ロン毛に案内されて街に行くと、彼は人気の無い場所で、淡々とした口調で言った。
「お前、死にたいのか」
驚いて彼の顔を見ればロン毛は目を合わせず前進する。
めんどくさい。いかにもそんな顔だ。
「はい」
「だろうな」
それでも黒の教団はあたしに部屋を与えてくれた。
多少のお金もいただいたが、それはベッドの上に置いてきた。
どうせ別れるのだからとロン毛と赤毛の名前は聞かない事にした。
原作の知識は既に忘れていたので本当にわからない。
古びた、小さい建物が目の前にある。
家と言うよりは小屋と言った方が近い。
「ここまでありがとうございました」
「ああ」
「さようなら」
ロン毛もさっさと何処かに消えていった。
死のう。と家の中を漁った。
刃物くらいあるだろうとキッチンに行ってみた。
しかし何もない。
包丁どころか鍋もフライパンも無い。
これはものすごく困る。
今日の所は諦めて埃の被ったソファに体を預けた。
うとうとしていたら扉が開いた。
誰?
億劫ながらも視線をやればよくわからない化け物がいた。
「な…」
手を伸ばしてくるそれに悪寒がした。
死ぬかもしれないとも同時に思ったが、冷静になってみれば自分は死にたかったのだからこれで良いのだ。
「退け!」
そんな声は聞こえない。
目を瞑って無視していれば暫くして頭を叩かれた。
痛い。
目を開ければさっき別れたばかりのロン毛。
「なに」
「…此処にあったのか」
「?」
「イノセンスだ」
ああ、なんとなく分かった。
確かここではそれがキーになるんだったっけ。
それがこの街のあたしに与えられた小屋にあったのか。
なんという偶然。
…、確か。というか、多分。
こういう時はお決まりのパターンでうっかりヒロインが触れて適合する。
とかそんなのを良く見た気がする。
あたしだってこの本を好きだった時期があるし現実逃避だってそれなりにしてた。
だからわかる。
「早く、」
まあ、今は死ぬことだけを考えたら良いのだ。
この世界は死ぬほど嫌いだから。
なんて、本当に死ねたら良いのに。
「帰って」
関わりたくないというのが最優先。
死にたいというのも優先。
「当たり前だ」
ロン毛はそれらしきものを掴んでさっさと出ていった。
扉を閉める音が乱暴だった。
よかった。ベタな展開にならなくて。
再びソファに身を沈めればガシャンと何か物が落ちた。
何だと身を起こせばロン毛が扉を強く閉めたせいで壁にかけてあった物が落ちたのだ。
この家老朽化が進み過ぎだろうと思ったけど、残りの人生をすべてここで過ごす訳では無いので気にしない。
落ちたのは刃渡り30センチ程のナイフで、飾ってあった所をみると刃はないのだろうとリスカ紛いの事をしてみたがやっぱり切れなかった。
それを床に投げ捨てて、あたしはまた眠りについた。
切れないナイフなんてただの飾りだ。
確かに、実際に飾ってあった。