スタマイ*短編 | ナノ

桧山貴臣『大胆不敵なプレゼント』

婚約者 何度か体の関係はある 初めての誕生日
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いつものバーでRevelのみんなで。ワインを開けて、マスターからのカクテルも飲んで、ケーキを食べる。もう何度も彼らに俺の誕生を祝われ、毎年恒例となっている。そんな時間が幸せで、他に望むものなんてないと思っていたのに。
(不思議だな。早く帰りたいなんて思ってしまう)
思わず、ため息が出た。けれど、これが何に対してのため息なのか、よくわからない。
「なんか今日の桧山、ちょっと変じゃない?」
ソファに座ってワインを飲みながら考え事をしていると、羽鳥が聞いてきた。
「ん?そうか?」
変と言われても、羽鳥がいったいなんのことを言ってるのかわからず首を傾げる。するとカウンターにカクテルを取りに行って戻ってきた神楽が、ため息をついて俺の隣のソファに座り、俺に視線を向ける。
「彼女に会いたくて仕方ないんでしょ。さっきからずっと彼女の話しかしてないし」
そんなつもりはなかったが、思い返してみると確かに今日はずっと彼女の話題を出していた気がする。
「桧山くん、もしかして今日予定あったのか?」
「いや、予定というほどのことではないが、彼女が」
槙に聞かれて正直に答えようとして思い留まる。また、彼女の話をしようとしてしまった。いや、確かにこのあとは家に帰って、待っているであろう彼女と過ごす予定だが、もうこんな時間だ。彼女は起きているだろうかと考える。
「彼女が?」
「いや、なんでもない。もう一本ワインを開けてもいいだろうか?」
せっかく彼らが祝ってくれているのだから、今は他のことは考えないようにしようと、俺はワインの追加をマスターに注文した。



