スタマイ*短編 | ナノ

服部耀『After Halloween』

ドラマトの2019.10.31のログインコラムのネタ含む
捜査一課服部班メンバー。 年下の恋人
微裏

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日付が変わって昼過ぎに仕事から解放されて帰ってきて、やっと床に就けるとベッドに寝転がり始めたときだった。
「…耀さん」
放り出した足の方から彼女の声が聞こえる。疲れきった俺を呼び止めるには少し弱い声に、俺はそっちをわざわざ向く気にはなれないから、目を閉じたまま「何?」と相槌を返した。
「と…トリックオアトリート」
一瞬、耳を疑った。もう夢の中にいるのかもしれない。いや、現実が終わってなかったのかもしれない。さっきまで、渋谷でずっと警備を続けて散々聞かされた文言をどうして俺はこのベッドの上で聞いているのだろうか、と。寝た振りをして無視しようと口を噤む。すると彼女は傍らにやって来てもう一度、例の文言を小さな声で言った。
「トリックオアトリートです、耀さん」
「うるさい」
「耀さん…!」
「はいどーも。お菓子はリビングにある靴下の中にでも入れといて」
「もう、サンタさんじゃないですよ」
寝返りをうって彼女がいる方と反対を向く。今は一刻も早く体を休めたい。そう思って反対を向いたのに、彼女は俺が寝返りをうって空いたスペースに座り、俺の腰辺りに手を這わせる。こんなに分かりやすく拒絶を示してあげてるのに、今日は珍しく引き下がらない彼女はいったいどうしたのだろうか。大の大人がハロウィンとかいう浮かれた行事に託けて何をしたいのか、理解なんてしたくないというより、本当に馬鹿馬鹿しい。
「耀さん、まだ寝ないでください」
「しつこい」
俺はいい加減黙らせようと俺の腰に触れていた彼女の手を取った。彼女は俺の急な行動に驚いて一瞬体を震わせ、その振動が少し手から伝わる。目を開いて振り向くと、やっぱりいつものように少し怯えた表情の彼女がいた。と同時に、俺は目を疑った。
(赤い…ワンピース)
「何その格好、サンタガール?」
「違っ、違いますよ。ちゃんと耳と尻尾ついてるでしょう」
彼女の言う通り、よく見ると頭に黒い猫耳と針金でも入っているのか、くるんと輪っかになっている長いふわふわの尻尾がお尻の方から伸びていた。髪が黒いから黒い耳と尻尾なのだろうか、普段からニャンコっぽい彼女に似合いすぎていて、気が付かなかった。それにしてもやはり赤いワンピースの方が目立つ。俺は体を起こして彼女の方を向き、ベッドに胡座をかいて座った。
「ほれ、起立。1周回ってニャン」
「にゃ…にゃん」
恥ずかしがり屋の彼女は恥ずかしがりながらも、基本的になんでも俺の指示を聞く。だから、ゆっくりと俺の目の前で回り、両手をグーにしてニャンコのポーズを決める彼女は、やはり恥ずかしがりながらも、言う通りに動いたわけで。
(それにしても、随分とイヤらしい格好だこと)
赤いワンピースは赤いワンピースなどではない。回ってもらってわかるそれは、所謂セクシーランジェリーってやつじゃないかと。じゃなきゃ、こんなに透けてないでしょうよ。背中にはブラジャーから繋がるスカート部分の真ん中にスリットが入り、パックリと割れて肌が見える。焦らしなのか、お尻の部分にリボンが付いていて、スリットもそこだけ留められている。薄らと透けて見えるお尻には殆ど布がない。そう見えるのは俺だけだろうか。
「…耀さん」
じろじろ見ていると耐えかねた彼女が声をあげる。恥ずかしそうな顔をしているけど、彼女は自分から恥ずかしい格好を見せつけてきている。俺にどうして欲しいのか、分かりやすいが本当に今日はどうしたんだろうか。
「ほーん。淫魔にでもなったつもり?」
「い、淫魔だなんてそんな…」
「じゃあ、ただの新しいパジャマ?これから毎晩そんなエッチな格好で寝るの?」
「…一応、ハロウィン限定のコスプレです」
「ハロウィンもう終わったけど」
アホらしい。ハロウィンに託けて無駄な時間を過ごすことに溜め息が出る。なんでこんなことになったのか、急に、発情期のメスネコのように、恥ずかしがり屋なりに甘えてくる。いや、恥ずかしがり屋なりには違うか。恥ずかしがり屋のくせにらしくないことをしている。
