スタマイ*短編 | ナノ

服部耀『神様が見てるから待って』

くー様 リクエスト夢
夢主視点
神社の娘 巫女として実家の神社で働いている
お見合いでとりあえず付き合うことになった
■リクエスト内容
キャラ→服部耀
夢主設定→服部耀さんより年下
夢内容→付き合ってる。夢主は服部耀さんが初カレだけどそれを知られたくなくて必死に経験豊富っぽく装っているが服部耀さんにはバレバレ。
服部耀さんには敬語。

*****************************
まずい。遅刻する。のは、非常にまずい。
今日は、お付き合いすることになった彼と初デートなのに、気軽に街中デートなるものの服装がわからなすぎて、悩んでいたらこんな時間に。
(初デートで遅刻はまずい。逮捕されちゃう)
彼はこの国を守るお巡りさんで、うちの神社にも定期的に見廻りに来てくれる。おじいちゃんが無理矢理頼み込んでセッティングしたお見合いのおかげで、試しにお付き合い出来ることにはなったけれど、6つも年上の彼にいい女として認めてもらうには、ボロを出す訳にはいかない。
(でもまだ服部さんのこと、全然知らないんだよな。いつも巡回の時に気さくに挨拶してくれるけど)
電車から降りてホームを少し早歩きで待ち合わせ場所に向かう。確か、改札出て左の出口、目の前にある喫煙スペースの横って物凄く細かく言われていて、とても真面目で厳格な方なのかなぁと思いながら、私はやっとその待ち合わせ場所に到着した。辺りを見回すとそれらしき人物が…見当たらず、私はスマホを開いて時刻と共に場所の確認をとLIMEを開く。残念ながら待ち合わせ時間は5分過ぎているけれど、彼からのLIMEの内容に記憶違いはなく、場所も合っている。時間になっても姿が見えない、そして連絡もないということは、もしや既に呆れて帰ってしまったのではないかと疑った。
(やっぱり5分の遅刻もまずかった?初デートってそういうもの?)
慌ててもう一度辺りを見回す。しかし彼の姿は見当たらず、数分が過ぎる。
(え、嘘でしょ?神様、私の恋はこれで終わりですか?)
この日のために、家のお社に願掛けをしてきたのだ。ただでさえ恋愛経験が乏しい私の初めての彼氏との初デート、絶対に成功させたい。今朝もちゃんと参拝してから支度に時間がかかってこの通り遅刻をしてしまった。遅刻をした私が悪い、そう思い、LIMEに謝罪の文章を打ち込み『今どちらにいますか?』と付け足そうとした瞬間…
「ふあ〜あ、おはようさん」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには待ち人が口元を軽く手で抑えて欠伸をしながら立っていた。
「服部さん!すみません、ちょっと5分遅刻してしまいました」
突然現れた彼に慌てて謝罪を述べる。けれど、別に何も気にしていない様子で、彼は穏やかな雰囲気のままもう一度欠伸をして口を開いた。
「ふぁ…耀」
「…え?」
「耀。俺の名前。せっかく恋人になったんだし、名前で呼ぶこと」
聞きなれない名前に、私は彼のプロフィールを思い返す。普段からおじいちゃんが『服部さん』と呼んでいるから、私の中でも完全に『服部さん』が定着していた。そうか、恋人は普通、名前で呼び合うものよねと思い直し、私は返事をする。
「…あ、はい!耀…さん!」
「よく出来ました。それじゃあ、行きますか」
彼は満足そうに口角を少し上げ、右手のひらをこちらに出して見せてきた。この意味がよくわからず、思わず視線で辿ると「お手」と言われ、反射的に理解した私は彼の手の上に自分の手を置いた。そしてそのまま私の手は彼の手と繋がれ、一瞬胸がドキリと音をたてる。
(手が…手…繋がれてる!)
初彼にして初デート、そして初の手繋ぎでパニックになりそうな心を、落ち着かせるように顔に力を入れて、彼を見る。彼はポーカーフェイスで私の手を引っ張り、耳打ちするように顔を近づけてきた。
「首輪買ってあげるから、それまではコレね」
「え…?首輪ですか?」
私の問いを聞いてるのか聞いてないのか、彼はニヤリと笑うだけで何も答えてくれず、ゆっくりと目的地へ進んでいった。
(神様、どうか私の恋路をお見届けください…)



