「わっ」
アレンが転びそうになるのを支えて自分もなんとか耐える。
震度は4くらいだろうか古い建物なら壁にひびが入る程度の地震。
アレンはそこそこ驚いていたがあたしは到って普通。
日本じゃあ地震はしょっちゅうだったし、しかもその中でもわりと頻繁に大きい地震が起こる地域に住んでいたので慣れている。
「アクマより地震に慣れてますね」
「そうかも」
来る途中にアクマに狙われた。
背後からブスッと刺されてしまったのだ。
しかしあたしはアクマに対しては傷付くことはないので刺されるというより押されたという形になる。
そしてそのまま刺されたというか押されて転んだ。
コンクリートに対しては傷付くので、膝をがっつり擦りむいた。
自分が発動する間もなくアレンが倒してくれたのを、膝を気にしながら見ていた。
何も出来なかった。
しかし、それのおかげでアクマに気をつけるという教訓ができた。
「街の人たちも慣れてるようだけど」
というよりは、あんまり気にしていないような気がする。
流石に地震が長く続けば驚くのも驚けないんだろう。
「いつ頃から起きてるんだろ…ちょっと聞いてきますね」
「うん」
一人になる際は周囲に気を付けるのは基本らしいのでアレンを待ってる間は何時でもイノセンス発動出来るようにナイフに手をかけていた。
「聞いてきました。先月あたりかららしいですよ」
「んー地盤調べる訳にもいかないしなぁ」
「あと、ちょうど地震始まった頃から美味しいパン屋が来たそうですよ。お土産に買っていこうと思うんですが良いですか?」
「…そこ。明らかに怪しいよね」
「です、よね………。…行きますか…」
「うん」
アレンがくるりと方向を変えてまたスタスタと歩いて行った。
美味しいパン屋と言われてもお腹が空かないので食欲も無く、最近は正直食に対しての興味が無くなってきた。
「良い匂い…!」
目を輝かせて、フラフラと誘われるようにパン屋に入っていくアレンを見送った。
あたしは店の外で待ってる。
共に行動していたファインダーのサジさんはアレンの後を着いていった。
今まで何の描写もしなかったけれどずっといたのだ。
彼は。
すごく寡黙な人なので自己紹介以降一言も喋っていない。
「食べますか?」
「いらない。お腹空いてない」
「サジさんは?」
首を横に振る。
喋れるのに何でジェスチャーばかりなんだろうか。
不思議だ。
でも馴れ合いがしたいわけじゃないし、死がすぐ隣にあるこの世界では、いちいち情が湧くのは面倒だ。
そう思ってるのか、違うのか。
「どうだった?」
「大繁盛でしたよ。お店は小さいのに人は溢れかえってました」
「混んでるなら他の店行けばいいのに」
「あれだけ美味しいと他の所に行きたくなくなるのもわかりますけどね」
「…そんなに美味しかった?良かったね、物を美味しくかつ大量に食べれる人で。幸せ者だ」
「そ……れは、…どうなんでしょう」
勿論皮肉を込めて言った言葉だった。
それなのにどうなんでしょうって、腹立つ。
その時また地震が来た。
アレンは転びそうになっていたがサジさんが支えていたので、無視した。
ここに来てから四回目。いちいち時間をチェックしたら何か手掛かりが掴めるんじゃ無いかとメモしているが、うーん。変化は感じられない。
「…余震なのか本震なのかも解らないしね」
パリンッと乾いた音が聞こえた。
アレンは音源の方へ振り向く。
そしてイノセンス発動したのでアクマか、と自分もイノセンス発動する。
お飾りナイフは発動すると柄の部分が銃になる。
あと二回りくらいサイズが大きくなる。
初めて発動した時は不思議でしょうがなかった。
しかし元帥にそういうものだと言われたので無理矢理納得した。
技名とかをつけるほど幼くないのでそういったものは特に無い。
最強の矛と言うわりにはナイフと銃なのねって思う。
淡々と敵を倒していって、勝利を勝ち得た。
周りはボロボロになった。
申し訳無い。
結果から言うとイノセンスはあった。
パン屋の主人はあまりにも売れないので自信が欲しかった、この街のパン屋は自分以外潰れて終えと思った、だけらしい。
自信と地震を間違えたイノセンスはベルだった。
「なんで地震なんだろ」
「え?」
日本語で呟いたので聞き取れなかったアレンが聞き返してきたけど無視した。
他の店が潰れろ、というのは経営困難で倒産と言う意味じゃなくて物理的に、グシャりと潰れる方だった事も不思議だ。
このイノセンスは一体何がしたかったんだろう。