スタマイ*短編 | ナノ

神楽亜貴『おはよう』

夢主は芸能関係の裏方の仕事をしている
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目を覚ますと、そこは夢のような場所。
大好きな彼の匂いがするふかふかの布団。大好きな人の腕の中で目覚めるなんて、本当に幸せの極みだなって…いないし!
昨夜一緒に眠ったはずの彼の姿はなく、ベッドの端の方で団子のような体勢で丸まって目覚めた私。布団から抜け出てスマホの時刻を見ると、午前9時を指していた。
(やば、遅刻じゃん!!)
飛び起きて急いで洗顔する。
本当は今日は休みのはずが、深夜に現場マネージャーからLIMEがきて急遽撮影になったと。LIMEを確認したのは、寝る直前で、アラームをセットするのを忘れた。亜貴にも起こしてって頼んだ気がするけど、亜貴はどこに行ったのか部屋には見当たらない。
「服どうしよ…」
元々、亜貴の部屋に泊まって「明日はデートしよう」と話をしていたため、仕事用の服を持ってきていない。デートのために新しく買った有名ブランドのワンピースはあるのだが、おしゃれしてきた感満載で、着るのはちょっと気が引ける。
「うわぁ…なんでそれ買ったの?」
私がワンピースを持ったままにらめっこしていると、亜貴が部屋に戻ってきた。どうやらシャワーを浴びてたらしく、パンツとズボンだけ身につけ、濡れたままの髪の水気をタオルで取っていた。
「似合わない」
「えっ…」
「新作です、流行色、流行の形をしたワンピースです。有名ブランドだし間違いないだろう。とかどうせそんな理由で買ったんだろうけど、君に着こなせると思ってるの?」
はい、きました。朝からこの辛口コメント。その通りです。ええ、私は今おっしゃった理由でこのワンピースを購入したのです、はい。
彼はそう言うと、私の手からワンピースを奪い取り、生地と素材を触って確認する。
「まぁ、ざっと1万2千円ってとこかな」
「3万円でした」
「はぁ!?なにそれ有り得ない!庶民向けのブランドのくせに金額設定おかしいでしょ」
(いや、私に言われても)
彼は呆れながらワンピースをハンガーにかけ、クロゼットに仕舞った。そしてクロゼットの中を漁りながら、私への説教が始まる。
「だいたい、その金額でよく買おうと思ったよね。生地は薄いし、他のブランドの新作と形も色も似てるし。ナマエには絶対似合わないから。てゆうか、ちゃんと試着して鏡見たの?見てないでしょ?そもそもなんでそれにしたの?どこが気に入ったわけ?」
「そ、それは…たまにはいつもより高級な服を着ようかなって」
「何それ?成金気取り?」
洋服に関しては彼にいつも論破されてしまう。まぁ、一流デザイナーさんに勝てるわけがないのだが、説教される度に自分に自信が持てなくなり、一時的に落ち込む。それでも、せっかくのデートだからと私なりに彼に見合った女になろうと、つり合うような服を探して選んだのだが、意味がなかった。
「はい。とりあえず今日はこれ着て」
着替えようと思って、下着だけになっていた私にブラウスとパンツが渡される。亜貴の部屋には、私が何度も泊まりに来ているせいで、私専用のクロゼットがある。自分で持ってきた服もあるが、何着かはいつのまにか亜貴が買い足していて、私も初めて着る服が存在する。この服も初めて見る。
「仕事行くんだから、ワンピースは無理でしょ。とりあえず早くそれ着て支度して。車出すから」
そう言って彼はドライヤーを手に自分の髪を乾かす。テキパキと着替えを済ませて身支度を整え、着替え途中の私の髪をとかし始めた。
「ねぇ、夜は何時まで?」
「うーん、わかんない」
「じゃあ、終わったら連絡して。迎えに行くから。あと…」
髪も整い、急に肩を掴まれて、向かい合う形にくるりと反転させられる。視線を上げると少し不機嫌そうな顔で亜貴が私を見つめる。
「まだ、してないんだけど」
「え?」
「え?じゃなくて、だから、いつもの」
亜貴が何のことを言っているのかわからず、彼を見て首を傾げる。亜貴の顔がもっと不機嫌になり、怒っているのか頬を少し赤く染めて口を開いた。
「もう、なんでわかんないの?」
「いつものって…?」
「あーもう、いいから目瞑って」
不機嫌な亜貴に何かしてしまったのかと恐れて、言われた通りに目を瞑る。すると唇に柔らかい何かがチュッと音をたてて軽く当たり、私は気づいた。

目を開けると、
照れくさそうに視線を逸らしながら
「おはよう」と言う彼がいた。
なんだか微笑ましくなり、私からも「おはよう」を返した。




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