スタマイ*短編 | ナノ

都築京介『願いましては』

京介視点 社会人OL恋人
恋人であることに自信がない夢主

*****************************
深夜0時をすぎて、やっと家に辿り着く。
明日は久しぶりのオフだし、たまには一人でゆっくり過ごそうなんて考えていたのも束の間、マンションの俺の部屋の前に、恋人のナマエちゃんがしゃがんで俺の帰りを待っていた。
彼女の前に俺もしゃがんで名前を呼ぶと、寒さのせいか声を震わせて「おかえり京介」と返事が返ってきた。どこか悲しげな表情の彼女の手を引いて二人立ち上がる。いったい何時から待っていたのか、彼女の手は冷えきってとても冷たかった。
マンションに着いたときにLIMEを確認したけど、彼女からは何もきていなかった。いつもなら、家に来る前にLIMEで連絡してくれるのに、今日はどうしたのか。
「今日は急にどうしたの?連絡もなしに」
ドアを開けて中に入り、靴を脱ぎながら疑問をそのまま聞いてみる。彼女は俯いたまま上がろうとせず、黙っている。
「何時からいたの?こんなに手冷たくして。風邪引いちゃうよ」
動こうとしない彼女のブーツのジッパーをさげて、コートとマフラーを脱がす。コートの下に着ていたのは、仕事帰りにそのまま家に来たことがよくわかるスーツ姿。手に持っている鞄も受け取り、ようやく彼女は部屋に上がった。やはりどこか悲しげな表情のまま、奥へ進む俺のあとをついてくる。
「ごめん、ちょっと散らかってるけど座って待ってて。俺着替えてくる」
とりあえず暖房をつけて彼女をリビングのソファに座らせ、俺は寝室に入りドアを閉めて溜息をついた。
着替えながら、彼女がなぜここに来たのかを考える。大方見当はついていた。おそらく、今日の昼間のニュースが原因だろう。俺と、今ドラマで共演してるアイドルの女の子の熱愛発覚と大々的に報道されていた。もちろんそんなのはガセネタで、撮影で使っていたホテルから出てきたところを撮られただけ。今日、マネージャーが訂正に駆け回ってくれているけれど、訂正の報道がされるのは明日らしい。
「どうしようかな」
悩んでいても仕方がない。なるべくその話にならないように振る舞おう。もしくは、ちゃんと説明すればわかってくれるはず。わかってほしいと願う。
そう思って、リビングに戻ると時すでに遅し、彼女は両手で顔を隠して泣いていた。
俺はすぐに彼女の隣に座り、声をかける。
「お待たせ。ねぇ、本当にどうしたの?辛いことがあったなら、俺に話して」
スキャンダルはこれが初めてではない。今までも熱愛報道は何度かあるし、俳優として注目されている以上、これからも何度も起こることだ。その度にこんなに泣かれては困る。職業柄、側にいてあげられないことも多いし、ちゃんと説明できずテレビの報道でしか情報が伝わらないときもあるだろう。それでも、俺のことを信じてるって前は言ってくれたんだけどなぁ。
(泣いてるってことは、もう俺のこと信じられないってことか…)
そこまで考えて、最悪な現実に軽く溜息をついた。
(別れる…それは絶対嫌だ)
俺は彼女の手をとって、顔を覗き込んだ。とにかく、このまま泣かせていても埒が明かないと思い、自分から例の報道の話を始めた。
「ごめん。ニュース、見たんでしょ?でも、あれガセネタだから。いつもと一緒、誰かが今回のドラマの番宣目的で流しただけ。今、マネージャーが訂正の報道する様に各局に手配してくれてるから」
そう言うと、彼女は少し落ち着いた様子で苦笑いした。それを見てホッとしたが、彼女はまた俯いて涙を流し続ける。
「…やっぱり、今回もガセネタだったんだね。よかったぁ」
「俺が浮気するわけないでしょ?ほら、もう泣かないで」
服の袖で彼女の涙を拭うが、涙は止まらない。どうしてかわからず、とりあえず慰めようと彼女の頭を撫でた。
「ありがとう。…京介は優しいね。私のこともすごく大事にしてくれるし、そういうところ本当大好き。でも私、京介に」
「ちょっと待って。今何言おうとしてる?ダメ。絶対ダメだから」
(絶対に別れない。やっと1年経ったんだから。こんなに長く一緒にいてくれる、一緒にいたいって思えるのはナマエちゃんだけ)
今まで、恋愛が長続きしないでいた。理由は同じで、やっぱりスキャンダルやあまり会えないのが原因で、しばらく恋をすることを諦めて仕事に専念していた。けれど一年前、仕事の関係で彼女と出会い、仕事の連絡をとるうちに俺たちは恋に落ちた。俺の仕事をよく理解してくれる彼女は、俺のことをいつも気にかけてくれて、俺を最優先に考えてくれる、とても優しい人。だから俺も彼女を大事に大事にしてきた。あまり会えないのもあったけど、キスするのも一般的なカップルに比べて遅い方だったと思う。そんなスキンシップより、気持ちを通わせることに気を使ってきた。それなのに…
「…疑ってはいない。京介のこと、信じてる。わかってるんだけど私、不安で…寂しくて…邪魔なんじゃないかなって、考えちゃって…」
泣き出す彼女の気持ちに全然気づけていない自分がいた。
(ああそうか。俺、ナマエちゃんのことこんなに不安にさせてたのか…)
前の恋人だって同じだったのに、彼女は俺のことをよく理解してるから大丈夫だと、無意識に思っていたのかもしれない。そんなわけない。今日だって、彼女と会うのは1ヵ月ぶりで、それも彼女が急に来てくれたから会えた。約束さえしていなくて、何を安心しきっていたんだろう。
「ねぇ、どうしたら、君の不安を取り除けるかな…?」
もう一度、彼女の涙を袖で拭う。
何か俺にできることはないのか、模索するより聞いてしまった方が早いと思い、正直に聞いてみる。会う頻度は変えられない。でも、それが彼女を不安にさせてると言うのなら、会った時にできること全てしてあげたい、そう思った。
彼女は唐突に俺の手をとり、手のひらに自分の頭を近づける。
「頭、撫でてほしい」
そして頭を離して、今度は俺の手のひらに音をたててキスをした。
「あと、キスもいっぱいして。…それから」
手のひらから唇を離すと彼女の声が急に震えだした。俯いていて表情はわからないが、ソファに雫が落ちていく。
「…それから…抱いて」
涙でぐしょぐしょの顔を上げて、彼女は小さな声で訴える。そして、縋るように俺の手のひらにもう一度キスをおとした。
「この…手で…私のこと抱いて…京介」
思ってもいないことを言われ一瞬戸惑ったが、不安そうな顔で見つめてくる彼女を引き寄せて、俺は力いっぱい強く抱き締めた。
やっぱり大事にしすぎたのだろうか。彼女に懇願させるほど待たせてしまったようで、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混ざり、なんだか少しおかしくて笑う。
「いいよ。でも俺、ははっ…優しくできないかも」
体を離して彼女の肩に手をそえる。
泣きすぎて化粧がボロボロに崩れた彼女の顔。俺のことを思って泣いてくれたんだと思うと、愛おしくてたまらない。
「俺、いっぱいしたいなぁ。二人ともクタクタに疲れて寝ちゃうくらいにいっぱい。だから、覚悟してね?」
そう言って俺は、彼女の手のひらにキスをした。

彼女が泣いた分だけ、愛を与えてあげよう
寄り添えるだけ、そばにいよう

もう彼女に懇願させることのないように
大事に大事に

どうか、永遠に俺と一緒にいてください


[ back ]


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -