スタマイ*短編 | ナノ

桐嶋宏弥『そのまんままっぱだかで』

桐嶋視点 微裏 切甘
名家の令嬢で九条の婚約者。(親が勝手に決めた)
親は九条と交際してると思っているけれど、実際は九条公認で桐嶋と恋人関係。
現在、親に九条といつ結婚するのかせがまれている。

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「あー!すごい!」
部屋の窓から露天風呂を見て、ナマエは嬉しそうに声をあげた。その様子を見て、この部屋を選んで良かったと改めて思う。

今日は、

俺とナマエの最初で最後の温泉旅行___。


露天風呂付きの老舗旅館の一室。カップルにオススメってネットで調べて予約した。貯めてた給料全部注ぎ込んで、今日一日はずっと二人きりで楽しむ。そう決めて来てんのによ、またナマエは…。
「お前、なんでそんな端っこにいんだよ?もっとこっち来いよ」
「だって…」
「今更何恥ずかしがってんだよ。もうとっくに裸の付き合いだろうがよ」
「裸の付き合いって…そうかもしれないけど、お風呂はまた別っていうか」
せっかく二人で風呂に入ってるのに、傍に来ねぇ。もっと近くにいたいのに、恥ずかしいってなんだよと思いながら、引き寄せる理由を探す。何かないかと裸にバスタオルだけを巻いているアイツに目を向けてどうしても考えるのは…。
「くちゅんっ」
くしゃみをするアイツを見てやっぱり。温泉はすげーあったかいけど、この時期の夜は冷えるからなと理由を見つけた。
「いいからこっち来いよ。寒いんだろ?」
理由なんて何でもいい。とにかく今日はできるだけ近くにいたい。ただそれだけだった。俺に言われてのそのそとこっちに移動するナマエの腕を引っ張って引き寄せる。
(冷てぇ…)
肩に触れると、そこそこひんやりした空気に体温を奪われて冷たくなっていた。そのまま横から抱きしめてみるけれど、あんまり体温は変わらない。
「これじゃあくしゃみもするわけだ」
「風当たりが強いからね」
「ん?そんな強い風吹いてるか?」
「…うん。ちょっと、痛いくらいには」
空気はひんやりするけど、風なんて全く吹いていない。よくわからねーが、そう返すナマエはいつもより暗い感じがする。これは多分、なんとなく今日が最後だって気付いてるのかもしれない。今日は、ずっとそんな感じだった。観光しながら歩いてても手を繋ごうとしない。飯食ってる時も美味そうに微笑んではいたけど、俺の方をあんまり見てくれなかったような気がした。だから、俺から手を握ったし、口開けさせてナマエが好きそうなもんを俺が食べさせてやった。それなのに…。
「ナマエ、こっち座れよ」
横から抱きしめてもこっちを向かないのなら、いっそ後ろからと俺の足の間に座るように促した。
「俺に寄りかかればあったかいだろ?」
こうすれば密着度も高まるし、温かくなる。顔は見えないけど、ナマエが傍にいるって感じられんならそれでいい。
「うん、そうだね」
少しだけ笑って返事をしたナマエは、俺の言う通り俺の足の間に腰を下ろした。俺に寄りかかって、一人で座っていたさっきより体が沈んで、肩まで湯船に浸かり、ふ〜っと緩やかにため息を吐く。
「お嬢さん、いかがですか湯加減は」
「ん〜極楽極楽」
「なんだよ、そのキャラ」
「宏弥だって、誰かの真似?」
「いや、ちょっとふざけた」
そういうとナマエはこっちをチラッと振り返って笑った。その顔を見て、ちょっとだけ安心する。今日は、笑顔を見たかったんだ。楽しんでもらいたい、俺といられる時間を。
「こうしたら、もっとあったかくねーか?」
「…うん」
