スタマイ*短編 | ナノ

槙慶太『おはよう』

夢主は喋りません。槙が一人で悩む話
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俺は今、ベッドに彼女を押し倒し組み敷いている。
「私も…槙さんのことが好き」なんて顔を赤らめて熱っぽく言うもんだから、歯止めがきかなくなる。
理性なんてもうどうでもいい。ベッドの上で二人きり、しかも想いが通じ合った今、俺がしたいのは彼女を…
興奮で意識が朦朧とする中、俺は彼女の白い首筋に口付ける。これまで我慢してきた分、口付け吸い付き、彼女の首元に花を咲かせた。それはもう何かに取り憑かれたように舐めて、想いを全部、全部…

視界にうっすら光が射して、ゆっくり瞼を開いた。
なんとなくぼーっとする頭。目の前には、と言ってもかなり遠くに知らない天井が広がる。
ああそうか、今俺はベッドで寝ているんだとやっと認識した。
首だけ起こして周りを見ると、やはり知らない場所だということがわかる。おそらく駅近のビジネスホテルの一室だろう。そうだ、昨夜帰宅するのが面倒で泊まったんだ。多分。
目を擦り、若干の肌寒さを感じてむせる。と同時に頭にズキンッと痛みが走った。
ああそうだ、昨夜みんなで飲んでたんだ。Revelのメンバーではなくて、会社の部下たちと打ち上げだった。けっこう飲んだから、途中からの記憶もない。
(ここまでよく歩いて来れたな俺。)
とりあえずシャワーあびてチェックアウトしようと、気怠い体を起こし布団から出て立ち上がった。フラつきながらバスルームに入って鏡にうつる自分の姿に驚いた。
(あれ?俺なんで服着てないんだ?)
かろうじて下着を履いているが、他に何も身につけていなかった。
この状態から察して、昨夜何があったのか、とんでもない1つの可能性が頭を過ぎる。それを無視するわけにはいかず、俺は大幅に消えた昨夜の記憶を蘇らそうと顔を洗い、コップに水を注いで一気飲みした。
なんとなく、さっきよりも意識がはっきりしてきて、順番に昨夜の出来事を思い出そうとする。うっすら覚えているのは、これまでの苦労話と恋愛の話をみんなでしたことくらい。以前から気になってる彼女とはいつもよりたくさん話せた気はする。
しかし、やはり抜けている部分が多く、肝心なところが思い出せない。
(やばい、どうやってホテルに一人で来たのか思い出せねぇ)
数分考えても堂々巡りにしかならず、しびれを切らし、ベッドルームに戻る。
俺が着ていた服は丁寧にハンガーにかけて壁に並んでいた。
(これも俺が自分でやったのか?)
意識は朦朧としていたが、きっと自分でかけたんだ。そうに決まっている。そう思わないと、どんどんまずい方向に考えがいってしまいそうだった。
ベッドに腰掛け、重い頭を抱え込む。
思い出せ。昨日は普通に会社の部下と打ち上げをしただけだ。新企画商品の初日販売売り上げが達成したお祝いの打ち上げ。今回のプロジェクトチームには女性もまぁいるが、彼女たちは二次会の途中で帰って、男だけになってから飲むペースあげたのは、覚えてる。そう、だから、その可能性なんて、有り得ない。
俺がプロジェクトチームの女性社員の誰かをお持ち帰りなんて、有り得ないんだ。
現に今、この部屋には誰もいない。
そう自分に言い聞かせて、念の為に後ろを振り向いて、ベッドに誰もいないことを確認する。
一人で眠るには少し広いダブルサイズのベッドには、俺が先程寝ていた部分の右側に真っ白い大きなシーツが丸まって置いてあるだけで、特に変わった様子はない。
人が一人シーツに包まって寝転がっているように見えるが、そんなはずない。俺がそんな羽鳥みたいなことするわけ…。
「はぁ…」
そう思って視線を自分の膝に戻して、ため息をついた。
最低だ。部下に手を出した。しかも酔った勢いで。明日からそこに寝ている人物とどう接したらいいのか。いや寧ろ、目を覚ましたらなんて声をかけたらいいのだろう?
今までに女性経験がないわけではない。それなりに恋愛もしてきたが、今回はわけが違う。
プロジェクトチームのメンバーとは制作から発売日までの約半年間、作り上げた絆がある。しかし俺のこの軽率な行為で、何もかもが台無しになるかもしれない。関係性もだが、もしかしたら無理矢理だったのかもしれないとなると、パワハラやセクハラで訴えられる可能性も出てくる。俺には弁解の余地もない。なんせ記憶がないから。
(本来なら合意の上での行為だけど、酒が入ってるからな…)
羽鳥ならこういう時、ほど良く謝って、上手く誤魔化すだろうか?
「いや、あいつは確信犯か…」
少しだけ、羽鳥を羨ましいと思った。
問題は、そこに寝ている人物が誰なのか。
俺はその人物の方を向いてベッドの上に座り直した。
頭まですっぽりとシーツを被っているため、本当に誰なのかわからない。
ふと、一人の女性の顔が俺の頭の中に浮かんだ。今回のプロジェクトチームのリーダーミョウジナマエだ。彼女は、何度も今回の企画を話し合い、時には相談し、お互いの悩みを聞いてアドバイスなどをしてきたとても信頼のおける部下だ。いつも一生懸命で、俺に何度企画を没にされても、果敢に挑む姿にだんだん惹かれていった。本当は、このプロジェクトが成功したら告白しようかと思っていたんだが、俺にはもうそんな資格はない。
彼女は二次会の途中で帰ったんだ。さっきの夢のようなことがあるわけない。
夢の中で、俺はミョウジに自分の想いを告げて、彼女も「好き」と言ってくれた。だからそのあと俺は行為に及んだわけで、合意の上かと言われると微妙だが。
夢の内容が濃いせいか、思い出そうとすると夢の中の出来事ばかりが頭をちらつく。そこに存在する丸まったシーツが彼女ならば、夢の通りならばいいのにと思う気持ちもある。
もうやめよう。さっきから何度も同じことを繰り返し考えている。彼女たちは二次会までしかいなかった。そこにいる人物は、全く知らない女の可能性が高い。
シーツに包まっているのが誰なのか確認しようと、緊張しながらゆっくりとシーツをめくる。
出てきたのは、何度も見たことある愛らしい寝顔。夜遅くまでよく残業して仮眠をとってる姿を思い出し、少し安堵して笑った。
(なんだ、あれは夢じゃなかったのか)
「はぁ…挽回できるのか?俺」
自分に言い聞かせるようつぶやくと、さっきより太陽の光が強く部屋に射し込み、彼女の顔を照らす。
眩しいのか、小さく唸ってうっすらと瞼を開き始めた。

彼女は目を覚ましてどう思うだろうか?
怯えてしまうだろうか?
今はとにかく、ミョウジの声がききたい。
笑顔を返してくれることを願って
俺は、その愛らしい寝顔に優しく「おはよう」と囁いた



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