優しさに陶酔 優しいだけの男は嫌われるっていうけど、それってどうなんだろうか。 「会長」 僕は好きな子にはとことん優しいと思うよ?ぐっと甘やかして何でもその子のすること何でも許してあげて、その子の望むことを全部してあげる。これの何がいけないのって思うんだけど女の子たちが言うにはそれじゃつまらないんだと。よく分からないよね、女の子って。 まあ、僕の場合はこれでもうまくいってるんだから問題ないけど。 「会長!」 「あ、ごめん。何かな」 「…あなたって人は」 そういえば廊下でタマキくんに呼び止められてたんだった。また生徒会の話についてだった気がするけど。僕としてはタマキくんには気張らずにもっと肩の力を抜いてもらいたいんだけど、それを彼女に言ったら絶対に僕のせいだって言われちゃいそうだしなぁ…。 「まあまあ、こんな所で話すのもあれだから…生徒会の話題は放課後にでも、」 「そう言って会長は逃げるおつもりですか」 ずば、と僕の考えを言われて苦笑いする。うん、やっぱりバレてるか。 「いやぁそんなことないよ。あ、ほらみんな見てるよ?あんまり怒らない方が…」 「あなたが怒らせてるんでしょ!」 「あはは…」 廊下のど真ん中で怒りだすタマキくんに何事かとすれ違う生徒たちが訝しげにこちらに視線を送る。彼女はそれらは目に入らずただ僕に向かってお説教を始めた。 「大体、会長はですねぇ…」 参ったなぁ…。僕はどうしたものかと彼女に気付かれないように小さくため息をついた。生徒会長というものは嫌ではないが、彼女は完璧を求めすぎる。僕とは価値観が違うのだ。 どうやって抜け出そうかと考え強行突破でもしてしまおうかと思い廊下の先に視線をやる。すると僕はちらちらと視界に映る赤を見付けた。 間違いない、あれは、彼だ。 そう思った途端に僕の表情が緩む。角に隠れているのか少ししか見えないがあのつんつんに逆立った赤い髪は僕の思い当たる限り彼しかいなかった。でもなぜ、彼がここに。ここは3年の教室ばかりが並ぶ階で、彼がいる1年の教室があるのは違う階だというのに。そこまで考えて僕はまた顔の筋肉が緩んでいくのを感じた。自然と口が弧を描く。彼がここに来る理由といったらこれは自惚れでも何でもなく、僕しか思い付かなかった。彼はわざわざ僕に会いに来てくれたのだ。こんなに嬉しいことってあるだろうか。 でも、それならどうして声もかけないであんなところに隠れているんだろう。 僕はふと視線を彼の方から自分のすぐ周りに向けた。ぱち、とタマキくんと目が合った。 ああ、そういうこと。 「何がおかしいんですか会長」 「ふふ、ごめん。あんまりにも可愛くて」 彼が。と心の中で付け足す。 くすくす笑い始めた僕を見てタマキくんが眉を寄せる。僕はそれに気付かない振りをして彼女の肩に手を置いた。 「ねぇ…こんな所で長々と話す訳にもいかないし、」 「っ、ですから会長!」 「だから、生徒会室でゆっくり話そうか」 「………え、」 僕の言葉に、彼女はまた僕が逃げ出そうとしていると思ったのか声を荒げたがそれを遮り言葉を続けると、彼女は驚いて目を丸くした。それほどに僕の発言が意外だったらしい。 「ほら」 そうして僕は彼女の肩にさりげなく手を添えたまま促すように歩きだした。驚きのあまり固まっていた彼女は肩にある僕の手を振り払うのも忘れてゆっくりと歩きだす。 廊下の角を通り過ぎた時に、視界の端に彼を捉えた。 怒ったような悔しいような、それでもほんの少し寂しそうな顔をした彼が歩いていく僕らを見つめていた。その表情が僕にとってはどうにも可愛くってしょうがなかった。 そんな顔をしなくてもいいのに。いつだって僕は、君のことしか見えていないんだから。 その日、彼はひどくいじけていた。 「どうしたの、ギャモンくん」 「…どうもしねぇよ」 放課後に彼は僕の部屋に寄っていった。学園から家までの道のりも、そして僕の部屋に着いてからもこんな調子。いつも彼はそっけなかったりするんだけど、今日は格別だった。まあ、理由は分かってるんだけどね。 僕は彼の頬に手をやって目線を合わせる。 「何かな」 「!…何って、何がっ」 彼が僕の手を振り払いながら応える。 「どうもしないなんて嘘だろ?僕に、言いたいことがある」 そうでしょ、と優しく笑いかける。 彼の頬がさっと朱を帯びる。彼は優しくされるのに滅法弱かった。どろどろに手放しに甘やかされることに。恐らくそんな経験を、彼はしたことがないんだろうと思う。だから耐性がないのだ。 「大丈夫だよ。言ってみて」 「……な、何もねえって!」 