ほし"なのー」

「はぁ?ほ、ほし?」

「そう!アナが思うにー、カイトが太陽でルークが月なら、ギャモンは、ほし!」

脈絡のないアナの言葉にギャモンは始めは単語の意味を理解できずにいたのだが、彼がそう続けたことによりやっと納得する。彼の胸中に横たわる薄暗い感情が首をもたげる。

「………地球(ほし)、ね」

ギャモンはそう皮肉った。
あれほど全ては自分を中心に回っていると思っていたのに、それがいとも簡単に覆された。かつては…月も、太陽も。自分は、全てが己を中心にして回っていると思い込んでいた、哀れで愚かな、地球だ。
ふっ、と彼は鼻で笑った。馬鹿馬鹿しい。けれどどこか的を得ているようでそれがまた彼にとっては嫌で嫌で仕方がなかった。そういう中途半端なものが一番心の隅にいつまでも引っ掛かる。

「違うよ」

はっと我に返る。アナがきっぱりと否定の言葉を発した。

「アナが思うに、ギャモン今…アナと違うこと考えてる」

少しむっとした表情でアナがギャモンに顔を近付ける。それにギャモンは逃げるように顔を背けた。

「いや…地球(ほし)、だろ」

「違うよ。ギャモンは地球(ほし)じゃなくて、お星さま!」

驚くギャモンを他所にアナは片手を天高く掲げた。

「お前それ…俺様は月よりも太陽よりも惑星よりもちっぽけだって言いてぇのか!おい!」

「なんでそんなに怒るの?」

「あぁ?当り前だろ、そんな、」

ギャモンが声をあげてもアナは動じない。その態度に苛立ったギャモンは未だ彼に無理矢理握られたままの手を振りほどこうとする。
アナが口を開く。

「だって…ギャモンは、誰のために生きてるの?」

その言葉にはたとギャモンの動きが止まった。呆気に取られた表情でアナを見る。
ぽん、といきなり軽い口調で核心に迫るような問いを投げ掛けられて思わず唖然としてしまう。

「お星さまは誰から見てちっぽけなの?どうしてちっぽけなの?…みんなのために、光ってないから?」

アナは一度ギャモンの手を離した。するとアクリル絵の具のチューブを沢山持ち出し、1つ1つ口を開けパレットに絞り出す。ギャモンは言葉を返せずにただ彼の一挙一動を目で追っていた。

「月も、太陽も。アナたちに光をくれる。生きるために必要な光。地球も、アナたちに生きるために必要な場所をくれる。だから価値があるの?」

数えきれない沢山の色がパレットに並ぶ。ギャモンから見れば名前すら分からないようなものまで。

「星は自分のために輝いて、消えて、また生まれる。それってちっぽけ?」

アナがギャモンを一瞥して一瞬だけ目が合った。ギャモンの眉間に皺が寄る、何も答えられなかった。

「星は見えなくてもアナたちは生きていける。でも、空を見上げてそこに輝いてるお星さまが見えたら、アナたちは綺麗だねって言って笑うよ。それは、価値がないのかな」

片手にパレットを持ち、そしてもう片方をもう一度ギャモンの手へ重ねる。ギャモンはまだ、筆を手放すことはしていなかった。
その筆をパレットへ導いて絵の具を大胆に拐う。

「アナはねー、自分のために生きてるギャモンの姿を見るの、すっごく大好きー!」

そう言ってアナがギャモンの手を操りカンバスへ筆を落とした。それを滑らせれば、ぱ、と星が流れる。

「だって、きらきらしてて綺麗だから!」

力強い星の軌跡に息を呑む。
自分のために。確かにそうだった。
大事なものは、正直に言えば沢山ある。唯一の肉親である妹はもちろんだが、最近になって大事なものが増えすぎた。守りたいし、一緒にいるのも悪くない、なんて思える。けれども、それでも最後は自分のために。自分のためだけに生きたいという思いが残る。誰かのためにだなんて、きっと自分はそんなこと出来ない。守ることも、共にいることも、きっとできずに壊してしまうだけだ。
そんな自分を、どこかで嫌っていたのだけれど。

「ほら。自分のためだけに命を燃やす星は、こんなにも綺麗だよ」

鮮やかな黄色の星が煌々とカンバスの中を流れている。それは確かに綺麗だった。

「こんなに綺麗なのに、ギャモンはお星さまじゃ嫌なんだ」

欲張りだね、とアナは付け加えた。ギャモンのずっとカンバスに釘付けになっていた視線が外れて宙を舞う。アナの姿を捉えるとそこで止まる。
しばらく見つめあう形になっていたのだがふとギャモンは吹き出す。

「ん?」

アナが首を傾ける。

「お前は…ほんと、よく分かんねぇな」

「そお?」

「……そお、だ」

なんというか、片意地を張っているのが嫌になってギャモンは諦めたように笑った。何が中心でどれが良いだとか、自分のためにだとか誰かのためにだとか。そんなことも考えるのが愚かしいのだと思うことにした。いつだって自分のために生きてきたのに、どうして周りの何かに目を向ける必要があるのだろうか。
現に今目の前にいる大事なものは、壊れたりだなんてしていない。自分のために、壊したりなんてしない。

「ふふ、これどこに置こうかなー」

アナが嬉しそうにイーゼルからカンバスを持ち上げた。どうやら本当に完成したようだ。アナが始めに描いた深い闇は、彼方に広がる宇宙だったようだ。

「おい、アナ」

絵を持って教室の中を踊るように歩き回るアナに、ギャモンは立ち上がって声をかけた。

「なぁにー?」

振り向いた彼の方へギャモンは向かい、流れている星を指差した。

「なぁ、これって何色なんだ」

じ、とそれを見る。ただの黄色とも言えなくもないが、それよりももっと明るい色で、闇を照らす美しい黄色だった。

「この色はジョンブリアン」

アナは教室の壁にそっと絵を立て掛けた。

「フランス語で、輝くような黄色っていう意味」

立てられた絵からアナが離れると彼の身体で遮られていた窓からの光が絵に射し込む。

「ギャモン!」

「なんだよ」

「アナお腹空いたー」

「はぁ?今何時だと………あ、俺もだ」

「なんか食べに行こー!ギャモンのおごり!」

「え、学食に行きゃタダじゃねぇか」

「学食じゃなくて、食べに行きたいの!」

アナがギャモンの腕を引っ張る。
2人連れ立って教室を出ていく。

「お前、何食いたいんだよ」

「アナはねー、オムライスとーナポリタンとハンバーグとー」

「てめぇどんだけ食うんだよ!!」

「ギャモンのおっごりー!」

「はぁ…」

扉を閉める寸前に、ちらりとあの絵が目に入る。

「…ったく、今日だけだからな」

流星が、夕日を浴びて鮮やかに瞬いた。










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訳分からないですね、すみませんでしたこんな謎なの書いて(´・ω・`)
ここまで読んでくださった方がいたら素晴らしいです!
長いし意味不明だし文章滅茶苦茶な感じですがこれ書くの楽しかったですwwこういう意味分かんないことを考えるのが好きなんですwwww
10話でギャモンくんはカイトのために自分が死ぬことだって考えたのに最終的に下手したらカイトを殺すようなパズルを作り上げたのは何でだろうとか考え始めると止まらないですすみませんwwwwww

アナとギャモンのふたりは癒される。ほんとに。でもこの2人だとほのぼのもいいですが考察とかメンタル系書きたくなっちゃいます。
今度はちゃんとアナギャも書いてみたいです^///^