映画を見て、私がこっそり下調べして提案した、ちょっとオシャレなフレンチでワインを飲みながら夕食をとる。理想の大人デートってまさにこんな感じと思いながら、私はやっと少しばかり安堵の溜め息を漏らした。
「どうしたの?溜め息なんてついて」
「あ、お帰りなさい。すみません、なんでも…えっと、いつ来ても美味しいお料理だなと思いまして」
トイレから戻ってきて私の向かいに座り直す彼は、私の様子を見ていなかったにも関わらず、違和感に気づいて声をかけてくれる。
(本当は初めて来た店だけど。緊張してたのバレてるかな…?)
私よりも6つも年上なわけだから、それは落ち着いてるわけだし、お巡りさん特有の観察眼ってところなのかもしれない。でも私だって、今日一日取り乱すことなく、大人しくそこそこ恋愛経験のある大人の女性を演じられたと思っている。彼はずっと寝ていたけれど、私が選んだ映画だって大人のカップルに絶賛されていた話題作なわけで、間違ってはいないはず。何もかも初めてのことでドキドキしていたことを悟られないように、よくここまで頑張ったと自分を褒めてやりたい。あとは食事を終えて帰るだけ、何も問題なく終われそうだった。
(帰りも手繋ぐよね、多分)
映画の最中も移動中も終始手を繋がれていたけれど、それはカップルなら普通のことだし、と自分に言い聞かせながら平静を装っていた。手汗が出ないか心配だけれど、あと少しだし乗り切れるように心の中で神様にお願いする。
「そういえば、今日は巫女服じゃないんだねぇ」
「デートですし、流石にあの格好では目立ちますので」
不意に話を振られ、彼を見るとなんだか愉快そうに微笑んでいる。見たことの無い表情に驚きつつも、振られた話への良い返しを即座に考えて答えた。
「洋服とか普段慣れてない格好だとすごく悩むよね。まあ、遅刻もするわけだ」
「え…?そ、そうですね。悩んでて、遅刻してしまいました。すみません」
(私、遅刻の理由言ったっけ?)
彼はニヤリと笑いながら、彼の紅い髪と同じ色のワインを飲み干す。なお、その視線は私に向けられたまま、捕われてしまいそうなアクアグレーの瞳に、私は息を飲んだ。
「いんや、別に気にしてないから謝ることないよ。…さて、そろそろ出ますか」
「あ、はい。お会計を…あ!」
「気遣い無用。これは紳士の役目だから」
気が付くとさっきまでテーブルの上にあった伝票はなく、彼もさっさと帰り支度を進めている。瞬時に思い浮かぶのは、さっき彼がトイレに席を立った時、さり気なく会計も済ませてくれたのかもしれないという事実で、私は慌ててお礼を述べた。それを聞いているのか聞いていないのか、彼はまた欠伸をしながら私の帰り支度が終わるのを待っている。支度を終えて顔を上げたタイミングでパッと手のひらを出され、また「お手」をされた。
(なんか、すごく見透かされてる感じがする)
私が手を繋ぐことにドキドキしているのがバレている気がしてならない。それから、その手を繋ぐ行為が、少し嬉しいと思っていることも。
(バレてたら、どうしよう…)
こんなに初心な私は、彼とつり合わないのではないかと思っていたけれど、もしかしたら彼はこんな私を楽しんでいるのかもしれない。そう思えるような表情を、さっきされた気がした。
「ほら、行きますよ」
今も、同じ顔をしている彼に、私はただ着いて行くしかなかった。


