スタマイ*短編 | ナノ

夏目春『運動?いいよ、しようか』

同棲中 年齢近い 定時上がり会社員
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お風呂上がりに体重を測ったら、自己ベストより3kg増していた。これじゃダメだと原因を考えながらベッドに寝転がる。
(あ〜この時間が一番幸せ〜)
春に合わせて、会社を定時で上がれるホワイト企業に変えたおかげで、夜はゆっくり過ごせるようになった。何よりお風呂上がりにこうやってベッドでゴロゴロしているのが、一日の中で最高に幸せな時間。同棲を始めたことによって、彼と過ごせる時間も増えたし、私は今、人生で一番幸せな日々を送っているのではないかと思っている。悩みも特にない…あ。
(太腿…こんなに肉ついてたっけ?)
仰向けの状態でなんとなく足を上げると視界に入ったそれは、自分が思っていた図より、やや太くたるんでいる。特に内腿がやばい。摘める。やはり太ったんだと実感させられ、再び原因を考える。いったいいつからだと考え始めると、すぐに答えにたどり着いた。
「あ、私、春と付き合い始めてから、かなり堕落した生活を送ってる気がする」
「何それ、人のせいにしないでよ」
独り言に返事が返ってきて驚く。体を起こしてみると、そこにはお風呂上がりの春が、タオルで髪を拭きながら立っていた。
「別に春のせいとかそうじゃなくて、時期的にって話」
「時期も何も、堕落してるのはナマエ自身の気の緩みが原因でしょ」
痛いところを突かれるが、それもこれも生活リズムを春に合わせたからだとは思っている。ここで生活する前は、もう少し健康に気を使っていたような気がするからだ。歩いて出勤していたし、食べ物も栄養バランスを考えてお弁当を作ったりしていたけれど、このホテル暮らしになってからは、お金を使って楽ばかり、外食や何か買ってきての食事が多い。そして、今は毎日帰ってきたら何もせず、お菓子でも食べながらベッドでゴロゴロ、ゴロゴロして、たまに春とイチャイチャして眠る。
「運動しよう。今の生活じゃ、絶対不健康になる」
私はキリッと引き締めた表情を彼に向けた。彼は興味なさげに「頑張って」と言い、タオルを首にかけて眼鏡をかける。
「春も一緒に運動しようよ」
「なんで?」
「同じ生活送ってるんだから、春も絶対不健康になる」
「俺は大丈夫。毎年健康診断異常なしだから」
それを言われてしまうと、何も言い返せない。けれど、やっぱり彼の健康状態は心配になる。運動嫌い、飲み会以外は外にほぼ出ない彼は、絶対に私よりやばいと思う。なんとか一緒に運動できないかと私は弱い頭をひねり出した。
「何、なんで急に運動なの?」
少しため息をついて、彼は私の隣に座る。私は太腿が細くなるようにぐにぐにと手でマッサージしながら答えた。
「見てよこの太腿。ここ、内腿がプニって摘めるの」
「あぁ、ほんとだ。太ってるね?」
春は割といつもはっきり言ってくる。変に気を使われるよりはいいけど、なんだろう、今みたいに笑顔で言われるとイラッとくる。
「ジョギングとかがいいかな?足に効果あるのって」
「めっちゃ柔らか」
人が真剣に相談しているにも関わらず、彼は私の太腿を揉み始める。別に触られることには慣れているけれど、内腿は局部が近いからやめてほしいと思いつつ、私はそれについては何も言わないで話を続けた。
「朝ジョギングしてから仕事行って、夜は部屋でヨガとかやろうかな。そしたらテレビも見ながらできるし」
我ながら名案だと思い、ウキウキしながら彼の腕を掴んだ。部屋でできるものなら、春もきっと一緒にやってくれるはずと期待の目を彼に向けた。
「夜にする運動なら協力してもいいけど」
「ほんと?じゃあ一緒にヨガ頑張って続け」
彼からの協力承諾の言葉をもらい、喜んで立ち上がろうとした瞬間、彼の手によって私の体が一瞬宙に浮いた。そして気がつけば私は、春の腰の辺りに跨って座り、彼は仰向けになって私を見上げている。
「持ち上げられるけど、確かに太ったかもね」
「え…?何この体勢」
突然のことで脳内が軽くパニックになる。私の挙動不審な様子を見て、彼は笑いながら話を続けた。
「ははっ、毎晩この体勢でエッチすれば、いい運動になると思うよ」
「…は?」
「騎乗位ってやつ?やったことなかったけど、足腰使うし、毎晩すれば体力もつくよね」
彼が何を言ってるのかさっぱりわからない。というのは嘘だけど、本当に何を考えているんだろう。セックスをスポーツと一緒にするような発言が、軽いというか、馬鹿げているというか…
(なんか、恥ずかしい…)
いや、騎乗位で行うということが恥ずかしいのかもしれない。そう考えていると顔に熱が集中するのを感じた。
「運動…って言ったのに」
「だからこれも運動になるでしょ。で、今日はどうする?」
そう言ってニヤリと怪しく笑う彼を私は睨むように見つめる。しかし、太腿をがっちり掴まれている以上、逃げられないのだなと思い、私は諦めのため息をついて彼にダイブし、互いにどちらからともなくキスをするのだった。

(毎日続けられそう…にないよね、これ)

(恥ずかしい人)



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