スタマイ*短編 | ナノ

日向志音『R18』前編

年上社会人 元瀬尾研究室のメンバー
 日向視点

*********************************
準備完了。
今日は、大好きな恋人と久しぶりにデート。
この日をどんなに待ちわびたことだろう。
君も、楽しみにしてくれていたらいいのだけれど。
僕は未だに、彼女の本心を知らない。

「ねぇ、私と付き合わない?」
誘ってきたのは彼女の方だった。
睡眠の研究をしていた彼女は、僕がいつも眠い体質なのを見て持ちかけてきた話。彼女の言い分だと、恋人になった方が一緒に眠れる機会を作りやすいから。
強制ではなかった。
でも僕は彼女の恋人(研究対象者)になることを選んだ。
最初はこんな気持ちになんてならなかった。
デートは研究を兼ねてのお昼寝だったりと、普通は考えられないような、なんのときめきもない日常を彼女と過ごしていた。
好きだと気づいたのは、3ヶ月くらい経ってから。
ちょっとしたアクシデントがあって、そのときにキスをねだって少し強引に唇を重ねた。
そのときもまだ、僕は彼女の口から「好き」という言葉を聞いてはいない。でも、キスを拒まなかったということは、僕を好きでいてくれているのだろうか。
大学を卒業して、瀬尾研究所を出ていき、僕と会う回数も減っていった。
会うのは2ヶ月に1回程度で、18歳で初めて恋人ができた僕には、少し足りないと感じる。
だから、今日は会うのが本当に久しぶりで、すごく興奮している。

今日は、もう一歩大人になるために、以前から考えていたデートプランを実行する。
そして、彼女を僕のものに…

『今日は彼女の家に泊まる』

お母さんにLIMEを送った。
僕は、自分の覚悟を表すように
彼女の家のインターホンを力強く押した。


夢主視点
*********************************
来て早々にやはり、彼は眠るのです。
「ちょっと起きてよ。お昼寝しに来たの?」
まるで志音のために開発された様なベッドにもなるソファ。彼は、私の部屋にあるそれをベッドサイズに広げて寝始めた。
「寝るなら帰って」
「…起きる」
冷たくすると、大体起きる。これは、私と交際を始めてから躾た覚醒方法。深い睡眠に入ってるときは無効だけど、志音の睡眠は浅いし、狸寝入りも多い。
今日は久しぶりにデートしたいと珍しく志音から誘ってきた。どこに出かけるのかと思いきや、うちで見たい映画があるとDVDを持って、私が一人暮らししている部屋へ。
「つけるからDVDかして」
そう言って、ソファベッドで転がっている志音に手を差し出したが、ボケっとした表情でのそのそと体を起こすだけで、動こうとしない。
「ん?」
「もう見るの?」
「え?見ないの?」
「見るけど…」
何故か乗り気でない彼は、持ってきた大きめのトートバッグからDVDを取り出して、伏し目がちに私に差し出す。パッケージには、探偵帽を被ったハンサムは役者と何人か、右上にセクシーなドレスを着た金髪の美女が写っている。
(推理物、ミステリー洋画か)
彼が好きそうな普通のミステリー系だと思うが、まさかホラー要素でもあるのか、少し落ち着かない様子で私を見上げている。
「ねぇ、これもしかして小説が原作?」
タイトルに見覚えがあり、確か志音が前に読んでいた気がして聞いてみる。
「うん、そう。読んだことある?」
「ううん、ない。志音が前に読んでいた気がして」
「うん、読んでた。映画になったから、前から買おうと思ってた」
嬉しそうににっこり笑う志音を見て可愛いと思う。口に出すと嫌がりそうなので、こちらも微笑み返してDVDをデッキに入れる。再生ボタンを押して、私もソファに座った途端、志音が私の肩にもたれかかるようにぴったりくっついてくる。これでも恋人だ。嫌な気はしないけど、久しぶりに触れるとドキッとしてしまう。大人なんだから、もう少し余裕みせないと。
「志音は結末知ってるんでしょ?」
「うん。でも映画は視聴者が一緒に推理できるように、細かい部分まで再現したんだって。監督のこだわりで。僕も読んだの随分前だし、楽しめそうだなって」
「へぇ、じゃあ私も頑張って推理してみようかな」
「最初から最後まで見逃さないでしっかり見てね」
彼はそう言って、またにっこりと私に笑顔を向ける。さっきよりも近距離のせいか、思わず彼の顔を見る。お人形さんのように綺麗な顔。好みのタイプではなかったが、陶器のような肌と、ガラス玉のようにキラキラした瞳に吸い込まれるようにいつも見とれてしまう。
「ね、始まったよ」と声をかけられてハッとする。
(いけない、また見とれてた)
映画が始まって、私たちは画面に釘付けになる。
とある宿泊施設で殺人事件が起き、残っているメンバーから犯人を見つけるというシンプルなお話だが、どうも人間関係が複雑で、なかなか犯人が突き止められない。中盤に差しかかり、登場人物たちもシンキングタイムに入ったので、志音が一時停止して立ち上がった。
「トイレ行ってくる。戻ってきたらナマエちゃんの推理教えて」
(推理…)
その間にお茶とお菓子をソファベッドの前にあるローテーブルに用意する。映画に夢中ですっかり忘れていた。
志音が戻ってきて、お菓子を手に取りながら再生ボタンを押す。「あ、ナマエちゃんの推理」と言われたが無視して今度は私が志音の肩にもたれかかり、鑑賞を続けた。