「疲れた」
「そう、ですね」
彼女が返事をした通り、彼女も俺と一緒に警備にあたっていたわけで、一緒に疲れて帰ってきたはずなんだ。
(は…どこにそんな体力残ってるんだか)
突きつけられた選択肢は明確だ。いつまでもこのままでは全く休めないし、俺も彼女も…。
(限界って、こういうときに使う言葉だっけねぇ)
ふと、時計に視線を移すと今日は金曜日と表示されていた。明日は土曜日だ。確か、何か緊急がない限りは非番。俺も彼女も。
「ナマエ、お手」
「あ、はい!」
俺が差し出す手に、彼女は従順に対応する。
「おかわり」
「はい」
両手を差し出して、これで彼女を捕獲することに成功。まあもう既にうちの飼い猫だけど。
「はいよくできました。おいで」
「………えっ?」
俺はそのままベッドに仰向けに寝転がって彼女を引っ張り込む。軽く「危ない」と悲鳴をあげながら俺の上に倒れ込む彼女を受け止めると、少し睨まれた。
「それで、ナマエはどっちがいいの?」
「何の…ことですか?」
「甘いお菓子と、キツいお仕置き」
彼女の思考を詠むのは容易い。わざわざ詠むほどでもないが、別に顔に出やすいわけでもない。まあ今は真っ赤にしてるだけだけど、どうせ何かあってハロウィンに託けてこんなことしてる。俺の愛で深くまで沈められたい、そういう気分なんだろう。
「な…なんでイタズラじゃなくてお仕置きに」
「ハロウィンだからって、露出が多すぎませんか?お巡りさん」
「それは室内だから関係ないです」
「俺の許可なしにイヤらしい格好してるのは条例違反だよ?お巡りさん」
話をしながら徐々に彼女の体に触れていく。彼女の腰に置いていた手の片方を下へ、彼女のお尻をいつものように撫で回す。吸い付くようなスベスベの肌に、弾力のある俺好みの大きめのお尻。ご無沙汰だったこともあって、軽く溜め息が出るくらいには気分が高揚する。
「っ…耀さん」
「あらー、パンツ殆ど履いてないようなもんだねぇ」
裾から手を入れて、彼女のお尻の割れ目を指でなぞると彼女は小さくビクンッと体を震わせる。割れ目に沿って布が敷かれているだけのそれは、最早パンツとは言いがたくて、そんなものを履いている彼女が少し可笑しくて笑えた。
「ぁ…や…っん…耀さん…!」
布の上から指でなぞるも、面積が狭いせいで割れ目に食い込んでいく。届くところまで前の方へ指を伸ばし動かすと、無意識だろうけど少しばかりその割れ目がヒクヒクと動いた。
「で、トリックとトリート。どっちが欲しいの?」
(まあ、どっちを選んでもやる事は一緒なんだけど)
触れたいなんて、思うほど俺は疲れていたのかもしれない。先月から相次ぐ雨と事件とで散々だった時間を経て、人手不足によるハロウィンの警備。本当にくだらない。 ハロウィンなんて、本当にくだらない。
くだらないけど、俺も彼女も。
ハロウィンに託けてでしか、素直になれないとか…
「は…馬鹿だねぇ」
自分とナマエに言い聞かせるように、溜め息混じりに呟いた。彼女の頭を撫でてやると、元々染まっていた頬をまた、より色濃く染める。
「耀さん…私もっと…耀さんのことも…」
俺の上で、思い詰めたような悩ましい表情で俺を見る彼女へ「なあに?」と期待する自分がいることに気付かない振りをする。こんなことに絆されて、自ら無駄な時間を作りにいってるなんて、自嘲するしかなくなるから。
(でも、たまには無駄な時間も悪くないか…)
それ以上を言葉にできないのは、俺も彼女も一緒。だったら、行動で示せばいい。
「口に出せない気持ちまで、俺が全て汲み取ってあげようね」
彼女の耳元に顔を近づけて息を交えて唇を動かした。そのまま彼女を持ち上げてゆっくりと体を反転させ、ベッドのスプリングを唸らせる。組み敷いた彼女は嫌なのか嬉しいのか、どちらとも取れる艶やかな顔で俺を見つめ、瞳を揺らした。いいや、それは俺も同じかもしれない。多分、俺も今。満更でもない、イヤらしい顔をしている。
(さて、どういただこうかね)
赤い唇に口付けながら考える。考えながらも手はまた彼女のお尻の下に忍ばせて、お気に入りを愛撫する。そうして俺たちは、いつものようにホッと一息つくのだった。



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