駅へ向かう帰り道、辺りはすっかり暗くなって、今歩いている通りには酔っ払いやカップルで賑わっている。こういうのをネオン街というのだろうか、バーやレストラン、カラオケにゲームセンターと色んなお店の看板がピカピカと光っていた。家の周りには絶対有り得ない光景に、お酒も入っているせいか頭がクラクラしそうだった。
「映画に出てきた店、あれ」
「え?…あ、ほんとですね。ロケ地この通りなんですかね?」
不意に話しかけられて咄嗟に反応すると、彼が指さした先にさっき映画で見た居酒屋があった。よく見れば今歩いている通りは映画で出てきた通りに似ている。私はもう一度、映画のシーンを思い出して、なんだかワクワクするような気持ちになってきた。
「神様の導き」
「はい?」
唐突に彼は謎の言葉を呟き、静かに話を続ける。
「映画の二人はこの通りで運命的な再会を果たし、愛に溺れていく。そこは実話なんだって」
「え!?そうだったんですか?知らなかった…ていうか、耀さん映画の最中寝てませんでしたか?」
「さて、俺たちも神様の導きに従おうかね」
また謎の言葉を口にする彼は、急に繋いでいる手をギュッと強く握ってきた。そのまま、引っ張られるがまま、私は彼に続いて賑やかな通りの歩みを進めていく。次第に明るかった通りは少し静かになっていき、建物の看板もネオン調には変わりないが、雰囲気が落ち着いた色っぽいものに変わっていった。
(あれ…?来た時こんな道、通ったっけ?)
答えが出ないことを自分の記憶に問うけれど、やはり答えは出てこない。何せ緊張していたから、道なんて覚えていないのだ。疑念は段々と大きくなり、段々と不安に変わっていく。そして気がつくと私は足を止めていた。
「どうかした?」
私が足を止めたからか、彼も止まって振り返り私を見る。
「あの、どちらに」
「野暮だねぇ。わからない?酔った男女が向かう場所なんて決まってるでしょ」
そんな言い方をされて、わからないほど子供ではないけれど、如何せん経験がないから、本当に私の頭に浮かんだ場所に向かっているのかわからない。ここで答えて間違えても、期待していると思われるのもちょっと嫌な感じではある。何かこの場を切り抜けるためのいい返しがないかと頭を巡らせた。
「最初のデートですので、その今日は…」
「別に普通じゃない?ましてや大人なんだし。それとも…」
「そ、そうですね。普通な、普通な流れですよね」
「まさか初めて…とか?」
「…ははっ、そんなまさか初めてなわけ」
顔を上げると彼はどこか妖しげに笑っていた。その笑顔からはやはり余裕が滲み出ていて、私の心を焦らせる。私は、図星を言い当てられて、顔が引き攣りそうになるのに耐えながら、苦し紛れに笑ってみせた。
「は…見栄張っちゃって」
「え…?」
軽く溜め息をつかれたかと思いきや、繋いだ手を思い切り引っ張られ彼に抱き寄せられる。そしてもう片方の手で顎を掴まれ、上を向かされた。急接近した体と顔が瞬時に熱くなる。男の人とこんなに近くに、しかもこんな人目につく場所でなんて初めてで、心臓が跳ね上がって止まらない。私を見透かす彼の視線に耐えかねた私は、ギュッと目を瞑った。その時、チュッと音をたてて柔らかい何かが私の唇に触れる。一瞬の出来事に驚いて、目を見開いた時には、もう体を離されていた。
「ま、今日はこれだけもらっておくから、次はちゃんと覚悟決めてくること」
そう言い残し、彼はもう私の数歩先を歩いている。モッズコートのポケットに両手を入れて、寒いのか少しだけ身を縮めてまた欠伸をする彼は、さっきまでの紳士な態度とはなんだか雰囲気が違うように見えた。
「ほら、ぼーっと突っ立ってないで、ついてくるなら家まで送るから、早く隣においでナマエ」
振り返りもせずにそんなことを言う彼には後ろにも目が付いているのかもしれない。付いていなくても、きっと私のことはバレバレなんだろう。だって、この人は寝ていても映画の内容がわかるくらい、私よりも沢山のものを見ている。そんな相手に気に入ってもらおうと自分を見繕っていたけれど、無駄なんだと思い知らされてしまった。
(なんか…馬鹿みたい)
少し急いでモッズコートを追いかける。彼の隣に並んで静かなホテル街を歩いていく。次会う時はここに並ぶ建物に入ることになるのかもしれないと思うと、ドキドキが止まらなくなって、体がほんわかと温かくなってくる気がした。恥ずかしいと思わないわけがない。いくつになっても、経験があってもそれは、恥ずかしい。
「顔真っ赤」
「耀さんのせいですよ」
彼に顔を見られて指摘を受ける。なんとなくそうだとは思っていたけれど、やっぱり私の顔は赤かった。もう見栄を張っても仕方がない、そう思って反論のような受け答えをする。けれど彼は痛くも痒くもないのだろう、少しだけ笑っているような空気を感じた。
「ねぇ、吸っていい?」
大通りに出てタクシーを待っている間、彼はモッズコートの胸ポケットから煙草を取り出して聞いてきた。彼が煙草を吸っているのを見たことがなく一瞬驚いたけれど、「どうぞ」と答える。横目でその煙草を吸っている姿を見ていると、やっぱり彼は大人で私はつり合わないような気がした。
(私、この人の隣に…いてもいいのかな)
気がつくと彼のモッズコートの袖を握っていた。
「は…慣れないことはするもんじゃないね。お互いに」
「え…?今、なんて言ったんですか?」
「いんや、なんにも」
彼はふぅーと白い煙を吐いて空を見る。私が聞きそびれた言葉は彼の吐く白い息と共に神様には届いているだろうか。
きっと、神様には全部お見通し。
私たちが今、何を想ってここでこうしているのか。どう見繕っても、見栄を張っても、わかってしまう。彼も、私を見透かす彼は、少しだけ神様に似ている。
(ああ、でも)
何も言わずに接してくれた彼は、私の思っていた通り本当に紳士なのかもしれない。だから今、私はこうやってただ隣に立っているだけを許されている。
(この人が、私の初彼か…。すごいの引いちゃったな)
私はモッズコートを握ったまま、神のみぞ知る真相を確かめ問うように、夜の空を見上げるのだった。



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