テニス部の日吉君はとても、強い人だ。凛として常に堂々とした態度に生意気だと言う人はいるが、それはきっと、あの人の強さをきちんとみていないだけだと思う。少し長い前髪がかかっている瞳の先の視線はいつも鋭く冷たい印象を受けるかもしれないが、ずっと、遠くの何かをみている。けれど、私はそれを知れない。知ることができない。話すことさえもできないし、私はただ遠くから眺めるようにみつめることしかできない。日吉君は気づいていないのだろうけど私はずっとあなたのことをみています。憧れにも近い恋愛感情だけど私は入学したときに落ち着いた様子だけど、その頃からずっと遠くにある何かをみているあなたのことが好きなんです。そう言えたらどんなに良いことだろう。悲しいことに私は日吉君の眼中には入っていないから、この想いもいつか忘れられてしまうのだろう。そう思いながら白いパレットに絵の具を入れる。買ったばかりの新品のパレットに汚すのはもったいないから白い絵の具を入れる。そして、まだ何も描いていないまっしろなキャンパスに窓からみえる部活中の日吉君を描く。鉛筆で線画を描きながらも思い浮かぶのは日吉君のこと。手に入れたい、と望むのはきっといけないこと。でも、私は日吉君のしっかりとよく通る聴きやすい声を、さらさらとした綺麗な蜂蜜色をした髪を、ずっと遠くの何かをみている強い光が宿ったあの瞳を、そしてあの人の強さを、手に入れたいし、感じてみたい。新品の白いパレットとは違い私の心の中は汚く身勝手な想いがぐるぐると駆け巡る。この想いは色で表すとしたら、きっと何でもない。黒に近い何もない色。幼い頃に、綺麗な色をした絵の具を全部混ぜたら汚い色になってしまったことがある。私の心の中はきっとその色が塗りたくられている様だった。けれど、まっしろになんかなれない。きっと、私は汚れてしまっても日吉君に近づきたい。近づこうとしてもあなたはずっと遠くにいるのでしょうけれど。




気になる人がいる。いつも、三階の窓からみえる名前も知らない女子。(多分、同じ学年。)いつも白いキャンパスとパレットをみつめては切なげな表情を浮かべコートを眺めている。俺はその表情に恋をしてしまった。何をみているのかは知らない。けれど、その何かをみている瞳に俺だけを映してほしい、そう思ってしまうのは、我侭だということはわかっている。けれど、手に入れたい。手を伸ばしてもずっと、遠くの場所にいるのだろうけれど。最初は眺めているだけで満足していた。けれど、日を増すごとに想いは積み重なっていくように大きくなっていく。話すことができればいいのに、そう思っていても俺はきっと優しくできないし、冷たく思われてしまうから彼女を傷つけてしまうかもしれない。そう思うと、進むことができない。


「――…吉!日吉!」

「…ああ、すまん。」

「もう、どうしたの。最近よくぼーっとしてるよね。」

「その、悪い。」

「珍しいね〜。あ!まさか、恋煩いとか!」

「う、うるさい!あっちいけ!馬鹿!」

「…え、まさか図星とか?」


やばい、鳳ごときにばれてしまうとか、油断してた。鳳はむかつくぐらいニヤニヤとした笑いを浮かべている。この野郎、まじで殴りてえ。


「へえ、あの日吉がねえ。相手誰?気になる!」

「…言わないからな。」

「言ってくれたっていいじゃん!」

「その…知らない。」

「…へ?」

「だから!しらないんだ!」

「日吉い、せめて調べてみるとかさあ。」

「うるさい。」


まったく、本当に情けないと思う。そりゃ俺だって彼女の名前を知りたい。けれど、分かっていることはいつも窓際で白いキャンパスとパレットに向かっている美術部のやつということだけだ。(あと、多分同学年。)少しは頑張ってみるか。…明日から。



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