スタマイ*短編 | ナノ

可愛ひかる『夢見るその唇』

同級生恋人 瀬尾研のメンバー
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あ、柔らかい。

柔らかい何かが唇にあたる。そのまま、ぎゅっと抱きしめられた感覚が体全身に走って、なんとなく鼓動が速くなる気がした。
(あれ…?私…キスしてる?)


目が覚めると見覚えのあるソファに志音くんが寝ている姿が目の前にあった。数回瞬きをしても、やっぱりそこに志音くんはいるから、現実だと自覚する。私は…
(あ、ずっともたれかかってたのか)
隣にひかるくんの膝が見える。顔を上げるとやっぱりひかるくんが私の隣にいた。
「あ、起きた」
彼はスマホを片手に私をあいた手で優しく支えて起こしてくれる。
「ごめん、重かったでしょ?」
「ううん、全然。それにそんな長い時間寝てないよ」
そう言われて部屋の時計を見ると夜の8時を過ぎたところだった。確かに彼の言う通り、みんなで瀬尾さんの手伝いをしにお家に来て、7時くらいに夕飯を食べて、デザートに郁人さんが買ってきてくれたイチゴを食べたら眠たくなって、休憩しようかってなって…。
「あ、でも」
「ん?」
「夢見てたでしょ?」
指摘されて、さっき見た夢が一瞬で脳内に甦ってきた。ぼんやりと記憶に残るのは、誰かの唇で、それが誰のものなのかわからない。でも私よりちゃんと手入れされていて、綺麗な唇だったことは確かだ。
(若い子…志音くんの唇綺麗)
スースーと寝息をたてて眠る志音くんの唇をまじまじと遠目に見つめる。けれど、なんか違う気がして私はひかるくんの方を向いた。
「夢…見たかも」
「やっぱり!なんか、うんうん唸ってたから、辛い夢じゃないかなって心配してたんだ」
「えっと…違うかな」
急に手を握られて少し戸惑いつつ、大丈夫だと彼を安心させようと自然と手を握り返した。彼は「よかった」と笑顔を私に見せて、話を続ける。彼が唇を動かすから、思わずそれに目がいってしまって、またさっきの夢が脳内を駆け巡っていく。こっちの方が似ている。ひかるくんの荒れてる様子が全くないとても綺麗に手入れされた薄いピンク色の唇が、さっきの夢に出てきた唇とそっくり。ということは、私は…
「ナマエちゃん?」
「え…?」
「大丈夫?ぼーっとしてたみたいだけど、まだ眠い?」
突然、ひかるくんの可愛い顔が目の前に現れる。私の視界には彼の唇しか映っていなかったが、急に彼の大きな瞳に自分の顔全体が映し出されているのがわかるくらい近くに、彼の顔が私を見ていた。
「大丈夫、ごめん、ちょっと考え事してて」
「ふーん、そう。ねぇ、そういえば○ちゃんは初夢って見た?」
「初夢?」
「年が明けて、最初に見る夢のこと。一富士二鷹三茄子とか言うでしょ?僕はねー」
年に何度も聞かない言葉を言われて一瞬なんの事だかわからなかった。初夢は正直覚えてないけど、覚えてる夢の中からなら、今見ていた夢が今年初めて見た夢に該当するかもしれない。

私が、誰かとキスする夢

(一富士二鷹三茄子ではなかったけど)
衝撃的な夢だったことには違いなく、私はまた、思わず彼の唇に視線がいってしまう。私より綺麗な唇は、すごく柔らかくて、優しいいい香りと、そして甘い。甘酸っぱいイチゴのような、そんな味がした気がする。変だ。夢なのに、そんな匂いとか味とか、するわけないのに。
「僕ね、もっといい夢見ちゃった」
そう言って彼は嬉しそうに笑う。でもなんだか、その笑い方は少し不敵で、妖艶で、いつもの可愛い彼と違う笑い方だった。
「一富士二鷹三茄子より、いい夢?」
「そう!なんだと思う?」
いつのまにか彼の手が私の腰に回っていて、少しだけ近くに寄せられる。その行動にドキッと心臓が跳ねた気がした。そして私は、また彼の唇から目が離せない。だって、なんだか
(近いんだもん。夢の中みたいに)
段々と鼓動が速くなるのを感じながら、私は唇をぎゅっと閉じた。
「ずっと、僕の唇見てるよね。もしかして、同じ夢見てたとか?」
彼の言葉は、私の耳から心臓の奥底への沈み溶けていく。図星で、それでいて期待させるようなこの状況に、どうしたらいいかわからず、ただじっと耐えた。
(これって…夢?)
そう錯覚させるかのようにしか、動いてくれない。
ううん、そもそもさっきのは夢だったのだろうか。あの、優しい香りと甘酸っぱい味のするあれは、夢なのか。

「もう一回、キスしてもいい?」

聞こえてきた言葉に返事はできず、私はただ、うんうんと唸るように喘ぐのだった。



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