放課後、すでに恒例となってしまった生徒会長のお手伝い。友人の湖紀七海(このり ななみ)はうちの学校の生徒会長である。


「そうだなまえ、うちのクラスに南っているじゃん」


彼女は私よりも頭が良く、運動も出来る人である。
容姿も良い方なのに、男が大嫌いという世間一般からしたら残念な子だ。
私もそこまで嫌いじゃない、と言いたくなるくらいのもので、まあ中々重症。
その七海が自ら男の話を持ち出すなんてとても珍しい事だ。


「知ってるけど…。あれ、何?気になる系?」
「まっっっさか。何その笑えない冗談」
「じゃ、なに」


三年になってからそいつらと同じクラスになった。
賑やかすぎると言うか、正直騒がしいので好きじゃない。

授業中に平然と雑談するあれらを、七海はいつもギロリと睨んでいる。
根が真面目な人だから。
それで学級委員長やら生徒会長なんかになっちゃってるし。

今度南達が授業中に勉強の妨げをしたら、どうなるんだろ。
私はクラス内で何があっても傍観するようにしている。
巻き込まれたくないし、関わりたくない。


「A・T始めたんだってさ」
「あれ?今更だね?超獣とか有名だよ」
「ああ、そういやそんなんあったわね。もー最近のA・T界はよくわかんないわ」
「おい、元光の王が聞いてあきれちゃうよ」
「知らないわよそんなの。だいたいそれを言うなら自分だって舞の王だったじゃない!」
「あああ!中二病の頃の私を思い出させないでぇぇぇえ」


本当にあった怖い話だ。
私は運動はあまり得意じゃないけれど、舞台役者だったりする。
七海の家業が歌舞伎の舞台で私はそこで役者として出演する事があるのだ

それがA・Tしてたらなんやかんやで『舞の王』とか呼ばれていた。らしい。
そこら辺は疎かったのでさっぱりだ。

因みに舞台では男として女形をしている。
ややこしい、と私も思う。
つまり、素は女。役者として男。演じるのは女。

意味ないじゃんと思うかもしれないが、お客さんにとっては男としての女形の方が受けが良いのだ。
それが関係してるのかは解らないけど『舞の王』は男という噂が多い。
それで素がバレなきゃいいや、と当時の私は思っていたのだ。
あいたたたた、なやつだった。


「私はもうA・Tは飽きたなー。楽しくなかったし」
「それは賛成ね」


話ながらの作業で七海の手伝いがいつの間にか終わっていたので、私達は帰る準備を始めた。
お腹すいた。


「会長ー、マックの買い食いって校則違反ですかー?」
「マックじゃなくても買い食いは違反よ。まぁバレなきゃ良い事わ」


うわ生徒会長にあるまじき発言だ。
でも、ちょっと悪いくらいの生徒会長のが皆従うように思う。
絵に描いたような真面目な人が生徒会長になったとしても毎日がギチギチの窮屈な世界だ。

帰りにマックに寄ることが決定して、教室を出る。


「おい」


否、出ようとしたら勝手に戸が開いた。
教室の扉が自動ドアな訳無いので、廊下側から誰かが開けた事になる。
タイミングのいいこと。

目の前に居たのは、確か…………アレ?無理。
忘れた。
でも確か南達と一緒にいるとこ見る。
あ、そうだ鰐島だ。

鰐島は男子なので当然七海が知ってるわけも無い。
男嫌いがどんな反応をしているかと思って、ちらりと七海の顔を見てみれば何の感情も浮かべてなかった。

ですよねー。


「舞の王がお前だって本当か?」


どうやら盗み聞きをされたようで。
しかも聞こえて欲しくなかった所はばっちりと聞こえちゃってたらしい。
そして鰐島一人かと思えば、他の面子も廊下で体育座りしていた。


「ねぇ七海さん」
「何かななまえさん」
「どうするべきですか?」
「好きにすれば」
「さいですか。じゃあ今日マック無しかも」
「…最悪」
「とりあえず教室入って、みんなも」