俺に寄りかかるナマエをそっと抱きしめると髪からいい匂いがして、ベッドで抱いているときのことを思い出した。俺の大好きなこの匂い、シャンプーの香りだって抱いたあと話してくれたっけな。オーダーメイドで作ったシャンプーだから、世界に1つしかないって話で、すげー高いんだろうなと思ったのを覚えている。思い返してみると、ナマエと自分の間に格差を感じて、今日どうして旅行をしているのかを再確認させられるのが、少し嫌だ。
(ナマエ…好きだぜ。俺のものに、なんねーかな…)
今、言うべきではない気持ちを胸に刻みながら、ナマエの腰周りを手でなぞる。太ももに手を這わせて少しバスタオルを捲るとその手を取られた。
「ちょ、宏弥っ!?」
「しょうがねぇだろ。お前の裸見てたら、そういう気分になってきたんだから」
振り向いて少し困った顔を見せたナマエは、段々と手の力が緩み、目を細める。のそのそと動いて俺と向かい合うように俺の上に座り直して、甘えるように俺の首の後ろへ手を伸ばした。
「じゃあ、チュウして?」
動いたせいでナマエの体から巻いていたバスタオルが解けていく。着崩れした隙間から綺麗な白い肌を見せつけられて、我慢出来るはずもなく俺はナマエの腰を引き寄せてキスをした。
「…ん、」
「ふ…」
こうやってゆっくり出来るのも最後かもしれないと思うと、離れたくない気持ちが強くなって、離してやれない。角度も変えずにナマエの口内を舌でまさぐり続けた。
「んん…っぁ」
息が苦しくなったのか、離れようとナマエの手が俺の肩までおりてきて軽く押される。でも俺は、
(もっと、こうしてたい)
もっと腰を抱き込んだ。それから、少しだけ目を開いてみると困った表情で顔を真っ赤にするナマエがいる。それが余計に行為を続けたくなる原因になって、俺は唇を離してナマエの着崩れたバスタオルを剥いだ。
「はぁ…ぁ…宏弥、流石に、苦しぃ…よ」
「悪ぃ」
呼吸を整えるナマエはやっぱりエロい。もっとその顔を見たい衝動にかられて、やんわりとナマエの胸を揉みながらその胸に舐めるように口付けた。指がたまに乳首に触れるからか、また頬を染めて少し体を震わせる。バランスを崩して転ばないように片腕でナマエの腰を支えてそれが伝わってくる。
「そこ、痕つけてほしい」
言われるがままだけど俺もそうしたくて、ナマエの胸の白くて柔らかい部分に吸い付く。キスマークを付けるのはあんまり得意じゃねぇが、珍しく甘えてくるナマエの望みを聞いてやりたい。
(吸いすぎないように加減して)
初めて付けたときは、下手くそで肌を傷つけちまった。上手く加減が出来なくて、ナマエに俺の胸に付けてもらってそれを見て練習した。今は…
「ねぇ知ってる?胸にするキスには”所有”って意味があるんだって」
「…しょゆー?」
「宏弥のだって印」
それを聞いて、しょゆーってそういう意味の所有かと納得する。つまり、ナマエは俺のものって印だってこと。
唇を離して胸を見ると、少しだけ赤くなっていた。今までで一番綺麗に付けられた気はするが、やっぱり難しい。
(やっぱ、上手くできねーな)
体を少し離して赤い痕を数秒眺める。まだ赤いままだけど、そのうち消えるだろうなと思いながらナマエの顔を見ると、痛かったのか少し目を閉じて息を吐いた。ナマエの姿がエロくて興奮が収まらない。でも風呂の中で続けるとか、嫌がるかもなと思って俺は両手を緩めた。
「宏弥?」
「…いや、これ以上やったら止まんねーから」
「いいよ、ここでしよう?」
「マジかよ。あー、でも今ゴム無ぇからダメだ。部屋戻ってからにしよーぜ」
「大丈夫。宏弥…触って」
そう言ってナマエは俺の手を取って自分の股に当てる。さっきまで恥ずかしいとか言ってたくせに急に大胆になるナマエに変な感じがするけど、顔がすげぇエロいからつい魅入ってた。
