スタマイ*短編 | ナノ

大谷羽鳥『突然のイケメン訪問注意』

とある大学の保健室の先生 文化祭中
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それは、やっと文化祭当日を迎えられ、お昼になりコンビニで昼食を買った帰りだった。校内を普通に歩いて、中庭から連絡通路を通れば保健室目前の状態で後ろから「すみません」と声をかけられる。
「ああやっぱり、先生だ」
振り返るとお世辞抜きでイケメンと言えるくらい顔の整った赤髪の男の人が立っていた。スーツ姿の彼は、私が首から下げた名札を見て、優しく微笑みながら近寄り話し始める。
「白衣、似合ってますね。化学の先生ですか?」
「いえ、違いますけど」
彼は連絡通路の右左をキョロキョロして何かを探している様子で話を続ける。
「実は友人とはぐれてしまって、ここがどこだか知りたいんですけど…あ、わかった。保健室の先生だ」
視界に保健室の表札が入ったようで、見事に私の役職を当ててまたニコリと微笑む。なんだろう、とても胡散臭い感じがするけれど、すごくイケメンで好みのタイプではある。
「学祭のパンフレットはもらいませんでした?」
「それが、1部しかもらわなくて、はぐれた友人が持ってるんですよね」
彼は困ったように笑い、ため息をついた。どうやら、友人とはぐれたのは本当らしい。てっきり新手のナンパかとも思ったけれど、学校内だしそんなことないか。
「携帯で連絡はとれないんですか?」
「LIMEは送ったんだけど、既読がつかなくて」
「うーん、下手に動いてもまたすれ違ってしまいますよね。校内放送をかけますか?」
「いや、それはさすがに…大人だからね。どこかで待たせてもらえればと思ってたんだけど、案内してもらえませんか?」
昼食をとろうと思っているのだけれど、無理そうだ。私は仕方なく案内をすることに決め、保健室に置いてある学祭のパンフレットを取ってくると告げた。
ガラガラと戸を開けて中に入り、ため息をつく。お腹が鳴りそうになって、咄嗟にお腹を抑えた。
「大丈夫?お腹、痛いの?」
後ろから私を心配する声が聞こえ、振り返ると先程のイケメンが立っていた。
(着いてきてる…!)
「あ、いや、大丈夫です。パンフレット…あった」
デスクに置いていたパンフレットを取り、ページをめくって喫茶店や休憩所をやっているクラスを探す。近くにはなく、どこも上の階、もしくは外の広場で運営チームがやっているだけだった。下手に建物内に案内するより、外の広場の方がいいだろうか。とりあえず聞いてみようと顔を上げた。
「ねぇ」
すると目の前に彼の顔があって、私は思わず後ずさる。いつの間にこんな近くに来ていたのか、彼は一緒にパンフレットを覗き込むような姿勢でそこにいた。
「あ、ごめん。驚かせちゃったかな。あのさ、ここで待たせてもらってもいい?」
「は!?」
「ダメ?」
彼は眉を八の字にして困った顔で私を見つめて聞いてくる。イケメンがその顔はずるい。それに…彼は出会った時から何故か、やたらと目を合わせてくる。
「用事もあるから、できればあんまり校内を歩きたくないんだよね。ここなら1階だし出口も近いから、友人とも合流しやすいと思うんだ」
そう言ってゆっくり1歩ずつ私に近づいてくる。なんとなく、彼から圧を感じて私も1歩ずつ後ろに下がるけど、少し下がったところでデスクにぶつかり動けなくなった。
「君が嫌じゃなければだけど、どうかな?先生」
どんどん彼は迫ってきて、ついに私はデスクに少し寄りかかった状態になっている。何故こんなに顔まで近くにくるのだろうか。よくわからないけれど、恥ずかしくなって心臓がドキドキ鳴るのを感じた。けれど、彼は全く動じていないようで、寧ろ慣れている様子。
(別に、ここで待ってもらっても…いや、でも知らない男の人と二人きりは…)
段々と頬が熱くなってきて、恥ずかしさに彼を押し退けようと手を前に掲げる。しかしその手は掴まれ下へ下げられた。
「先生、顔真っ赤だけど、どうしたの?」
「あ、あの」
退いて欲しいと言いかけたとき、突然室内に着信音らしき音が流れた。どうやら彼の携帯が鳴ったようで、彼はポケットからスマホを取り出しながら私から少し離れ、電話に出る。
「あ、桧山。ごめんごめん、今どこにいる?…え、なに?コンテスト?…へぇ、頑張って。俺もあとで見に行くから。…うん、ちょっと今、取り込み中」
彼は一瞬こちらを向いてニヤリと笑う。そしてすぐに電話を切り、私のところにまたやって来た。
「あはは、なんか友人と連絡ついたので、俺行きますね」
そう言われて、ホッとするけれど、何故か残念だなと思ってしまう自分がいる。別に何かを期待していたわけじゃないのに、どうしてこんな気持ちにさせられているんだろうか。
彼は下に置いていた鞄を手に取り、保健室の入口へ向かおうと1歩踏み出したが、「ああ、そうだ」と言ってもう一度私の方に向き直った。
「ねぇ先生、保健室って夜も開いてたりする?」
「…え?」
言っている意味がよくわからず、驚いてまじまじと彼を見つめる。それを見てか、彼はクスクス笑いながら急に私の頬に触れてそのまま顎のラインをなぞってきた。
「だって、ちょっと残念そうな顔してるから」
「…そ、そんな顔してな」
「はい。もし夜も開けてくれるなら連絡してくれたら嬉しいな」
彼はそう言いながら、私の白衣の胸ポケットに紙を入れてきた。なんだろうと思い取り出すと、なんと名刺が入っていて、『H&O 代表取締役 大谷 羽鳥』と書かれている。そして携帯の電話番号と、裏にはLIMEのIDが手書きで書かれていて、私は大慌てで「これって」と声を上げて彼を見上げる。しかし彼はもう私から離れていて、保健室の入口でこちらを見ていた。
「連絡、期待して待ってるから。またね、先生」
彼はウインクをして、そそくさと保健室から出ていった。
(何あの人…)
無駄にドキドキさせられたように思えるが、もらった名刺を見つめ、ため息が出る。

(ずるい)

時計を見ると出会ってから10分しか経っておらず、驚愕する。
この短時間で…
短時間で、私をこんな気持ちにさせるなんて

「もう、お腹いっぱいだよ」
なんだかやるせなくて思わずつぶやく。
結局私は、昼休み中ずっと、その名刺を見続けることしかできないのだった。



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