スタマイ*短編 | ナノ

【10:00】 with NatsukiSugano

「おっはようございま〜す!」
「お、おはよう。どうしたの?朝からこんなところに」
総務課の事務所に、何故か捜査一課の菅野くんが来ている。いつものように元気な彼は、今日はやたらとニコニコして私の目の前までやって来た。
「はい、チョコレート頂戴」
「は?」
「今日はバレンタインだから、用意してるだろ?総務課の女子が誰にあげるか会議してたって噂、ちゃんと男子に届いてるんだからな」
そう言って手のひらを出してきた彼は、今ちょうど捜査一課にチョコレートを渡しに行こうとデスクの上に出した紙袋を掴みかけていた私の右手を見つめる。
「それか!」
「…え、ちょっと!」
彼は私の右手から紙袋を無理矢理奪い、勝手に中身を確認し始める。
「えっと…お!名札ついてる。蒼生さんと司さんと」
「や、やめてよ勝手に」
私のデスクに一つずつ出して並べていく彼の手を制してみるけれど、逆に手を掴まれて押し返されてしまう。
「あと秀さんと耀さん。…あれ?俺の分は?」
「…入ってないよ」
「え、なんで!?マジで言ってる?」
彼は紙袋の中にチョコレートを戻し、再び一つずつ取り出して確認していく。けれど、彼が奪ったその紙袋には、彼の分など入ってるわけがなかった。今年は義理チョコと本命チョコを用意してきたので、数が多くて紙袋を二つに分けてある。
「だってその紙袋、義理チョコしか入ってないもん」
「あー、なるほど義理チョコねー…ん?」
「あっ」
咄嗟に口元を手で抑えるけれど、もう遅い。はっきりと聞こえる声で言ってから自分がやらかしたことに気づいてしまった。本当は彼が自分のデスクにいない時間にこっそり置きに行こうと思っていた本命チョコ。普段は大丈夫だけど、こんな告白紛いなことを面と向かってだと緊張して何も出来なくなりそうだから。
「あの、なん…なんでもない!今のなし!」
慌てて弁解にならない言葉をあげて、ずっと左手に持って後ろに隠していた本命チョコの袋に視線を送る。見つかってしまったら最後、私は覚悟を決めなければならなくなる。
「なしって、そんなのもう遅いって。俺聞いちゃったもん。ていうか、なしにされたくないし」
嬉しそうにニコニコする彼は、少しずつ私に近づいて来る。同じだけ後退るもイスにぶつかって追い詰められてしまい、前に出していた右手は掴まれて恋人繋ぎのように指を絡められた。
「ずっと隠してるみたいだけど、左手のそれ、本命チョコだろ?」
「こ、これは…そうだけど」
「あのさー、俺思うんだけど、本命いるなら義理チョコ用意する必要なくない?本命も義理も、俺が全部貰いたいんだけど…ダメ?」
苦笑いを浮かべる彼は本気で言ってるのだろうか、私には分からなかった。でも、繋いだ手にギュッと力を込められて、彼の手から伝わる熱が私の体に伝わって、心臓がドキドキする。
(私やっぱり菅野くんのこと、好き)
ちゃんと言えてない気持ちはもうバレているかもしれない。でもそれでいい。
「ダメじゃ…ない。全部、菅野くんにあげる!」
(好きな人が、それで喜んでくれるなら)
嬉しそうに笑う彼に私も口元を緩める。そして繋いだままの手をギュッと握り返すのだった。


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