そして、突然そのときはやってきた。

物語は推理ショーが始まる1歩手前まで進み、これから犯人がわかると楽しみに画面を見ていた。しかし画面は切り替わり、薄暗い部屋のような映像に。若い男女の声が聞こえ、最初の頃に登場人物として出てきた男女が映される。
(え!?ちょっと待って!この二人って恋人同士だったの?)
そんなことを思っていたのも束の間にラブシーンが始まった。画面に映る二人は濃厚なキスを交わし、どんどん服を脱ぎ始め、ベッドにダイブする。角度や物で大事な部分は上手く見えないようになっているが、完全なるベッドシーン。
私が驚いて目を見開いていると、スッと何かが私の腰にあてがわれた。状況を察して背筋がゾクッとする。大分くっついている状態だったにも関わらず、志音が私の腰を引き寄せようとしている。
「どうかした?大事なシーンだから、ナマエちゃんもちゃんと見ないと犯人わからないよ?」
おまけに耳元で囁かれて、私は居たたまれなさMAXに達した。
私はサッと立ち上がり、リモコンでテレビを消した。
問題はこのあとで、志音に何を言えばいいのかわからず、少しだけ距離を置いて志音の隣に座り直した。そしてじわじわとこみ上げてくる恥ずかしさに耐えながら、テーブルに置いていたDVDのパッケージを手に取り確認する。裏面の下の方に小さく”R18”と書いてあった。
(そういうことか)
ため息をついてパッケージをテーブルに戻す。とりあえず落ち着きたくて、お茶も一口飲んだ。
志音は黙ったまま私を見ている。視線を感じる。テレビを消したことに文句も言わず、いつものようにわかりにくい無表情のような顔をして、私を見ている。
「もういい?」
しびれを切らしたのか、先に口を開いたのは志音の方だった。なんのことだかわからないが、うんと返事を返す。やっぱり文句を言われるかもしれない。謎解きが大好きな志音のことだ、エロシーンからも何かヒントを得ようとして、さっきみたいなことを言ったに違いない。そして邪魔された謎解きの続きを見せろと…。
「怒られるかと思った」
「は…?」
予想外なことを言われると人間って一時停止する。何故そんな言葉が出てくるのか理解ができなかった。
「あ、でもこういうの苦手だった?」
「…??」
「…エッチなシーンとか」
志音の口から有り得ない単語が出てきたことに焦る。少しばかり嫌な予感がしたが、もう手遅れな気がした。
「そんなことないよね?ナマエちゃんは大人だから、エッチなシーンくらいどうってことないよね」
志音はにっこり笑顔で私との距離を縮めて、私の両手を捕まえた。やばい気がして顔を背ける。

「それとも…エッチな気分になっちゃった?」

また耳元で囁かれて、背筋がゾクッとするのを感じた。だんだんと顔が熱くなり、また居たたまれなくなる。
なんとかして、この状況を打破しなければならない。だって、志音とはこの類の話をまだしたことがない。普段、キスもあまりしないし、ましてやエッチな話なんて…。
(もしかして、興味のあるのかな)
そこまで考えて、スッと浮かび上がってきた疑問。よく考えれば、志音ももう18歳。性的なことに一番興味がある年頃。話題にならない方が不自然だ。私達ももう半年以上交際している。
「志音は、大丈夫なの?」
考えると自然に顔から熱が引いてきた。自分のことを考えるとキャパオーバーしてしまいそうになる。大人なのに情けない。今からは、志音のことを考えよう。志音が何を思っているのか、私は知ろうと思い、顔を上げて問いただした。
「志音は…って平気そうだね。苦手なシーンとかあっても、推理に集中して気にしなさそう」
そう言って微笑んでみせる。彼は少し驚いたように私を見ていた。
「ごめんね、途中で消しちゃって。巻き戻して続き見ようか」
私はリモコンに手を伸ばし、テレビを付け直そうとしたが、志音に伸ばした腕を掴まれて止められた。
「いいよ、つけなくて。それより、こっち向いて」
そのまま腕を引っ張られて、志音と向かい合うように座らされる。志音は相変わらずの無表情で話を続けた。
「ごめん。ちょっと、意地悪かったよね。その…したくて…」
「…え?」
「僕も、ナマエちゃんと…エッチしたくて…」
なにかの聞き間違えかと思ったが、志音の頬がほんのり赤いのを見て、本心なんだと確信した。再び私の手を握ってくる志音の手が、少し温かく、伝染して私も顔が熱くなってくる。意識すると鼓動も速くなってきて、思考が鈍り、私はただただ彼の顔を見つめた。
「それじゃあ、今からしようと思うんどけど、いい?」
ぼーっとしてるとまたすごい言葉がどんどん志音の口から出てくる。前に付き合った人とも一度は通った道なのに、何故志音相手だとこんなにも緊張して、危機感を覚えるのだろうか。
「返事、早く」
彼はにっこり笑顔で私の返答を要求し、私の肩を掴んで優しくソファベッドに押し倒した。志音はそのまま私の上に覆いかぶさり、いつもの無表情で私を見つめる。
抵抗しようかと思ったが、18歳の男の子の力は成人男性と何ら変わりもなく、女の私には抗えるはずがなかった。

もはや、逃れられない

私は覚悟を決めるかのように、そっと目を閉じた。



[ back ]


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -