つまり、あたしも行けって事だ。


「巻き戻しの街…。あー無理です」
「じゃあ神田君の方に行ってもらうけど」


なに、その選択肢。
だいたい巻き戻しの街ってあれでしょう、原作に出てた話。
確か、ロードって子がでてくる話。
そんな重いものについていきたくない。


「二択しかないんですか」
「そう。神田君かリナリーか」
「…どちら?」
「あれっ、まだ会ってなかった?」
「いやいいです会わなくて。彼の方でお願いします」
「僕の可愛い可愛いリナリーと会わせてあげなきゃ損だよ!アレンくんも一緒だし女性がいたらリナリーも安心だしね!はい決まり!リーバーくん二人呼んできて!!」


何この人めんどくさい。

リーバーさんもよくこんな人と一緒にいられるよなあ。
すごい尊敬します。
本当に忙しい人は忙しいと言わずに無口かつ俊敏になるというけど彼はその通りだ。

見てるとこっちまで悲しくなる。
無言で席を立つ彼にあたしはコーヒーを差し出した。


「自分で呼んできます」


直ぐに踵を返し二人を探しに急いだ。
リナリー。
探してる最中に思い出した。
彼女はこの物語のヒロインだ。
あんまり好きじゃなかった記憶がある。
なんでだっけ。
理由は覚えてないけど、負の感情を抱いていたのは確かだ。

部屋に行ってみようと階段に足をかけて気付く。
あたしは二人の部屋を知らない。
急遽食堂に変更。
使えない奴でごめんなさいリーバーさん。

食堂に行けば山盛りの皿があったので直ぐにわかった。
ああ、いた、あの白髪。


「こんにちは。これから任務ですって」
「うわ吃驚した!」
「あと妹さん知らない?」
「妹…?あ!リナリーでしたら今丁度科学班向かいましたよ」
「そう。じゃあ食器置いてくるからさっさと食べちゃってて」
「ふぁひ」


きゅっと口に食べ物を詰めるのを視界に入れた後食器を指定の場所へ返した。
途中割らないか心配だったんだけど、大丈夫だった。
アレンを見ると席を立ってこっちに来ていたのでついでに待っていた。


「どんな任務なんでしょうか」
「凄く傷付く任務」
「それはいつも覚悟の上ですよ。僕初任務の時はイノセンス壊しましたから」
「うん」


身体的にもだけど、君は精神も傷つけられるよ。

可哀想に。
思っても無いことを口に出しそうで直ぐに口を閉じた。
その後は無言で歩いて、いつも通り。出発した。

列車の中では始終無言を貫こうとして途中で折れた。
あたしのゴーレムがパタパタパタパタ周りを飛ぶものだからうっとうしくて叩き落としてしまった。

それでもしつこく周りを飛んでるゴーレムをどうしたら良いかと向かいの席の某白髪に聞いたらポケットに入れればいいとのことだったので無理矢理突っ込んだ。


街の前まで来て、入り口にそっと手を伸ばすリナリーを後ろから見ていた。
足取りが重い。
今こっそり逃げても良いだろうか。
駄目か。


「行きましょう」


腕を掴まれてしまい逃げられなくなった。


「一人で歩けるよ。貴方じゃないんだ」
「それ前回の任務のことですか?」


違う。

腕を離してもらい、あたしは逆に腕を掴み返した。
あえての左手。
その行動に驚いたのかアレンは目を丸くした。
リナリーは背後のやり取りを気にしている風ではない。

そうじゃないんだよ。


「時には見捨てる事も必要だよ。何でも救えると思ったら大間違いだからね」
「そんなこと無いですよ。僕は僕のやれる限りのことをしますから」


ならあたしを殺してよ。
生きてなんて言葉はその人のエゴじゃない。
殺すことが救済で生かすことが見捨ててる事になるんだよあたしの中では。

自分が死んででも他人を守らなければと言う姿勢は嫌いだ。
エゴイズムのヒロイズム。
そんな人の方が救いようがない。
と心の中で嘲笑う。

自分の実力も推し測れないで、他人さえ助かれば良いと思ってる。
残された方だって辛いのに。
死んだら思考なんてのは消えてしまうから楽だ、生者の憎しみなんて伝わらないもの。
だから自分はAsylum seekerなのだ。


「具合でも悪いんですか?顔色悪いですけど」
「ごめん一人にさせ、っ!」


気付いた。
一人にしてって言って自分から去ってなんか敵キャラに会うのはセオリーもセオリーでベタベタな展開だ。
何となく先が読めたような気がしてすぐに前言撤回と言った。


「ああごめん思考が鬱だ」
「ストレスは発散した方がいいですよ」
「これは無理。一生死ぬまで連れ添わなきゃ」
「なんかすいません」


うわっつら。

しばらく喋っていなかった母国語を口にした。
それよりも、とにもかくにも、今一番重要なのは彼女と離れてしまった事だろう。
何処に行ってしまったのか、リナリーは。




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