パチッと目を開けて、いつも枕元に置いてある携帯を探した。が、無い。
ベッドの下に落っことしたのだろうかと見てみれば、見慣れない床が見えた。
しかし寝ぼけているあたしは見慣れない床よりも携帯の居所が気になる。
今は時間が知りたい。
枕の下かと手を突っ込んでいる最中にようやく此処は何処だという疑問が沸き上がった。
「ん?」
今朝は誰かの家に泊まる予定は無かったはずだ。
首を傾げる。
あたしは見事に脳震盪で記憶を失っていた。
といってもたかだか12時間ぐらいの記憶だが。
しかし今の私はそんな事は知らない。
というか覚えてないので、場所がわからずひたすら疑問だった。
時計は無いものかと部屋を見回してみるがこの部屋は生活感が全く無い。
ベッドと机しか存在しない。
もしかしたら拉致監禁だろうかと、もう一度部屋を見回した。
監視カメラは無いような気がする。
しかし出口は1つだ。
人の気配の無い今なら逃げ切れるだろうか。
それなら逃げようとベッドから降りた。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
あたしは。
……あたし、は?
違和感。
自分の腕を見つめた。
擦り傷、打ち身、いろいろと怪我をしているようで包帯がぐるぐる巻かれていた。
そんなに派手に転んだだろうか。
いやもしかしたら暴行の痕かもしれない。
しかし少しの記憶を失っているあたしには全くわからなかった。
空から落ちたなんて事は。
とにかく部屋から出ようとたった1つしかない扉に近付いて耳を済ました。
向こう側から音はしない。
きいいいい。
古くさい扉が耳障りな音を立てた。
バレるだろうか、と身構えたがやはり何処からも音は聞こえなかったのでこのまま進む事にした。
左右どちらに行こうか少し迷い、右に行く事にした。こう言う時は全部右か全部左に行くべきだと思ったからだ。
ひたひた。冷たい。
裸足なのに今気付いた。
でも今更気にしても仕方がない。
あたしは早くここから逃げなければ。
走ろうかと試みたが全身が痛かったので無理だ。
目で確認できる範囲でも殆ど包帯が巻いてあった。
「―――?」
後ろに気配を感じて振り返ったら話し掛けられた。
そこであたしは察してしまった。
ベッドで寝る前に、きっと何かしらあって、あたしは。
あの時の違和感は。
話し掛けてきた人物を見て足の力が抜けた。
ふらりと傾いた身体。頭を打ち付けて死ねばいいのにと思って、重力に身を任せていたら目の前の人が支えてくれた。
嬉しくない。
全くもって嬉しくない。
D.gray-manの世界ににトリップだなんて。
ああ、頭が痛い。