POG下っ端×ダイスマン ver.2


「よっ」

ダイスマンはさして驚きはしなかった。たとえ自分1人しかいなかったはずの自室にいきなり人が現れようとも。その人物の顔を見ればすぐに納得がいく。

「…あのさぁ」

にこにこと悪びれるでもなく笑顔で自分の前に立つ男にダイスマンはため息をつく。

「ブザー鳴らしてくれたら普通に扉開けるけど?」

「めんどくさいだろ、俺もお前も」

刺々しくダイスマンが言葉を放つも男はしれっとした態度で答えた。POGからダイスマンに与えられた個室には扉にセキュリティが設けられており、内側からセキュリティを解除しなければ外部者は部屋に入ってこれないのだ。
しかしこの男は入ってくるのだ。彼にしかない技を使って。

「よくもまあ身一つでセキュリティついた部屋に入ってこれるよなぁ」

「お前には身一つに見えるけど、実は色々と仕込んであるんだ」

男は自信ありげに胸を張った。POGの下の方の階級に配られる安い制服をぱんと叩いた。

「つかそんな犯罪まがいのことが出来るんなら転職しろよ」

「犯罪じゃねぇよ、この技は俺の誇り」

「だったら尚のこと転職を勧めるな、そんな歳で一番下の階級なんてお前くらいだぜ」

POGは年齢関係なく才能があれば上の階級へ上り詰めることができる。逆に言えば、どれだけ歳月を重ねても才能がなければ一生一番下の階級ということだ。
男は古株だった。ダイスマンがPOGに所属する前から男はいた。彼はダイスマンよりも幾らか年上なのだが、階級はいつまで経っても一番下、なのである。
しかしそんな状態であれば大抵の人間は辞めてしまうものなのだが彼は決して辞めなかった。
彼いわく、「何度か辞めようと思った、けどお前がいるから。かっこ、笑い」とのことらしい。

「まあ、俺はパズル作れないしなぁ…」

「それがバレたら即刻クビだなー」

「あ、お前!バラすなよ?せっかく今まで誤魔化してきたんだから」

男とダイスマンは長年の付き合い、それこそダイスマンがPOGに入った頃からの付き合いだ。ダイスマンはあまり下の階級の者には興味がなかった。しかしこの男はそんなダイスマンの気持ちもお構い無しにやたらと絡んできた。今となっては慣れてしまったが。

「お前が入ってから楽しくなったし。やっぱここは下っ端でも給料がいいからな」

「後者が一番の理由だろ」

「んなこたないって!金なんかに妬くなよ、可愛い奴め」

「うえーー、いい歳したおっさんがなぁに言ってんだか」

男はダイスマンの向かい側に腰掛けた。そして突然、右手を出して握り締める。

「今の時代、これだけじゃやってけないしな…」

そう呟いてから右手をパッと開くとそこから物凄い勢いでトランプが飛び出していった。

「マジシャンなんて、廃れちまったもん」

「おっさんがもんなんて言うなよ」

「だってよぉ、悲しいだろぉ、俺だって最初からマジックで誤魔化してPOGに入ろうとなんて思わなかったっつーの!」

そう、男は元マジシャンであった。いや現に今もその技は健在しているのだから元とつける必要はないのかもしれないが。

「マジシャンやって食ってける奴なんてほとんどいねぇっつーの」

男が指を鳴らすとぼおっと炎が現れる。

「たまたまPOGの試験の課題がトランプパズルだったのがいけねぇ」

トランプは俺の一番の得意分野だ、と男はそう言って今度は炎を消しそこからトランプを出現させる。

「責任転嫁すんなよなぁ」

「そんなんじゃありませーん」

男がトランプに息を吹きかけるとトランプは一瞬にして姿を消す。

「まあでも…良かったって思うよ。ここに入れて」

「まあ食いっぱぐれはしねぇもんな」

ダイスマンが男に向かってからかうように言うと彼は口を尖らせる。

「確かにそうだけど!それだけじゃねぇよ」

男の拗ねたような口調にダイスマンは喉を鳴らして笑った。
男が諦めたようにため息をついた。

「こうして秘密を打ち明けられる奴が出来たわけだし、な。…って言おうと思ったんだけど?」

お前のせいで台無しー、だなんて男がテーブルを叩いた。
男の言葉にダイスマンは首を傾げる。

「なあ、そいつってもしかして…」

「…いや、お前に決まってんだろ」

「だよなぁ?」

「まさか不満か?」

反応の薄いダイスマンが面白くなくて男はテーブル越しにダイスマンに詰め寄った。

「…いや、つーかそれ以前にPOGになんか入らなきゃ秘密にする必要もないじゃん」

そしてそんな男に対して至極当然のようにダイスマンは冷静に返す。
しばらくの後、男が背凭れの方へ倒れこんで笑い声を上げた。

「あーあー、そうじゃん。馬鹿か俺は!」

「やぁっと気付いたのかよ」

「うるせぇよ!」

男の笑い声でいっきに賑やかになった室内にダイスマンは苦笑しつつ席を立った。

「ん、どうした」

「なんか飲むだろ」

「ビールな」

「ばぁか、仕事中だろ酒はやめとけ」

適当に紅茶でもいいか、とダイスマンはいつも自分が飲んでいる茶葉を取る。そんな彼の後ろ姿を見て男がにやにやと笑みを浮かべ立ち上がった。

「なんだかんだ、気が利くよな」

「出さないとうるさいじゃんお前」

自分より劣っている人間に茶なんて出すか、というのがダイスマンの性格なのだが男に対してだけは違った。毎回毎回あまりにもしつこく男が「お客さまにお茶もだせねぇのかお前は」だなんて言うものだからここは素直に用意してやった方が面倒くさくないという結論に至ったのだ。

