「貴女にはウォーカーくんのサポートをしてもらいたいので、ここに残っていただけませんか」



アジア支部のウォンさんがそう言った。
ミランダと別行動なのに少し驚いたが任務なんてそんなもんだろうとウォンさんの指示に従った。
でもミランダの見送りをしたいと申し出たら許可してくれたので直ぐに移動した。

港に到着すると、あたしの見知った顔が1つも無く、ついでに自己紹介をした。
エクソシストのブックマンにアレイスター・クロウリー。
サポーターであるアニタにマホジャ。
あたしが挨拶をしている間にミランダは船の様子を見に行った。


「あと二人来るからもう少し待っててくれんか」
「解りました」


する事も無く、ぼーっと突っ立っていればブックマンから話がしたいと持ちかけられた。


「予言があまりにもずれておったというお主に前々から会いたいと思っておったんじゃ」
「…ああ、確か寿命がどうとか言われましたね」
「他の者は自分の使命を言い渡されるような予言じゃ。アレンは時の破壊者と言うように。しかしお主は54で死ぬ、逆に考えたら54までは絶対に死なない」


この人は何が、言いたいの?


「その命は有効に使ってほしい」


そこまで言われてあたしは凄く傷付いた。
遅れて来たらしい二人が到着したようだったけど、耳は遠くなり、目の前にいたブックマンは見えなくなり、視界が真っ暗になる。

何か喋っているのは解る。
だけど内容までは理解出来ない。

54まで死なないって、ブックマンはそう言ったけれど、あたしからしたら54まで死ねないって事だ。
それがどんなに苦痛か。
皆は解らないだろう。

死にたい人の死ねない気持ちが。


「誰か助けてくんねーかな」


ああ、心底めんどくさい。


「あ、あの時の日本人じゃん」

すっと視界に入った赤毛を見てのけ反ったらそのまま仰向けに倒れた。

見たことある、この赤毛はこっちの世界に来てから初めて遭遇した人だ。
忘れるわけない。

赤毛。

あ、うそうそ名前は忘れきってる。


「わあ久しぶり」
「使者ってあんたのことさ?」
「まっさか。あたしは別任務よ」
「じゃあなんでここに?」
「ただの荷物持ち」


体を起こして、立ち上がると赤毛は目を細めた。
怪しがってあたしを見てくる。
なに?と問えば名前は?と聞かれた。
今までずっと名乗らずに過ごして来た。
そして一度も人の名前を声に出した事はない。
怪しまれると思った時もあったが、その時はどうせ直ぐに死ぬと思い名乗らず呼ばずを突き通して来たのだがこの赤毛の前ではそうはいかないらしい。


「言わない」


そう答えると赤毛が悲しそうに笑った。
どうして。
そんな風に笑うのだろうか。
そんなに名前が呼びたいのか。

なんでだ。


「ブックマンには名前はいらないんさ、だから次期後継者の俺にもそれは要らない。でもまっ、ここではラビって呼ばれてるからよろしくなっ」


そんなに名前が大事なんて、霊能者か占い師ぐらいしか聞かない。
本名がバレればいろんな事がぽろぽろとこぼれていくらしい。
霊能者なんかは霊に乗っ取られるんだそうだ。
たかが名前だけで。


「そんなに人の名前が好き?」
「…っ!?」
「違う?」
「そんなん初めて言われたさ……」
「そう、なんだか名前呼びたそうにしてたから。その偽名もしっくりくるけどさ」
「……ありがとさ」


そんな会話をしている内にミランダが船を直した。
……あんなにボロボロだった船を直した…!?

どんな能力なのかとミランダに注目していると、彼女は何故か謝りながら身投げした。


「ええええ」


慌ててあたしが飛び込み溺れるミランダを引き上げるとラビも飛び込んできてまずミランダを地上へと引き上げた。
その間にあたしも上がる。
リナリーから渡されたタオルを受け取って体を拭いている最中に彼らは出航した。
船が離れるのを見送っていると、ウォンさんが行きましょうと声をかけてきたのでタオルを首にかけたまま着いていった。


「ウォーカーくんの容態は酷いもので、左腕が無いんですよ」
「あらまあ。………………で済む話では無いですよね。それで本人はなんて?」
「重傷でして、まだ目を覚ましていません」
「そうですか、なら急ぎましょう。もう起きてるかも知れませんし」
「はい」


そして急いでアジア支部へと戻った。
喉が渇いたでしょうとお茶を差し出されたが、そんな事はない。
しかし困らせるのも人としてアレなので、受け取って一気に飲んだ。
あとでトイレ行かなきゃ。

薬や包帯を持ってアレンのいる部屋へと向かう。
部屋に到着したと思ったら目の前にいたウォンさんが立ち止まった。


「悪いウォン。居眠りしてたら白髪の奴どっか行っちまった」


少女が申し訳無さそうに述べる。
初対面ですねはじめまして、なんて言える雰囲気では無かった。


「あんな体じゃ動けるわけないと思ってさ……油断した」


あんな体。
とは、確か左腕が無かったと聞いたような。
少女が言った事に直ぐに反応して、ウォンさんが薬をあたしに預けて、探しに走っていった。

同じ部屋に二人いるのに、音は聞こえない。
これが沈黙だ。
ただ、あたしは気まずいとは思ってはいない。
いろいろと考え事をしていたので喋る暇は無かった。
それでも少女の方は気まずさを感じたらしく、あのさ、と声をかけられた。


「一緒に探さねぇ?」


こうしてあたしはアレンを探す事になった。






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