寝室のドアを軽くノックする。自室なのにノックをするというのは、なんだか不思議だ。しばらく待っていたが返事はなく、やはり寝ているかもなと俺はドアを開けて中に入った。
部屋は暗く静まりかえっていて、誰かがいる様子が見受けられない。マフラーと手袋を外しながら部屋の奥に進むと、小さな出窓から月明かりが差し込んでいることに気がついた。そちらから、ひんやりと冷たい風が微かに部屋に流れ込むのを感じ、自然と窓に視線を移した。
「おかえり」
出窓の内側の棚に、真っ白いキャミソールワンピースを着た女性が座って俺に優しく声をかけた。一瞬、月明かりの逆光のせいで、彼女が誰なのかわからず、そのシルエットを見て心臓に電流が走る感じがした。彼女はすぐ棚から降りて、俺の元へ駆け寄り抱きついてくる。寂しい思いをさせてしまっただろうか。
「ただいま。窓なんか開けて寒くないのか?」
「お風呂入って熱いから、涼しくて丁度いいの」
「湯冷めして風邪を引かれたら困る」
彼女に自分が着ていたコートをかけようとするが、するりと俺の手を抜けて、離れてしまった。
「大丈夫」
彼女はそう言って窓を閉めた。俺は部屋の電気をつけて、コートと防寒具をクローゼットに片付け、ジャケットもハンガーにかける。暖房のついていない部屋はやはりひんやりと冷たく、上着を脱ぐと余計に肌寒く感じた。
「ナマエ、やはり風邪を引くから何か羽織るものを…!」
そう言いながら彼女の方へ振り返ると、彼女はカーテンを閉めていた。いや、それはどうでもいい。そうではない。電気をつけたからわかる。さっき、暗い部屋の中ではわからなかったが、彼女はただのキャミソールワンピースを着ているのではない。
(なんだ、その服は…?)
驚きのあまり、思わず彼女に近寄った。1メートルほど距離をとって、まじまじと彼女の全身を上から下まで眺める。一見、白いワンピースのように見えるが、多分これは違う。女性の服に詳しいわけではないが、こんなに透け感のある素材のワンピースを俺は見たことがない。網目の細かいレースで覆われた胸元の中心にリボンが留められ、スカート部分は全体的に薄い生地で出来ている。所々に小さい花の刺繍が施され、裾にフリルをあしらった可愛らしいワンピースだと思っていた。しかし、これはただのワンピースではない。極めつけは、透けて見える彼女が履いている下着だ。ワンピース同様に小花柄のショーツではあるが、やはり透け具合が強く、彼女の肌の色が少し見える。そして、後ろがTバックになっていることを俺は確認…いや、さっき彼女がカーテンを閉めているときに視界に入ってきた情報だ。問題なのは、それがはっきりわかるくらいにワンピースが透けているということで、俺には彼女が何を着ているのか、もはや困惑するしかなかった。
「どうしたの?貴臣さん」
「いや…その、その格好はいったい」
悩ましい格好に手を口元に持ってきて視線を逸らしてしまう。
「…ああ、これ?これはね〜」
ニヤニヤと彼女は笑い、距離をつめて俺のネクタイを触り始めた。彼女は少しいやらしい手付きで俺のネクタイをゆっくり外していく。俺の首元に両腕を上げているからか、彼女の胸が寄せられて谷間を作っている。胸元がV字に開いたキャミソールワンピースからは充分すぎるほどそれが見えて、目のやり場に困った。
「プレゼント」
「…は?」
彼女は俺のネクタイを外し取り、自分の首に巻いてリボンの様に結んだ。まるで自分をラッピングするかのように。
「なんちゃって…。お誕生日、おめでとう貴臣さん」
そして急に恥ずかしそうに顔を伏せて、彼女はベッドに座った。たまに、というか彼女は割りと不可解な行動をとる。不可解で大胆不敵。そんなところが、俺は気に入っている。
「プレゼントとは、どういう意味だ?」
聞きながらYシャツのボタンを3つほど緩め、スマホを手に取り電源を切った。彼女の隣に座り、ベルトの金具を外していると、彼女がその様子を凝視してくる。
「ナマエ」
「え!えっと…だって、貴臣さん自分の誕生日教えてくれるの遅いんだもん。何あげようか迷って間に合わなくて…」
「それで?」
慌てて話す彼女に俺は追い討ちをかけるように、彼女の膝に置かれた彼女の手を握る。そして彼女の顔をじっと見つめると、顔を真っ赤に染めて小さな声で返答が返ってきた。
「私が…プレゼントじゃ、ダメですか…?」
「なるほど。それで自分にリボンを?」
視線を逸らしてコクンと頷く彼女が可愛くて口元が緩む。俺を喜ばせようと一生懸命考えてくれた彼女が本当に可愛くて愛おしい。今すぐにこの気持ちを伝えたくて、抱き寄せようと彼女肩に触れた。
「こんなに冷たくして…」
冷気に触れていた時間が長いせいか、彼女の体は冷たく冷え切っていた。俺はすぐに抱き寄せて、彼女の背中を撫でる。
「…貴臣さんが温めてよ」
背中に腕を回され、ギュッとシャツを掴まれる。彼女の言動一つ一つが可愛くて仕方ない。我慢できなくて、彼女をからかいながら額にキスを落とす。
「まさか、そこまで計算して窓を開けていたのか?」
「ぁ…違うけど…貴臣さんが帰ってくるの窓から見えるかなって」
「フフ…そうか。遅くなってすまない」
今度は耳に、そして頬に、キスを落として愛撫する。もしかしたら俺は、早くこうしたかったのかもしれないと神楽達に言われたことを思い出した。
(”彼女に会いたくて仕方ない”…ああ、そうだな)
唇が触れそうな位置で止めて彼女に愛の視線を贈る。彼女も少し控えめだが視線を贈ってくれた。
「プレゼントを開けてもいいだろうか?」
「…え?」
「開けて、中身をじっくり見たい」
そう言って、彼女の可憐で愛らしい唇に優しく口付ける。繰り返し口付けながら俺は、彼女をゆっくりベッドへ押し倒していった。
「ん…貴臣さん」
「どうした?」
肩を少し押されて唇を離す。彼女はゆっくりと目を開き、少し瞳を潤ませて話した。
「生まれてきてくれて…ありがとう。私、貴臣さんに出会えて幸せ」
そう言って笑顔を作る彼女に俺は答えるようにもう一度深いキスをした。

(ありがとう。俺も、幸せだ)

彼女の首に結ばれたリボンをといていく。今夜は一晩中離してやれそうにないと思いつつも、彼女もそれを望んでくれているのではないかと期待する。こんなに大胆不敵に自分にリボンをつけるのだから。
そうして俺は、セクシーなランジェリーでラッピングされたプレゼントを堪能するのだった。



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