スタマイ*短編 | ナノ

山崎カナメ『ループタイに預けて』

山田の彼女(みっちゃん)の後輩
カナメに片想い中
一度山田カップル含めダブルデートしたことがある関係

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「あの、カナメ先輩!…第二ボタン…ください!」
卒業式を終えて早々に帰ろうとする彼を見つけ、私は焦るあまり呼び止めるように願望をぶちまけた。彼は振り返っても特に驚いた様子はなく、頭を下げている私をいつものように冷静な顔で見つめ、「ふーん」と軽く相槌をうつ。
(言ってしまった…)
ゆっくりと私の方へ歩みを進めてくる彼の足が視界に入る。そして私の前で止まり、上から彼の声が降ってきた。
「ねぇ、本当に第二ボタンほしいの?そもそも制服がブレザーな時点で大分意味が変わると思うんだけど」
返ってきたのは返事ではなく、疑問と指摘。恐る恐る頭を上げるとやっぱりすました顔で私を見ていた。当の私は、彼の言ったことを頭で巡らせ、困惑する。第二ボタンの本来の意味とはなんだっただろうか。
「うちの制服なら、第二ボタンっていうより、このループタイの方が心臓に近いかな」
「心臓…」
そう言われて、みっちゃんと話をしていたことを思い出す。第二ボタンの話を彼女から聞いて、これなら私でもワンチャンあるかもと思って昇降口でカナメ先輩を待っていたんだ。

『第二ボタンは一番心臓に近いボタンだから、”あなたの心をください”って意味で貰いにいくんだよ』

頭にその言葉が浮かんできて、私は改めて口にする。
「じゃあ、そのループタイをください!」
今度は、彼の顔をちゃんと見て元気よく言えた。けれど、彼の表情は変わらず、ループタイを外す様子もない。どうしたらいいのかわからず、もう一度お願いしてみようと口を開くと同時に、彼は視線を私から外してため息をついた。
「あのさ、くださいの前にもっと言うべきことがあるんじゃない?」
またもや指摘されてしまい、私は困惑する。言うべきこととは何だろうか。考えるがわからず視線が泳いでしまう。それより、こんなに近くにカナメ先輩がいて、二人きりという状況に段々と緊張し始めている自分がいた。
(近くで見ると余計にカッコイイ…!)
ドキドキと心臓が鳴るのは、彼に攻められているからなのか、いや、大好きなカナメ先輩が近くにいるからなのかもしれない。
「俺に伝えたいこと、あるでしょ?」
さらに近くに、彼は私の顔を覗き込んで一瞬ニヤリと笑った。透き通った綺麗なブルーの瞳に私の顔が映っているのがわかるくらい近くて、頬に熱が集まる感じがする。
(あ、私の顔、すごく真っ赤になってる)
「あ、あの、先輩…近いです」
反射的に距離をとろうと手を前に出すと、すぐにその手を掴まれた。その人形のように白い冷たそうな手は意外にも温かくて…いや、少し熱いように感じる。なぜだかギュッと握られ、彼はまた、すました顔で私を見つめて呟いた。
「てゆうか、俺がちゃんと聞きたいんだけど」
それは、この距離だから聞こえるくらいの小さな声で、

「俺のこと、好きって…」

彼は呟いてから、少し不満そうな表情で頬を染めて目を逸らした。その見たことのない彼の姿に私の視線はくぎづけになり、目が離せなくなる。聞き間違いかと思ってしまうほど衝撃的な言葉に確信が持てなくて、私は思わず口を開いた。
「カ…カナメ先輩、今なんて…」
私が喋ると同時に、彼は私の足元に置いていたスクールバッグを取り、自分の肩にかける。そしてくるりと反転し、正門の方へと歩み始めた。
「えっ!…ちょ、カナメ先輩!」
私のことなど構いもせず、彼は正門へスタスタと歩いていく。鞄を人質にされてしまったからには、着いていくしかなく、私も慌てて彼の後を追った。走っているわけでもないのに彼の足は速くて、やっとの思いで正門にたどり着くと、彼は正門を一歩出たところで私を見て待ってくれていた。
「あのっ…せんぱ…ぃ、速いです」
「アンタにこのループタイ、あげてもいいと思ってるけど、俺も…アンタのほしい」
少し息切れしつつ顔をあげると、また予想外なことを言われる。心の準備が出来てないときに言われると心臓に負担がかかるというか、キュンとして、一瞬で舞い上がってしまう。
(私の…ほしいって、私のこと、カナメ先輩はどう思ってるのかな…?)
彼の気持ちがはっきりと分からず、瞬間的に喜びはするものの、もしかしたら勘違いかもと頭を悩ませる。
「だからアンタが卒業するまでに、ちゃんと言えるようにしといてよ。それまで、このループタイはお預け」
けれど、彼が真剣な眼差しで私を見つめるから、勘違いしてもいいのかなと思ってしまう。もやもやと…いや、ふわふわとした気持ちのまま、ぼーっと彼を見つめながら一生懸命頷くと、すました顔から少しだけ、ニコリと彼は表情を変えて私の頭をポンと撫でた。
「花びらついてた」
いつの間にか頭に桜の花びらがついていたらしく、今のはそれを払ってくれたみたいで、なんだか優しく触れられたことにまたキュンと心が熱くなって顔を覆いたくなる。
(そういうの…本当にカッコイイから)
惚けていると、突然私の手を掴んで「帰るよ」と引っ張られる。また触れられたことに驚いている私をよそに、そのまま指を絡められ恋人繋ぎに変わった。その彼の行動が、どういう意味なのかは、まだはっきりとわからない。恋人になったわけじゃないけど、卒業式だけど、お別れじゃなくて、少しだけ、彼に近づけたようなそんな気がして。
「家どこら辺?」
振り返る彼は、やっぱりすました顔をしている。でもその綺麗なブルーの瞳は、私を見てくれている。
それだけでも嬉しくて、私は空いている手で胸のループタイをぎゅっと握りしめて答えるのだった。



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