スタマイ*短編 | ナノ

赤い髪の男~お堅い仕事の偉い人~

お相手:服部耀
服部視点
とあるガールズバーのバーテンダー
事前

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ベランダで煙草を吹かしていると腰の辺りに柔らかくて長く白い腕がまとわりついてくる。そのままピトッと俺の背中に貼り付いて、腕は俺のへその前で交差され、甘えた声で名前を呼ばれた。
「なあに」
「お待たせ。ベッドいこ」
「…あぁ」
彼女の腕をやんわりと外して、軽く身を振り返るとするりと俺と縁の間に入ってくる。構って欲しいのか、今度はスウェットを着ている俺の胸元を掴みキス待ち顔を上に向けた。煙草を持っていない腕で軽く腰を抱き寄せて、その赤い唇に噛み付くように口付ける。今は少しだけ、じっくり味わうのはベッドに行ってから、そう考えて唇を動かすことを止めた。早く食べてしまいたいなんて思わないけど、こうやって彼女と過ごす時間は、少しずつ俺の楽しみのようなものに変わりつつある。それなのに今日のグロスはちょっとだけ、いつもと違う甘い味がした。彼女も身を引いて唇を離した瞬間、ふわりと嗅いだことの無い匂いが鼻を掠める。
「シャンプー変えた?」
「うーん、まあそんなところ」
一見ユニセックスな香りで分からないけれど、ベースに深く嗅ぐと分かる甘いベリー系の香りが入っている。若い女が好きそうな甘い、甘ったるくてずっと嗅いでいると頭がクラクラする、そんな香り。
「いい匂いだね。俺は好きじゃないけど」
俺は一言感想を述べて彼女の頭をポンポンポンポンしながら煙草に口付ける。何故だかその様子を凝視されたので、視線で「何?」と問えば、彼女は口を尖らせて告げてきた。
「ねぇ、私もその煙草吸ってみたい」
「煙草の匂い、嫌いじゃなかった?」
図星なのだろうか彼女は俺の返しに答えずに、尖らせた口はそのままに俺の唇辺りをじっと見つめている。そして考えが纏まったのか、また俺の胸元をギュッと掴み見上げてきた。
「一緒にいると、趣味趣向が似てくるって言うけど、私は違うと思うの」
「何の話?」
「好きだから、その人と同じものを使いたくなる」
「………」
「好きな人と一緒がいいって普通の心理でしょ?」
吐息が顔にかかるくらいに近い距離で、何故か心理を問われる。彼女は俺が気付いてないと思っているのだろうか、その言葉が墓穴を掘るということに。それとも、わざとそんな曖昧なものを表す名詞を使うのだろうか。真理を問いたいところだけれど、まあそれは、法的処置が必要になったら…ねぇ。
「は…好きな人と一緒がいいねぇ。ま、そんなこと言ってもこれはあげないけど」
「え、なにそれ。あ…」
「先に転がって待ってなさいな」
払い除けるように彼女を向こうのベッドの方へ追いやり、俺は全然吸えてないうちに放置されて灰になった煙草を片付けて、もう一本箱から出そうと蓋を開ける。しかしどうやら最後の一本だったみたいで箱の中は空っぽだった。
(この辺の自販機、ラキスト売ってるとこ、あったっけ?)
俺が愛用してる銘柄はコンビニに行けば普通にあるけれど、ベッドにワンコを置いたまま、少し離れたコンビニまで買いに行くのは面倒だし、彼女の機嫌を損ね兼ねない。まあ、それは別に問題でもないけど。
(そもそも自販機がないか)
仕方なく俺が向かうのはワンコが転がるベッドの上。俺が縁に座ると嬉しそうに頬を赤く染めて体を起こす。するとまた、甘い匂いが俺の鼻に入ってくる。
(全く、いつまで他の男に尻尾振ってるんだか)
ニコニコと俺の腰に抱きついて俺を見上げる彼女は、本当に人懐っこい犬のようで、ついつい髪をぐしゃぐしゃに撫でてしまう。いつもと変わらない顔で俺にじゃれついて、俺を求めて我慢できないでいるのに、それなのに。
(こんな甘ったるい匂いでマーキングされちゃって)
俺のじゃない香りをまとって笑っているのは、どうしてか。
「どうしたの?」
撫でる手を止めた俺に不思議そうに疑問詞を投げる彼女の顔は、悪意など全くない純粋無垢なそれで、それが逆にタチが悪くて目が離せない要因の一つ。
「いんや」
彼女はまだ誰がご主人様なのか分かってないのかもしれない。そうでない限り、こんな他所様の匂いなんて付けてくるわけがない。
(メンソールも確かあったはず。でもまあ、その前に)
執着なんてしないけど、自分のものにはマーキングしておかないとねぇ。
「おいで、ナマエ」
ベッドから立ち上がり、俺は彼女に手を差し伸べる。けれど彼女は相変わらずキョトンとしているもんだから、俺はその無防備な手首を掴み、強引にベッドから引きずり下ろした。
「さてと、躾なおしてあげる」
甘い一夜を前に、俺は再度彼女をバスルームに放り込むのだった。



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