「ここに、宏弥の」
「な、勝手に俺の指使うなよ」
勝手に俺の指を割れ目に滑り込ませて、ナマエは頬を染めながら真っ直ぐ俺を見ている。その表情は微笑んでいるように見えて、なんか少し寂しい感じがした。
「私、知ってるよ。結婚を認めてもらう方法」
「…あ、ちょっ…おい」
小さな声で呟いた言葉にハッとする。もうデカくなり始めてた俺のを空いてる片手でタオルの上から撫でるナマエは、俯いて話を続けた。
「嘘なの…大丈夫って。本当はね、危険日なんだ」
撫でる手を止めて、消えそうな声が俺に言う。最初、知らない言葉にピンとこなくて、顔をしかめた。けど、考えてみればなんとなく意味がわかってきて、危険日ってのは、多分ヤったらヤバい日ってことじゃないかと思う。
(大丈夫が、大丈夫じゃないってこと…だよな。てことは、ガキができるかもしれねーってこと…か)
それなのにどうしてナマエは大丈夫って言ったのか、よくわからなかった。なんで嘘をついたのか、風呂があったかいせいで、頭がぼんやりして考えが鈍くなる。でも、ナマエが今やってることは、なんかおかしい気がして、俺が止めないとまずいんじゃないかと思う。
「だから、上手くいけば認めてもら」
「そんなの認めてもらった内に入んねぇよ」
一生懸命に考えた。こいつは、妊娠すれば結婚できると思ってそんなことを言ったんだと、わかった。わかって、俺は今ナマエにとんでもないことを言わせてるってわかった。
「うん…そうだよね。ごめんね…ごめんね」
だから、ナマエは顔を上げて俺に笑顔を向けて謝るんだ。その笑顔が、俺には笑顔に見えないのがどうしてなのか、わからない。でも、ナマエはその顔を見せないように俺と顔を違えるように抱きついてきた。
「なんだよお前、俺はてっきり…」
「…え?」
「なんでもねぇよ」
(てっきり…俺と離れたいのかと…今日一日、あんな態度とられたら、そう思うだろ)
言い方はともかく、俺のことを好きだと言ってくれるナマエの気持ちが嬉しくて仕方なかった。抱きついてきたナマエを抱きしめたくて、我慢できなくなりそうになる。
(俺…なんで別れようとか思ってんだよ)
ナマエの行動に心の奥底から何かが湧き上がってくる。怒りに似た何かが、煮え切らないまま増えて、俺を奮い立たせた。
「好きだ」
俺は想いのままナマエの背中に腕を回してキツく抱きしめる。
「俺はお前のことが好きだ。ナマエ」
一回言うだけじゃ足りなくて、もう一回溢れる想いを口にした。ナマエはちゃんと自分の気持ちを言ってくれたから、俺も本当はどうしたいのか伝えたい。思った通りにいくかはわからないけど、俺がそれを実現させるしかないと思った。
「ちゃんと準備できたら、迎えに行くから。時間かかるかもしんねぇけど。それまで絶対、誰とも結婚すんなよ!」
風に当たって冷えているナマエの背中を温めるように抱きしめる。離れたくない気持ちも一緒にぎゅっと込めて、今言える精一杯を伝えた。
「宏弥…」
「だから、これは予約な」
泣きそうな声で小さく俺の名前を呼ぶナマエに誓う。
体を優しく離してもう一度、ナマエの胸にキスを。
もう一回、今度は消えないように、強く痕をつける。
さっきより長く吸い付いて、痛いのかナマエの口から息が漏れた。
唇を離してナマエを見る。今度はさっきより、綺麗にはっきり痕をつけられた。
「よし。これで、お前は俺のな」
俺が決意の言葉を言ってナマエに笑いかけると、ナマエは一瞬驚いた顔をする。そして自分の胸のキスマークを見て「うん」と嬉しそうに笑うのだった。



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