スタマイ*短編 | ナノ

槙慶太『答え合わせ』

series夢 「おはよう」「おやすみ」の続編
同じ夢主 会社の社員 槙の部下

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薄暗いホテルの一室。
俺は今、すごく危機的状況に陥っている気がする。

「あー、いや、その。悪い、俺昨日飲みすぎて、記憶が所々抜けてて」
「…覚えてないんですか?」
「え…えーっと、覚えてないわけじゃなくて、途切れ途切れというか、ぼんやりしてるというか…」
「……そうですか」

昨夜、甘く熱いひとときを過ごした少々乱れたベッドの上で、俺は彼女と向かい合い座っている。
泥酔した俺は、何故だか会社の大切な部下であるミョウジナマエと昨夜このビジネスホテルに訪れて、その、致したわけだが、俺の記憶は飲み会をしたことと、ホテルに着いてからのほんの一部分しかない。
朝目覚めて、隣で眠っていたのが以前から想いを寄せていた彼女で嬉しかったが、こんな、お持ち帰りという形で彼女と結ばれるなんて最悪だ。
最中も途中までしか覚えてないくらい、俺は朦朧とした意識の中でよくもまぁ、最後まで彼女を抱くことができたなと思う。彼女の首から胸元にかけて、おびただしい数のキスマークが広がっている。
(どんだけ飢えてたんだよ俺)
少し自嘲気味に笑った。
彼女はさっきから視線を落とし、思い詰めた表情をしている。やはり、記憶が曖昧という、覚えてないという発言はまずかっただろうか。だからと言って、適当に話を合わせると墓穴を掘る可能性もある。俺はそこまで臨機応変に対処できるほど、こういったことに慣れていない。羽鳥なら上手くやれそうだけど。
「あの、とりあえずシャワーどうぞ」
「え、いやミョウジが先に入れよ。俺はあとでいい」
さっきの暗い表情とは一変して、急に営業スマイルのようににこやかに話し出したミョウジ。きっと、この気まづい空気をなんとかしようとしての無意識の顔。いつもそうやってミーティング時に険悪な雰囲気になったときも、場を和ませようとこの表情を見せる。
「で、でも槙さんかなり泥酔して疲れてますよね?私は大丈夫なので、先にどうぞ」
「いや、お前の方が疲れてるだろ?あんな激しくした俺も悪いけど、腰とか大丈夫か?」
「腰…?」
何かおかしなことを言っただろうか。彼女は首を傾げて何かを考えている様子。
とりあえず譲り合っていても埒が明かない。俺はベッドから降りて、バスルームに連れていこうと彼女の手を引っ張った。
「とりあえず、ミョウジ先に…!」
俺に引っ張られてベッドから降りたミョウジから、抱えていたシーツが剥がれ落ち、下着だけの姿になる。隠れていた胸や腰や太ももが露わになって、俺は口元を抑えて咄嗟に顔を背けた。
「槙さん?」
「早く…」
一度は見てるはずなのに、まるで初めて見るような衝撃で。
彼女の体が魅力的すぎて、今視界に入れるのが苦しい。
目に毒とはこのことだ。
「か、風邪引くから早く行けよ」
咄嗟に出た言い訳はそんなもんで、ああ、俺って本当に情けないって思ってしまう。
「んふふっ」
俺が衝動を抑えようと耐えていると、後ろからミョウジの笑い声が聞こえた。振り返って、「何笑ってんだよ?」と返すと急に思い切り抱きつかれた。
「なっ、お前危ないだろ」
「槙さん、やっぱり覚えてないんでしょう?」
密着する体にやばいと感じて身を引こうとしたが、首に腕を回され、逃げられない。挑発するように上目遣いで聞いてくる彼女が、可愛すぎて思考が止まりそうになる。
「してないです」
「ん?」
「してないですよ、私たち」
彼女が何のことを言ってるのか一瞬わからず、真顔になる。
(してない…?じゃあ、あれはやっぱり夢ってことなのか?でも)
「このキスマークは?」
「これは槙さんがつけたもので、そのあと寝ちゃったんですよ」
寝落ちした事実が衝撃的すぎて、受け止めきれず、情けない気持ちが遅れてじわじわくる。確かに、俺の記憶はキスマークをつけてそこで止まっていた。
「やっぱり、全然覚えてないんですね」
少し落ち込んだ様に言う彼女は、俺の首に回していた手を外して離れようとする。それを見て、慌てて弁解するかのように、俺はやり場に困っていた腕を彼女の腰にあてて抱き寄せた 。
「お、覚えてないわけじゃ…。ぼんやりだけど…ミョウジが俺を”好き”って言ってくれたのはちゃんと覚えてる」
口にしてみて気づく。重要なのは抱いたか抱いてないかではない。キスマークでもなく、彼女も俺も求めていたのは答えだと。
記憶の有無に関係なく、今もそこにこの想いが存在しているのかという”答え合わせ”を今しなければ…
その時のことを思い出す。表情は違うけれど、今と同じくらい顔は近くにあった気がする。
腕に少し力を入れて、さらに彼女を抱き寄せると、あの時と同じ、彼女の顔が真っ赤に染まった。
「槙さん…近い」
彼女が恥ずかしそうに顔を歪めるもんだから、俺まで恥ずかしくなってくる。
それでも、今はお互いの気持ちを確かめなければと、照れながらも俺ははっきりと伝えた。
「俺も…ミョウジのこと、ちゃんと好きだから」
「…は、はい」
すると彼女は少し嬉しそうに微笑み、チラチラと俺の顔に視線を向けてくる。完全に誘われている気がするが、今回はこの誘いに乗ってあげようと思う。

「このまま…キスしていいか…?」
わかってはいるが、それでもわざわざ聞くのは少し照れる。
「…ぅん」
吐息混じりの返答に興奮は治まらず、
そのあと俺たちは、甘く深い”答え合わせ”を交わすのだった。



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