子供をあやすように彼の髪に指を差し入れ撫でてやる。すると今度は顔全体を赤く染めて滅茶苦茶に抵抗してきた。彼は床でベッドに凭れて座っているため、彼の真正面から近付く僕に対して逃げることができない。だから彼は自由な手足でもがいた。 「…言いたいんでしょ?」 「何がすか!言いたいことなんざねぇよ、あんたなんかに!!」 「おっと、」 彼の払った手が僕の手に当たり乾いた音が響く。それだけで彼はひどく困惑した表情を浮かべた。それからゆっくりと表情が歪み泣くのを堪える子どもみたいな顔になる。本当は彼自身分かっていた、自分がただ一方的にいじけているだけなのだと。だから罰が悪い。 「悪い…」 「うん、いいよ」 申し訳なさそうに謝る彼に僕は微笑む。彼が傷付いたような顔をする。 「あんた、何で」 「何が?」 「何でそんなに、」 「そんなに?」 僕が追及していくと彼はまた途中で口ごもった。 「ほら、言ってごらん」 努めて優しく促してやる。 「何でそんなに優しいの」 「好きだよ」 やっとのことで彼が吐き出した言葉に僕はひどく端的に答えを述べた。 「…は?」 当然のごとく彼はまったく理解できていないようで間の抜けた声が部屋の中に落とされる。 「好きだよ、君が。いけない?」 「………いや」 僕が放った言葉に戸惑ったものの、彼は少々照れながら小さく首を振った。 「君の望むこと、何でもしてあげたい。いけない?」 横に首を振る。 「君のすること何でも許してあげたい。いけない?」 横に振る。 「君に優しくしてあげたい。いけない?」 「……………いえ」 消え入りそうな声で彼が答えた。 「だから、僕は君の全てを受け入れるし許す。ギャモンくんが好きだから」 彼との距離を更に詰める。彼は忙しなく視線をあちこちへ飛ばす。 「……でもよ」 彼の首に腕を回す。…次は拒まれることはなかった。 「そういうふうにされると、俺は困るんだよ」 「どうして?」 しおらしくなすがままの彼の首筋に顔を埋めて尋ねた。 「…そんなに優しくされたこと、ねぇ」 僕に抱き付かれてもどうすればいいのか分からないのか固まったまま口だけを動かす彼が、僕はとんでもなく可哀想…いや、可愛そうだった。 今まで無条件に手放しで甘やかされたことのない彼は、優しくされることに弱い、そして怖いのだ。どうすればいいのか分からない、どう触れればいいのかを知らない、だから怖い。 「簡単なことだよ」 僕は優しく優しく彼を抱き締めた。目を合わせると、彼の瞳が動揺で揺れた。 「君が好きなようにすればいいさ」 彼の胸に耳を当てるとどくどくと脈打つ鼓動が伝わってくる。この命を刻む音すらもいとおしいと感じる。彼の全てを受け入れることのできる僕だけの音だ。 「君のする行動の全てが、僕の望むものなんだから」 どろどろと温かい優しさにくるまれたら、きっと誰だって手放したくないだろう。 僕の言葉を聞いてから、彼がゆっくりと僕の背中に手を回した。彼の男らしい指からは想像もつかないほど繊細で優しい手つきで。それから緩く抱き返されてとんでもない幸福感が僕を満たしていく。 「誰にでもじゃなくて、」 「うん?」 「俺だけ…」 「…どうしたの」 「…いや」 僕が問うと小さく彼は首を振った。彼の脳内にあるのは、もしかして昼間の光景なのかな。彼の考えることがすぐに分かって思わず口許が弧を描いた。 「僕が全てを許すのは君だけだから」 安心すればいい、たとえ僕がみんなに優しくしようとそれは君をこうして抱き締めてあげるためのものなんだから。僕と彼が、より深く繋がりあうためのもの。 彼の指が僕の後ろ髪に触れた。顔を上げると目が合った。何故か彼の瞳は切なそうに見えた。 「…あんたが、好きだ」 優しさに浸けられた彼は、きっと一生僕だけにその言葉を吐き続けるのだろう。 「僕もだよ」 そして、この僕も。 -------------------------------------- 更新するなんて言わずに捨てちまえばよかった…!消したい、これ…切実に…! 生温く病んでるソウジさん、若干それに汚染されてるギャモンくん。 彼らはこんなやりとりをことあるごとに繰り返していく…。うわ、こわ。 ほんとはもっと「うえw軸川病んどるきもいなこいつww」みたいなものを書こうとしたら「え…なに、軸川病んでるし…きも…」みたいなほんとにギャグにならない純粋に気持ち悪い話になった。あとギャモンくんがそんな軸川の犠牲者にwwww 病的なまでにギャモン大好きなソウジの彼なりの愛し方ですよこれは!にしても重いwwwwうぇっwwww |