廊下で体育座りをしていた人たちを呼んで教室に入ってもらう。
私達は先程まで座っていた所に再び着席して、他が座るのを待っていた。


「みょうじなまえですどもー」
「湖紀」


名字だけを名乗る七海。
まあ向こうも顔を知らないわけでは無いだろうし、七海もこれ以上関わる気は無いのだろう。

みんなが適当に席についた。
自己紹介してもらって呼び捨てで良いとのことなので私は遠慮無くそうさせてもらう。
タメに敬語なんてつかってられるか。

あ、七海が不機嫌。


「言いたくなかったけど、舞の王こと湖紀七海さんでーす」


私がそう言った直後に七海にスパーンと頭を叩かれた。
痛い。


「馬鹿言わないで、そして信じないで。舞の王はなまえ」
「ついでに言うと彼女は光の王デス」


二人でなんやかんやA・Tをやっていたら『王』なんて仰々しいような名前がついたのだ。
私たち二人は『王』の価値なんてわからないし、周りが勝手に付けた名前を名乗ろうとはしなかった。


「な、なぁ。なんだよさっきから舞とか光とか…。それってみょうじと湖紀の事なのか?」
「あー…周りからしたらそうらしいね」
「馬鹿馬鹿しいけどね」
「因みに舞はジャンプとトリックに優れてる。光は速さとサイド走行だ」
「へぇ、そうなんだ」


鰐島が頼んでも無いのに勝手に説明してくれた。
正直、トリックだとか速さだとかを気にして走った事は無い。
私は、何かがしたいからといってA・Tを履いてるわけでは無いのだ。


「お前マジで知らねぇんだな」


美鞍の発言。
周りの目を気にして無いから評判とかどーでもいい。
そう言えば七海も頷いた。


「それより帰りましょうなまえ。雨降りそう」


空を見て眉根を寄せている七海。
今は放課後。時間的にも外は暗くなり始めている。それに今日の雲は灰色。
今にも降りだしそうといった所だ。


「じゃあね」


慌てて帰り支度を始める彼らを放っといて私達はひと足先に教室を出た。
玄関まで他愛ない話をして、靴を履き替える。


「今日の天気予報当たってたね」
「晴れ後雨、だったわね」


持ってきた傘を開こうとしたら後ろから声が聞こえた。


「傘無い」


反射的にそちらを見れば残念そうな顔が四つ。
安達、南、御仏、美鞍。


「濡れて帰れば。小雨のうちに」


七海の男子に対して厳しい一言。
容赦無ぇーとは思うけどそれには賛成。
捨てられている仔犬を見かけたら差し出すが、人は雨に濡れたぐらいじゃ死にはしない。
まあ、風邪は引くかもしれないけど。
と、そうこうしてる間に安達は中山の傘。
御仏は傘を使わないで帰った。
確かにあの図体じゃ傘は意味ないよな。


「野山野は南と帰るっしょ?じゃあこれで解決じゃん。バイビー」
「ちょ、みょうじ俺は!?」
「君にはニット帽という素敵なアイテムがあるだろ」


相合い傘なんてそんなん誰がするか。
私は傘は自分で持ちたいんだ。


「え、ヒド!」
「現実はそんなに甘くないのだ」


既に歩き始めた七海を追って歩き出せば美鞍も着いてきた。


「つめてー」
「雨が?私が?」
「さあ?両方?」
「うわーうぜー。ほら」


結局半分差し出してしまった。
ああこれ人生の汚点になるわ。


「なまえー早くー。時間の無駄ー」
「ごめんごめん美鞍が地球のゴミのせいで」
「なら仕方ないけど急いでよねー」
「もう俺泣いてもいいですか?」


しぶしぶ。
しぶしぶ、美鞍と一緒に帰ってやった日。
今日は湖紀家で稽古なので結局途中で美鞍に傘を貸してやって別れた。

今気付いたけど、私が七海の傘に入って、美鞍に傘一本貸せば良かったのでは…!


「今更ね」
「…ショック。てか女物の傘をよく差していこうと思ったよね」
「そう」


うわあ、どうでもよさそうな反応。

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