スタマイ*短編 | ナノ

宝生潔『真実はハムスターにあり』

宝生→夢主に片想い
宝生の同級生
動物好き。メスのハムスターを飼っている。

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「潔くん」
名前を呼ばれてハッと顔をあげる。目の前には同級生のミョウジさんがいて、心配そうな顔で俺を見ていた。
「な、なんでしょうか」
「大丈夫?やっぱり具合悪い?」
俺の表情を見てか、彼女は優しい言葉をかけてくれた。それだけで俺は嬉しくて、でも心配してくれているのにそんなことを思っていることが申し訳ないとも感じる。
「だ、大丈夫。具合悪いとかでは…ないから」
「そうなの?でもぐったり寝てるよ?」
「ぐったり寝てなんて…あ」
言われて気づいた。彼女が心配そうに見ているのは俺じゃない。俺の手の上で眠っている彼女のハムスターを見ている。
(そうだった…。ハム子ちゃんの様子を見てほしいって頼まれたところだった…。それなのに俺、勘違いして…恥ずかしい)
動物好き仲間である彼女が、最近飼い始めたハムスターの様子がおかしいから見てほしいとハムスターをこの瀬尾研究室に連れて来ていた。前にうちのハム男くんと遊んだときは元気にしていたのだが、確かに今日は疲れた様子で眠っている。
「それで、どう?何かわかった?」
「えーっと…」
(前に会った時は、こんなに大きくなかった気がする。成長したのかな?でも、子供ではないし…)
軽くハム子ちゃんを撫でるとお腹に膨らみを感じ、もしやと思い、ハム子ちゃんを優しくひっくり返す。お腹を見てみると思っていた通りの膨らみ方をしていた。
「妊娠…してると思います」
「え!?妊娠?赤ちゃんできたってこと?」
驚いた顔で立ち上がった彼女は、首を傾げて難しい表情で何かを考え始めた。そして俺の隣に座り直し、ハム子ちゃんのお腹を撫でる。
「潔くんの勘違いじゃないんだね」
「おそらく、そうだと思います。一度、動物病院に行きましょう」
獣医ではない俺には正確なことがわからない。けれど今まで本やネットで調べた限り、この感じは妊娠で間違いないだろうとは思う。彼女はあまり納得がいっていないようで、まだ難しい顔をしている。そんなに眉間に皺を寄せたら跡が残ってしまうのではと思い、彼女の額に手を伸ばそうとした瞬間、彼女の視線が俺に向けられた。
「潔くん」
「な、なんでしょうか」
「病院に行く前にはっきりさせたいことがあるの」
そう言って彼女は、またハム子ちゃんのお腹を触って話を続けた。
「この子の父親が誰なのか」
「…父…親ですか?」
「そう。だってハム子には恋人、もとい恋ハムなんていないし。他のハムスターと遊んだのだって、この前の潔くんところのハム男くんだけだし。…ん?…え?」
その瞬間、俺達はとんでもないことに気づいてしまい、お互いに口をあんぐり開けて見合わせた。そしてもう一度ハム子ちゃんのお腹を撫でてみる。
「ハム男くんが…お父さん…そんな、どうしよう」
俺のハムスターが他所のメスハムスターを身篭らせてしまった事実が衝撃的すぎて、手のひらの上にいるハム子ちゃんを遠ざける。
「落ち着いて潔くん。でも、どうしたらいいんだろう?人間だったら…」
彼女は動揺する俺の手からハム子ちゃんを受け取り、ケージの中に戻した。そして、彼女の方に伸ばしたままでいる俺の手を包み込むように握って、俺に真っ直ぐ真剣な眼差しを向けてくる。
「潔くん、結婚しよう!」
「…結婚!?」
「お腹の子にはやっぱりお父さんが必要だと思うの」
彼女の手に力がこもってドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。そんな顔でそんなことをされたら、まるで自分がプロポーズを受けたような気持ちになってしまいそうだった。急いで一瞬頭に浮かんだ彼女の花嫁姿を消し去り、俺はもう一度ハム子ちゃんを見つめて口を開いた。
「あの…結婚は、ちょっと違」
「潔くん、おめでと」
話始めようとした瞬間、さっきまでソファで寝ていたシオンが起きて、こちらを見ていた。そのまま彼は、いつもとは違った様子で話し始める。
「結婚おめでとう」
「…シオン、え、あ、いや、違」
「学生結婚って大変だなぁって思うけど、頑張って。新居に遊びに行きたいから招待してほしい」
シオンは嬉しそうな顔で俺の隣に座ってそんなことを言う。完全に勘違いされているこの状況を一緒に弁解してほしくて彼女の方に振り返った。
「ミョウジさん…あの」
「潔くんと…結婚…?でも、そうすればハム子とハム男くんを一緒に飼えるね」
照れているのか、頬を赤く染めながら微笑む彼女はきっと、気不味くならないように言ってくれたのだろうけど、それは逆に、そんなことを言われたら…

(意識してしまう…)

「名案でしょう?」
気がつくとハム子ちゃんを触っているシオンは笑顔で俺に…俺と彼女に言った。いったいどこまでわかって言っているのだろうか。ハムスターの妊娠のこと。それとも

俺が彼女に好意を持ってることも…。

(流石だ、名探偵)

結局、3人で生まれてくるハムスターの里親探しを始めることになるのだった。




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