先程からアキラさんと鰐島さんの言ってることがよく解らないので、考えるのを止めた。


「俺よりも強いって…、この子が?」
「何の話か解らないけれどもアキラさん馬鹿にしてます?」
「よしアキラ、耳ン中かっぽじって良く聞けよ」


鰐島さんは何を言うつもりなんだろう。
もしかしてこれアキラさんからかわれてるだけじゃないの。


「そいつは舞の王だ」


うわ言っちゃったよ鰐島さん。
本人の許可無しに何さらりと言ってるんだろうか。

その後トレーラーの中にアキラさんの叫び声が響いた。
うるせぇと言って鰐島さんが中身が入ってるスチール缶を投げた。
痛いそれは痛い。


「君が舞の王!?男かと思ってた」
「私も知らないうちに付けられてた名前なんで真偽は解りませんが。アキラさんもA・Tしてたんですか?」
「あ、…知らない?超獣って、最近解散したチームなんだけど」
「超獣…。どこかで聞いた覚えが…」


なんかつい二、三日前に聞いた単語。
なのだけれど思い出せない。


「あ!小烏丸に負けたチームですかね?」
「負け…まあうん。全く知らないって訳じゃないみたいだね」
「いや、周りと交流は無かったんでほとんど知りません」


所詮趣味なんて自己満足の世界だし、交流がしたくてA・Tを使っていたわけでもない。
だからA・T界の事はまったく詳しくない。
それに情報面はどちらかというと七海に任せていたので私は世間知らずもいいとこだった。


「アキラぁ、誘っとけ」
「は?」
「解ってます。…なまえちゃん、いや舞の王」


急に畏まったアキラさんを見据える。
何を言うのかと思ったが、今度は考えるまでもない。
要は南達と同じような事だろう。

誘われる前に断ろう。


「お誘いは嬉しんですけど、無理です。ただでさえコレで忙しいんで」


コレと言って指さしたのは衣装。
A・Tをする暇は無い。
私は素早く衣装を掴んで、運転中の鰐島さんを警戒しながら助手席の扉を開けた。
鰐島さんはまるで私の行動を予測していたように、車のスピードを緩めてくれる。


「鰐島さん…また誘って下さい、高校生になったらまた考えます。最近不景気だし」
「ハッ!調子のってんな!」
「服ありがとうございました。アキラさんもさようなら」


動いている車から飛び降りた。
スリルばかりの拉致だったけど、わにじまんはいい人だった。
降りてみて気付いた事がある。
ちゃっかり私ん家の前だった事だ。


「あれ、なまえ?」
「あ!七海だ」
「本番中に拉致されたって本当なの?父さん笑ってたわ」
「笑える要素がどこにあったんだろ」
「そうね」


今日は疲れた。
確か夜に南達に呼ばれていたような…。
まあ、まだ時間はある。
それまで寝ていようじゃないか。



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