「黄泉路便所は七不思議の1つじゃねぇってか」
「幽霊いたら呪われてみようよ」


流石に今は美鞍とは手は繋いでいない。
そして汗ばんでいた手をきちんと洗った私は、ハンカチで綺麗に拭った。


「また…みょうじって思考回路が複雑だよな」
「アホかっ!ビクビクしやがって!!この世に科学で解明出来ねぇ事は何一つねぇ!!」


南が先頭に。
その後ろに私と七海が並んでいる。
その後ろに女子軍、続いて男子軍。


「え、無いの…?」
「…まぁ、無いかもね」
「ノックしてもしもーし!」


南が勢い良くトイレへの扉を開けた。
次の瞬間に私達の後ろにいた全員が180°回転して走っていった。


「な?七不思議なんてのは大抵こんなモン……ん?」


間違い無く南の後ろにはそれらしきものが見える。
私にもはっきり見える。


「カァァァズゥゥゥ!!!」


南達はそのまま走っていった。
その場に取り残された私と七海。


「これマジモン?」
「さあ?力は感じないわ」
「つーことはニセモン?」
「まぁそう言う事になるかもしれないわね」
「まぁ良いや。なんか幽霊達も戸惑ってるし、実験そのいちー」


適当に一番近くにいた幽霊を捕まえて、七海に協力をあおぎ、安物の手錠をかける。


「幽霊もどきと和解。…あれ?」
「何?」
「そういえば手錠の鍵どこだっけ、と思って」


私がそう言うと幽霊もどき達は喚きだした。
幽霊って喚くものなのかは定かでは無い。
どうしようかと考察していると手錠をかけた幽霊が叫んだ。


「ぬーえーー!!!」
「縫え?どこを?傷口?あ、これが幽霊もどきの鳴き声とかかな?」
「私に聞かれても困るわ。偽物は専門外よ」


ですよねー。
幽霊もどきを離さないようにしっかり握っていると、上から人が降ってきた。
なにこのひと、不思議の国のアリス?
空から降ってくるのは雨とか雪とかおたまじゃくしだけだと思っていたのだが、今それは覆された。


「お前ら、あんまりそいつ虐めないでくんねーか?つーか何者?」
「えっ、総大将のぬらりひょんですか!?」
「普通に考えて人じゃない?霊力は無いもの」
「鵺ーっ!!」


幽霊達の化けの皮が剥がれた、正体はなんと子供。
その子供達がわらわらとぬらりひょん(仮)に集まっていった。
ただ一人、私が手錠をかけた子はまだ泣きわめいている。


「俺は鵺。…お前らは?」
「私はなまえ、こっちは七海。鵺ってあれだよね。どこかが虎で猿で狸で蛇の」
「頭が猿、胴は狸、手足は虎、尾は蛇。別名とらつぐみ」


記憶してなかった所を七海がフォローしてくれる。
流石。


「あ、いや、俺は普通の人間。つーかブラッククロウて知らねえ?A・Tのチーム」
「知らない。あ、A・Tは知ってるんだけどそれはわかんない。有名なチーム?」
「知らないなら別に良いんだ。あと…そいつの手錠どうにかしてくれるか?」
「ああ鍵ね」


鍵が無いとは言えない空気になってしまった。
ここは素直に謝るべきか、後日と言うことにして逃げるべきか、どうしようかと迷っていると七海が口を開いた。


「ちょっと待ってくれる?あんたうちの学校の人間じゃ無いわよね?なんでこんな所で化けの皮なんか被っていたのかしら?」


私の脳みそではそこまで思い至らなかったが、少し考えれば七海の言う通りだ。
不審者。
こいつらはその扱いで間違ってはいない。
私達は学校関係者なので不審では無い、と信じたい。


「教えないとこの子の手錠外さないよ」


鍵も無いし。
いっそ教えてくれない方が私には都合が良かったりするのだけど、と思っていたがどうやら不審者こと鵺は話してくれるらしい。


「…しょうがねぇか」


鵺は喋ってくれた。
実は南に話があるようで彼の実力を知ってからでないと不安だったらしい。
それが言えるということはこの鵺って人は強いのだろう。


「ん?」


何気なくポケットに手を入れたら鍵を見つけた。
一緒に入れておいた過去の自分に感謝だ。
そして手錠を外して子供を解放した。


「悪かったな」
「こちらこそ」


その一言だけで鵺と子供達は引き上げていった。
私達も帰路についた。


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「私お化け恐くないかも」
「なまえが怖いのって何かあるのかしら」
「え、あるよ虫。私虫大嫌いだよ」
「あらそうなの」
「反応が冷たい。七海は無さそうだ」
「そうね、強いて言うならまんじゅうよ」
「落語か」



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