午前0時、


午後23時、よい子はもう寝る時間。
見たかったTV番組も終わり、めぼしいものも見当たらずぼんやりとニュースを見やる。
大して興味は無いが、まだ自分にとっては寝るような時間ではない。
しかも明日のバイトは珍しく昼出勤だ。
まあ、寝るか。
自分一人しかいない部屋に虚しく響くTVの電源を切ったまさにその時。
ガチャリ。
「圭ちゃ〜ん!」
「うわぁ!?」
玄関の扉が開いたと思ったら、背後から何者かにふいに抱きつかれてしまった。
しかも、思わず顔をしかめたくなるくらい酒臭い。
「茉莉子さん!?こんな時間にどうしたんですか?!」
「ん〜、ちょ〜ぉっとだけ呑みすぎちゃって〜、庵に『店の邪魔』って言わちゃってぇ、部屋に大人しくいろってぇ〜、」
――相当酔っているようで言葉が纏まっていない。
庵さんも面倒臭くなって僕に押し付けたんだろうな…。
振り返ればソファ越しに僕を抱き締めている茉莉子さん。
顔は真っ赤だし、なによりこのテンション。
普段から明るい人だがここまでではない。
いつもよりは幾分もましだが、また何かあったんだろうなぁ…。

庵さんの学生時代からの友達であり、(ちなみに楓ちゃんとも顔見知りだ)今はお店の常連さんでもある茉莉子さんは二、三ヶ月に一度くらい店に訪れてこうしてベロンベロンになるまで酔っては家で爆睡していく。(そして寝るまでは僕に愚痴を溢れんばかりにこぼす。)
庵さん曰く「仕事が忙しい」とのことだが、それにしてはいつも大人は大変だとしみじみと思ってしまう。
「また、なにかあったんですか?」

「…ううん」

「え?」
いつもなら
「聞いてよ圭ちゃ〜ん!!」
と言っては禿げた眼鏡の課長の愚痴をつらつらと並べていくのに。
「…何よ?私は愚痴しか言わないって思ってるわけ?」
「え、嫌、そういう意味じゃ、」
「じゃあどういう意味よ?」
明らかに不機嫌なオーラが茉莉子さんから放たれていく。
しかも未だに僕を抱き締めたままだから正直顔、が近い。
わりとツリ目の茉莉子さんに至近距離で睨まれると結構怖いものが…
「い、嫌、ただ珍しいなあって…」
「珍しいって?」
「だって、家に愚痴りたいから茉莉子さん家に来るんでしょう?」

「……今日は、違うの」
「何が、ですか?」
茉莉子さんは少し俯いて何だか照れ臭そうにもじもじし始めた。
その姿はまるで告白前の女の子だ。
思わぬ一面を見てしまったが、何が『違う』のかが凄く気になる所でもある。
すると茉莉子さんはカバンをごそごそと漁り、中から小さな白い箱を取り出しそれを僕の顔の前にずいと突き出した。
思わず驚いて身を引いてしまう。
「な、何ですか?」
「――圭ちゃん、お誕生日おめでとう」
ぽつり、と静かな空間に今まで聞いたことの無いような穏やかな声が落とされた。
「…あ、そっか。今日誕生日だった」
「え、忘れてたの!?」
急に顔を上げ、僕をまるで変人を見るような目で見つめる。「…何か緊張したアタシがバカみたいじゃない」
「え、あ、すみません」
「…こういうときは『ありがとう』って言うのよ」
「え、あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。じゃあ、庵の分買ってないし二人で食べちゃおっか!」
そういって笑った茉莉子さんの笑顔は何だか少し眩しかった。




午前0時前、君からのプレゼント





***アトガキ***
圭ちゃん、お誕生日おめでとう!!!
茉莉子さんは一応ツンデレのつもりです←
誕生日夢を書こうと思ったときに何だか圭ちゃんには年上女性に振り回されるのが似合いそうだったんで笑
ちなみに圭ちゃん、庵さんに朝祝われたけど何か分かんなかったって言うことで!
…ほんとは誕生日前日予定だったのは内緒←
ありがとうございました!!
2010.05.16 季祐


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