スタマイ*短編 | ナノ

今大路峻『ラブシーンは船の上で』

てん様 リクエスト

今大路視点
夢主は元情報屋のスパイ
以前、豪華客船での捜査のときに出会った
今は恋人で婚約している
※映画『タイ○ニック』のネタを含むオマージュ・パロディ的な内容となります。

■リクエスト内容■
相手キャラ:今大路峻
夢主設定:おまかせ
内容:おまかせ
夢傾向:甘々

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出港させてしばらく、海岸から大分離れ周りに水面だけが広がるこの場所で帆を畳んでアンカリングする。今の時期はまだ人がいないから、毎年この静かな空間で自分一人の時間を満喫できた。一人で来ればの話だが。
「ねぇ私、海に行きたいって行ったんだけど」
「ナマエさん、よく見てください。ここは、海ですよ?」
「じゃなくて、砂浜を駆け回ったり、サンオイル塗って日焼けしたり、浮き輪でのんびり浮いたり、浅瀬を泳いだりしたかったの」
「砂浜だろうが船の上だろうが海は海だろ」
今日はコイツも一緒。海に行きたいって言うから連れて来てやったのに、この始末。
(海って言ったら船だろ)
船を停めて揺れが落ち着いた途端に文句の嵐が降ってきた。
「そんなに泳ぎたいなら、今すぐ海に突き落としてやろうか?」
「結構ですぅ」
普通クルージングなんて言うと、女は豪華な船上パーティーを思い浮かべて喜ぶ。でも個人で乗る船は豪華客船のそれとは少し違う。というか実際全く違うし、説明してやっても優雅なセレブの嗜みという華やかなイメージが消えないのが、今まで俺の船に乗せたことのある女の反応だった。だからクルージングデートっていうだけで、そんな女たちにとってはワクワクするデートでしかない。でもコイツは、価値観が違うのかマリーナに連れて来ても、特に驚いた様子もなく無反応で、乗ってからはずっと不安そうに間抜けな顔をしている。
(コイツ、船が怖いのか…?)
疑いの目でナマエを見ると、丁度ナマエも俺を見ていたようで視線がかち合った。すると慌てた様子でそっぽを向いて、また文句を吐き出す。
「せっかく水着着てきたのに」
「脱げば」
「え、プールもない船の上でおかしいでしょ」
「文句言ってないで、いいから脱げよ」
「あ、ちょっとやだぁ」
やかましいからさっさと脱がしてやろうとナマエのキャミソールの裾から手を忍ばせる。そのまま胸まで指を這わせれば、一瞬ビクッと反応するコイツが面白くて思わず笑った。
「やっ…!やめてよぉ」
俺を弱い力で突き飛ばすようにすり抜け、慣れない足取りでデッキの上を逃げ回るナマエに、さらに詰め寄る。ヒラヒラと白いレースのロングカーディガンを風になびかせながら、嫌がった声をあげているのとは裏腹にどこか期待しているような、意地悪したくなる顔で俺を見ていた。
「転ぶぞ」
「峻が脱がそうとするからでしょ」
船の先端まで追い詰めて、ついに行き場を無くすナマエを腕の中に捕まえる。それでも逃げようとコイツは俺に背中を向けて、手摺りにしがみつくような行動をとった。
「危ねぇから動くなって」
「ねぇ、なんか映画みたいじゃない?」
「は?映画?…ああ、有名なやつか」
ナマエはもう逃げられないと理解したのか、急に大人しくなってそんなことを呟く。デッキの先端に立って、俺がこいつを後ろから支えるように抱きしめているこの体勢が、あの有名な船の映画のワンシーンに似ているという、言われてみれば確かにそうだった。
「こうやって、手を広げて」
「船停めてるけどな」
「でもほら、風吹いてる」
進んでないのに、風は強い。本当に映画のあのシーンみたいになってきて、そのままその先を思い出す。
「このあとは?」
「え?このあと?」
首を傾げる彼女は映画の続きを思い出せないのか、首だけこっちに振り返る。俺は空かさずその間抜けな唇に食らいついて、映画の続きを真似た。
「ふっ…んぁ…」
確か、感動のシーンだったのにラブシーンに変わる。それからキスがやたらと濃厚でエロかった印象。少なくとも映画が上映されていた当時、まだ子供だった俺はそう感じていた。今は、同じことが彼女相手に簡単に出来る。そう思うと、なんだかナマエの言葉と格好と、その息が上がってるエロい顔に当てられて、そういう気分になってる自分が単純で笑えた。
「あぁ…ちょっと、峻…紐取らないで」
キスしながらキャミソールの紐を弄っていたら、急に動いて俺の手を阻止し始める。けっこう深く口付けてやったのに意外と余裕があるから、もっとしてやりたくなった。
「ん、ダメ!もうおしまい」
水着を見てほしい、そう言ってるかのように自分から話題を振ったくせに何言ってんだか。そんなに顔を赤くして照れながら嫌だと言われても俺を煽るだけだって言うのに、コイツはちっともわかっていない。
「それより見て、水面キラキラしてる!お魚もいる!」
「海だからな」
何を当たり前なことを言ってるのか、さっきまで乗り気じゃなかったのにもう元気な顔してやがる。ヒールの高い靴を履いているにも関わらず、そのヒールを柵に引っ掛けて一段上がり、そのまま手摺りに掴まって身を乗り出して、船の下や遠くの水面を眺めながら体を大きく揺さぶり続けた。