「なあ、ダイスマン?」

「なんだよ」

ダイスマンは男に背を向けたままポットに湯を注ぎながら彼の言葉に反応する。

「お前に言わなきゃいけねぇことがあるんだよ」

「………え」

いつになく真剣味を帯びた男の物言いに思わずダイスマンは振り返った。男が言いにくそうに彼から視線を逸らした。嫌な沈黙が続く。

「……俺、な」

どこか申し訳なさそうに口を開いた。

「これから上司に呼ばれてんだよね…」

だからお茶いらねぇんだ、と男が付け加える。ダイスマンの沈黙に耐えきれなくなった男があははだなんて乾いた笑いをこぼし始めそこでようやくダイスマンは我に返った。

「あ、あんたなぁ…だったら最初っからそう言えっつーの!もうほぼ準備し終わってんだけど!何!?嫌がらせか!?」

「悪かったって!甲斐甲斐しく用意してくれるお前が微笑ましくて黙って見てた俺が悪かった!また来るから!仕事終わったら来るから!そん時にまた用意して、な、な!?」

「ふざけんなばーか!誰がもうあんたのためなんかに茶なんか入れるか、二度と来んなっつーの!」

「そんな怒んなよ悪かったって!」

ダイスマンは深く息をついた。馬鹿らしい、律儀に男のために茶まで用意してやる自分が。くるりとまた男に背を向けてもうほとんど出来上がっていた紅茶を今度は片付けにかかる。

「早く仕事に行ったらどうなんだ、呼ばれてんだろ」

「…許してくれよ」

「はっ、何が」

「何って、怒ってるだろ」

機嫌を伺うような男の口調にいらいらとしながらダイスマンは振り向きもせずに適当にあしらう。

「怒ってねぇよ」

「怒ってる」

「怒ってねぇって」

「だったら何でそんなに機嫌悪そうなんだよ」

「もういいから行けよ」

「なー、ダイスマン」

「だーかーらぁ、もういいって、」

しつこく声をかける男に焦れてダイスマンが声を荒げて振り返った。するとそこに現れたのは予想していた男の顔ではなかった。彼の目前にあるのは赤い薔薇だった。

「……ごめん、これで許して?」

叱られた子供が母親に許しを乞う時のような表情。薔薇の花越しに男が言った。とりあえず、目の前の花にどう対応していいのか分からずにダイスマンは呆けたまま突っ立っていた。その間にも男は、足りないんならもっと出すぞ?と指を鳴らして薔薇を増殖させていく。現状をダイスマンが把握した頃にはもう男の両手一杯の花束が出来上がっていて彼は何か言おうと開いた口を二、三度開閉してから結局言葉に出来ずに息だけ吐き出した。

「…なんなんだよお前はもー…」

それからもう一度息を吸うとやっとのことでちゃんとした言葉になった。

「………は、はは、悪ぃ」

手に余る程の薔薇を抱えたまま男が言う。

「…なあ、それ」

ダイスマンが男の抱えるそれに目を向ける。

「貰っといてやるからさ、早く行けば」

「ん?…………あ」

男は一瞬にして顔色を変えた。上司に呼ばれていたことをすっかり忘れていたのだろう。急に慌て始め夢中で花束をダイスマンに押し付ける。

「ほんと悪い!じゃあな!」

そうして部屋から出て行こうとする男にダイスマンは声をかけた。

「次はビールか」

「へ?」

「…仕事終わったら来るんだろ」

彼の言葉に虚をつかれほんの少し歩みを止めた男だったが次の瞬間には笑って彼に向かって手を振った。

「…いや?紅茶でいいや」

笑顔で退出していった男を見送り1人になったダイスマンはがっくりと肩を落とした。

「馬鹿かあいつは…」

男に薔薇なんてくれやがって。悪態をつくも彼の気はどうにも収まらなかった。
何故また来いだなんていうような意味合いのことを言ってしまったのか。馬鹿なのは自分だろうがと彼は1人ごちた。どうにも男といると調子が狂うのだ。
ダイスマンは顔を上げた。1人悶々と考え込んでいても仕方がない。
彼はとりあえず、男が来るまでにこの両手一杯の薔薇をどうにかしなければと頭を悩ませるのだった。










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前回の含めてあんましCPぽくないですよねってのは気にしない方向でお願いします。
あとやたら長くてすみません。もうモブダイが楽しすぎて…wwみなさん書けばいいのにwww
マジシャンなおっさんとかキャラが濃すぎてもう自分でもどうしたらいいか途中から分からなくなりました、とりあえずダイスマンよりも調子のいいキャラが欲しくていつの間にか…こんなに濃く…。でもマジシャンな設定は実は最初からあったというww
モブ攻めは夢が広がります、主に私の。
そういえばPOGの皆さんはお酒とか飲むんですかね。ダイスマンとビショップは強そうなイメージ。

にしてもマジックでセキュリティついた扉潜り抜けられるとかこの男はまじで転職すべきだと思う。