新宿の鰐に捕まった。
よりによって本番の真っ最中に。
警察は何処。
って確かこの人一応警察か。

そしてそのまま車の中に詰め込まれ、鰐島海人に拉致された。


「なんで俺が連れ去られてんスカ」


鰐島海人はふつーに運転していて。
私は助手席に寝かされている。
枕が鰐島海人の膝なのが非常に腹立たしい。

そして私は、今は男としての女形なので、男として振る舞わなければならない。
だから一人称は俺にしてる。


「何で極端に顔遠ざけてんだ?」
「おしろい塗りたくってるから一応、気を使ってるんですよ」
「フン、バカが」


思いっ切り嘘だけど。

おしろいとかが全部落とされたら女だってバレる可能性が高い。
あ、でも案外もう知ってたりして。


「気持ちワリィ喋り方すんな、みょうじなまえチャン?」


やっぱりバレてた。というかこの人ガラ悪すぎやしないか。
ロン毛だし、警察よりただのヤンキーの兄ちゃんにしか見えねーから。


「何ですか鰐島海人さーん」
「これから服買いに行くぞ。その格好と面じゃ目立つ」
「本番中に拉致したのが悪いと思うんだけど…」
「黙っとけ、舌かむぞ」


ギュインと勢い良く曲がった車の遠心力のせいで顔が鰐島海人の腹に当たった。
おかげで彼の服におしろいも紅もべっとりついた。
私の顔も中途半端だろうな。

ガクンと揺れたかと思えば、鰐島海…ああもう、めんどくさいから鰐島さんでいいや。

鰐島さん降りた。
どこかに着いたらしい。


「ホラ降りろ」
「あいさー」


扉を開けて腕を引っ張ってくれた鰐島さん。
気分はまるで親子だ。
いや、こんな派手なとーちゃん嫌だけど。

店の中に入ると一気に視線が集まった。
私の顔が中途半端過ぎたんだろう。


「うわー視線がいたい」
「お前サイズ何だ?」
「私?男物でいうならSですが」
「メンズで良いんだな」
「はい。じゃあ先に下着類買ってきます」


鰐島さんから金を貰って適当に選んでレジに持っていく。
店員のチラリとくる視線が痛い。
お釣りは貰っておく事にした。
どうせ彼は金持ちだろうから。

何気なく外に出て鰐島さんを待つ。
駐車場にあるバカデカい車が非常にミスマッチだ。
車体には何故かシャークって書いてある。鰐なのに鮫だし。


「まだかな」


そろそろ他の車の中からの視線も痛くなってきた。
そんなに見るなよ、穴が開く。


「ホラ」
「鰐島さんって買い物早いんですね」
「さっさと着替えろ」
「はーい」


最初に顔を濡れタオルで拭き、丁寧にクレンジングオイルで化粧を落とす。


「ふうっ、素顔」


素っぴんは、肌が息をしているような気がして好きだ。

衣装を全部脱ぎ、胸潰しも取り外し、先程購入したブラを着けて。
鰐島さんに買って貰ったのを着た。
男装なら胸潰しはつけたままでも良いんだけど、疲れる。


「うわ…鰐島さんセンスだけは良いんだな」


私だったら適当にTシャツ買ってズボンかって帽子だけで済ますのに。
わざわざジャケットまでご購入とか…。

運転中の鰐島さんにしぶしぶお礼を言う。
私は常識人だ。
お金を出してもらって当然なんて思っていない。
ほんの少ししか。


「でも衣装のが高いか…」
「誰?」


ふと後ろから聞こえた声。
振り返ってみると一人の青年がいた。

その台詞は是非とも私に使わせていただきたいものですな。

私だって目の前の人が誰か知りたい。


「女の子…だよね?」
「はあ、まあ、今までそのつもりで生きてきました」
「なんで海人さんの車に?」


どうやらこの人は鰐島さんより丸い性格のようだ。


「みょうじなまえです。鰐島さんに何故か拉致られて」
「俺は宇童アキラ。まさか…君が海人さんの言ってた?」


言ってたって何を言っていたのか鰐島さんてば。
知り合う前から悪口とか言われてたりしたらショック。


「海人さん無理ですよ!こんな小さな…、ましてや女の子じゃないですか!」


アキラさんの言ってる意味がさっぱり解らない。
こんな小さなとか言われてるけど一応中学三年生です。


「そうかァ?俺はお前より強いと思うけどな」


だから何の話だってばよ!



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -