寝る直前になんとなく談話室へと降りた。
暖炉がまだついているとはいえ、冷えるだろうとも思ったのでブランケットも引っ張ってきた。
もう片方の手には使えなくなった携帯を握り締めている。

階段を静かに降りて、暖炉の前に座り込んだ。
火をじっと見つめていると心が落ち着いてきた。
ん?
落ち着いてきたって事は、緊張か何かしていたのだろうか。
自分の事なのにはっきりとはわからない。


「ねむた…」
「寝れば?」
「うわああああああ!!!」


いきなり背後から声をかけられてビックリした。
予想以上にビックリした。

誰かと思えばシリウスくんで、本を脇に抱えて右手にマグカップを持っていた。
私と同じように隣に座ったシリウスくんを盗み見た。
あ、コーヒーくさい。


「ブラック?」
「あ?それはどっちの意味で言ってんだ?」
「どっちって、なにが?」
「は?」
「え?」


私はもちろんコーヒーの意味で言ったのだが、シリウスくんからするともう一つあるらしい。
全く検討がつかないので何の事かと聞いてみると、彼は自分のファミリーネームがブラックだという事を教えてくれた。


「へぇ、初めて知った」
「コーヒーもブラックだけどな」
「シリウスくんって甘いの嫌いそうな顔してるよね」
「いやそれどんな顔だ」


コーヒーを喉に通すシリウスくん。
私は暖炉の火を見つめたまま、携帯をそっとしまった。
ブランケットを体に巻いていたので、その動作は彼には見えなかっただろう。


「俺のファミリーネーム知らなかったんだな」
「シリウスくんボンボンっぽいなーとは思ってたけど、知る必要も無かったし」
「ジェームズのファミリーネームは?」
「あー、聞き覚えはあるよ」
「忘れたのか」
「まあね」


私のポンコツな頭では、ファミリーネームまで覚えている余裕は無い。
しかも漢字やひらがなならまだしもカタカナなんて覚えにくいの代名詞であると言うくらい覚えていられない。

過去の世界史や現社なんてボッロボロだった記憶がある。


「本読まないの?」
「ナマエいるから読まねーよ」
「うわ、紳士だね」
「たりめーだろ」
「そう言うの意識してやってんの?」
「そうでもない」
「あら、そう」


パチパチとはぜる音がする。
段々体も暖まってきて、睡魔が私の直ぐ横にいる気がする。
もう少しで睡魔に連行されてしまう。


「シリウスくん、ブランケット貸すよ。私ちょっと睡魔とデートしてくる」
「…階段に気を付けろよ」
「うぃ」
「おやすみ」
「おやすみ」

体がぽかぽかしてきて、今夜はぐっすり眠れそうだと寝惚けた頭で思った。





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