「おい、止めろ。危ねぇだろ」
「ねぇ、船の上にしない?」
「何が?」
「すごい眺めも綺麗だし」
「だから何がだよ?」
「ふふ、結婚式!」
振り返ったナマエは嬉しそうに笑った。予想してない話に一瞬、ナマエを支えていた手の力が緩まる。バランスを崩しそうになったナマエを慌てて支え直すと「えへへ」と間抜けな顔で笑われた。
「なんで船なんだよ、さっきまで怖がってたくせに」
「峻が好きだから」
下を向いて引っ掛けていた足を降ろしながら、またふざけたことを言う。
「は…?知ってる」
「えぇ?あ、んふふっ違うよ、そういう意味じゃなくて、峻が船好きだから。まあ私は船ちょっと怖いけど、でも慣れれば大丈夫」
一瞬、自分に対して言われたと思って誤った返答をすると、それがおかしいのか、コイツは口元をニヤつかせてこっちを見る。
「…んだよ、紛らわしい言い方してんじゃねーよ」
勘違いした自分が間抜けで思わず口を歪めてナマエから視線を背ける。まだおかしいのか、ナマエは俺をからかうように下から顔を覗き込んだ。
「峻のことも好きだよ?」
「うるせー。知ってるってさっきも言った」
ナマエの鬱陶しい振る舞いにも、こういうのを惚れた弱みって言うのか、俺は可愛いと思ってしまう。それとちょっとだけムカついて、ナマエの視線から逃れようと数歩分デッキの内側に離れた。
「もう、だからね、結婚式は峻が好きな場所がいいなってこと。それに、あの映画の二人も船の上で出会って、船の上で結ばれたから。…ほら、私たちと似てる」
ナマエは意味あり気なことを言うと、今度はにこりと笑ってから、また船の先端で前を向いて海を眺めた。
映画の二人が結婚式を挙げたわけではないという事実から、結ばれたという言葉に少し肉体的にという意味が含まれている気がしてしまう。けれど映画の二人の心が通じ合って結ばれたのは、確かに船の上での出来事だった。
(結ばれるって…誘ってんのかよ)
そう捉えてもいいだろうかと考えながら、船の先端で海を眺める彼女を見ていると、柔らかい風が吹いてきた。
(ここで結婚式…か)
ぼんやりと自分たちが結婚式をする姿を思い浮かべる。白いドレスと白いタキシード、仕事で何度か着たことがあったけれど、相手がナマエじゃないせいか、どうも気持ちっていうのは入ってこなくて、面倒だなという印象しかなかったものだ。でも逆にナマエとの結婚を意識させられたものでもある。
「なあ」
風でふわりと揺れる白いレースのロングカーディガンが、俺の頭の中で再生された白いベールとドレスに重なった。
「こっち、来いよ」
彼女の腕を引っ張った瞬間、強い風が俺たちの間を駆け巡り、よろめいた彼女をそのまま引き寄せる。そこまで大きくは揺れることはなかったけれど、ナマエはバランスをとるために足を少しばたつかせて俺の服にギュッとしがみついてきた。
「わっ、い、今のすごかったね」
「だから危ねぇって言ったろ」
「ん?」
「ん?じゃねぇよ」
見下ろす彼女の胸には、キラキラと光るハート型の宝石がついたネックレスがまだ少し揺れている。それは紛れもない、先日俺が婚約指輪の代わりに渡したものだ。結婚式で着けたいって言っていたのに、まさかこんな外でデートする日に着けてくるなんて、余程気に入ってくれたのか。
「似合ってる」
「え?」
「いや、なんでもない」
別に、映画を真似たつもりはなかった。店で見た時それがコイツに1番似合うと思っただけだ。指輪より、正面に豪華な宝石を着けてる方がナマエに似合う。そう、映画みたいに、服を着ないでそのネックレスだけを身に着けた姿を見てみたいと思うほどに。
「映画の続き知ってるか?」
聞きながらキャビンの方へゆっくり歩みを進める。けれど、俺の後ろをナマエが着いて来る気配はしない。
「えっと、知ってる!知ってるよ?でも…」
振り返ると、さっきのキスを思い出してるのか、頬を染めて急に視線を泳がす。そう、あの映画にはさっきのキスシーンよりもっと濃厚なラブシーンがある。ナマエがそれを知っているのを承知の上で、俺はあえて問いただした。
「車はないけど、ベッドならある」
「…ちょっと、何その露骨な誘い方」
キャビンの方に手を向けてニヤリと笑ってみせる。そして不服そうなナマエの表情に俺はトドメを指した。
「じゃあ続きしないのかよ」
「………する」
「いいお返事ですね」
そう言って作り笑顔を向けてみれば、マリーナに連れて来た時とは違う無反応が返ってくる。そのまま呆れたように溜め息を漏らした彼女に手を差し出した。
「ん」
「ん。…もう、せっかく海に来たのに」
文句を言いながらも俺と手を繋いで、後ろを着いてくる。そんなコイツに、嬉しくて顔がニヤけそうになってるのがバレないよう、俺は前を向いたまま「うるせ」と返した。
快晴の空、海デート日和。
海だろうがなんだろうが、お前といるだけで、することは決まってる。こんなロケーション、惚れてる女抱かないわけねぇだろ。バーカ。



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