スタマイ*短編 | ナノ

赤い髪の男~スマートで軟派な常連客~

お相手:大谷羽鳥
羽鳥視点
とあるガールズバーのバーテンダー
事後

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ベッドに横たわり顔を真っ赤にして、まだ呼吸を整えている彼女の額にキスを一つ。俺の行動を熱っぽい視線で追いかけてくるもんだから、治まったモノがまた再発しそうになるのを堪えて、彼女の隣に俺も横になる。
「大丈夫?」
「…うん」
「そんなに気持ち良かった?」
俺の問いに彼女は声を出さず、恥ずかしそうに首を小さく縦に振った。ストレートに聞くと彼女にはいつもこんな反応をされるけれど、今日はどこかぼんやりしている。
「ごめん、もしかして無理させちゃった?」
行為の最中に彼女が痛がったりした様子もなかったし、いつものように優しくしたつもりだったけれど、今日は違ったのかと心配になる。けれど、どうやら心配無用だったみたいで、彼女は満足そうな笑みを浮かべて、「ちょっと余韻に浸ってたの」と小声で呟いた。俺は胸を撫で下ろす気持ちで、彼女の頬へまたキスをおとす。ついでに「可愛いよ」と声をかけてみれば、また満足そうに微笑んだ。
「ねぇ、羽鳥くんからすごくいい匂いする」
近付いたからか、俺の体から漂う香水の匂いを確認しようとスンスンと彼女は鼻で嗅ぎ始める。
「ああ、香水変えたんだよ」
「どこのブランドのなんてやつ?」
「気に入ったなら、君と会う時はいつもつけるようにしようか」
「ううん、そうじゃなくて…私もつけてみたい」
そう言う彼女は起き上がって俺を見つめる。そしてニコリと笑ったかと思えば、ベッドから出て散らばった衣服を集め始め、パンツを履いてから俺に背中を向ける形でベッドに座り直した。手に持つブラジャーの紐に腕を通して着替え始める彼女の姿に、思わず上体を起こして口元が緩んでしまう。
「確かにユニセックスな香りだけど、君のイメージに合わないかなって、俺は思うけど」
俺は彼女に合う香水を他に知っている。寧ろデートで一緒に香水を選んで、俺好みの香りをつけてもらう方向に持っていこうとわざと否定してみせた。
「そうだなぁ、もう少し爽やかな香りの…」
「一緒にいると、趣味趣向が似てくるって言うけど、私は違うと思うの」
「え?」
「好きだから、その人と同じものを使いたくなる」
「………」
「好きな人と一緒がいいって普通の心理でしょ?」
そう言って彼女はちょっとだけ振り向き、またニコリと笑った。
(なるほどね、一緒がいい…か)
彼女の発言を少し重たいなと感じてしまう俺には、あまり理解し難い内容だった。彼女と出会って少しは本気の恋に近付けた気でいたけれど、自分に染み付いた長年の遊び人精神(他の人から見た俺のイメージ)は、そう簡単には崩れてくれないと気付かされる。今目の前で着替えている彼女の姿が、俺にはこんなにも魅力的に映るのに、俺が抱いている感情は本気のそれとは違うのだろうかと疑った。
「ごめん、ちょっと一腹してきてもいい?」
「あれ?煙草なんて吸ってたっけ?」
「うん。最近吸い始めたの」
下着とワンピースだけ身につけた彼女からの意外な申し出に、何だか急に違和感を覚える。そういえば、今日会ったときにいつもと違う匂いがしていた。
(ラキスト…女の子で珍しい)
鞄の中から出てきた煙草の箱のロゴを見て、匂いがキツめの銘柄なことに驚く。てっきりピンク色の可愛らしいパッケージのものが出てくるかと思っていたし、煙草の匂いを嫌うタイプだと思っていたから意外だった。
「だから香水探してたの?」
「まあ、それもあるかなぁ。ちょっと行ってくるね」
「あ、待って」
得体の知れないものを持ってベッドから立ち上がる彼女を慌てて引き止めようと腕を掴む。
(好きな人と一緒がいい…。その彼女の好きな人って、誰なんだろう)
さっき彼女が言っていた言葉が頭を巡る。明らかに彼女が選ばなそうなその煙草にやっぱり違和感しかなく、もしかして誰かに薦められたものなんじゃないかと思うと、不快な感情が俺の口を開かせた。
「俺はあんまり好きじゃないなぁ。君がその煙草吸ってるの」
俺と一緒にいるのに、別のことへ意識が行って俺から離れようとする彼女のその行動に納得ができず、少しだけ睨みをきかせるみたいに彼女を見つめてしまう。
「え…?」
俺の態度が意外なのか、単純に驚いたのか、彼女は目を丸くして俺を見る。こんなことを言うのは、喫煙者には意地悪だろうかと思ったけれど、俺がしたい尚且つ俺らしい説得方法はこれしか浮かばず、正直に口にした。
「だからさ、口が寂しくなったらキスするっていうのはどう?」
俺はそう言いながら優しく腕を引いて、もう一度彼女をベッドに座らせる。そのまま彼女の頬に両手で包み込むように添えて、俺しか見えないくらいに顔を近づけた。
(俺をこんな気持ちにさせた責任くらいは取ってもらわないと)
執着なんてしないけど、俺といるときくらい、俺が独占してもいいよね。
「ねぇ、ナマエちゃん。もう一回しよ?」
甘い一夜の後、俺は甘い匂いが残るベッドに、もう一度彼女を迎えるのだった。



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