私にしては珍しく、それはそれはもう珍しく、夏の午前中に自発的に外に出た。
とは言っても、距離は大したことない。

目的地の前に着いた。
その目的地である建物を見上げる。
想像していたのより悪くは無い。
悪くは無いのだけれど、やはりボロい。
ああ、いや。ボロいなんて言い方は失礼だろうと思うので古風だ、と言い換えることにしよう。
古風だろうが、住人にとってはどこだって住めば都だ。

建物の中に入れば暑さは多少軽減された。

「あー、暑かった」

階段をあがって、燐達の部屋を目指す。
何故私がこんな所に来ているかと言うと、今日は奥村ツインズに食事に誘われたのだ。
あの燐が作る料理だ。
私が食いつかない訳がない。

「お邪魔するよー」
「あ、なまえさん」
「よーすなまえー」
「……リンチにでもあった?」

私のお抱えシェフの燐は顔や腕に包帯が巻いてある。
普通に過ごしてて追う怪我ではない。
原因は多分この間の出来事なんだろうけど、それに関しては私は知らないフリをする事にした。

「いや、そーゆうんじゃなくてよー」

目を合わせなくなった燐に対して、奥村は呆れた顔で言った。

「ただの喧嘩だよ、兄さん短気だから」

上手い言い訳だなあと思った。
階段から落ちたとか言われたら事実を知らない人でも嘘だと思うだろう。
使い古した感じがして、逆に怪しい。

ただの喧嘩というのも、それにしては大げさすぎだろうと怪しむ人もいるだろう。
けれどそこまで突っ込んだとしても本当の事を話してくれるとも思わない。
彼らから見た私はただの一般人だ。

例え私が裏事情を知っていようと、彼らはそれ自体知らないのだ。
知らぬが仏という言葉もあるぐらいだし、世の中には知らなくていいことや知らない方がいいことだって沢山ある。

「程ほどにしときなよ?」
「はは…面目ない」

私は奥村の言い訳で素直に納得した。
正確には、納得してあげた、だ。

「で、お昼はなんですかね!?奥村燐料理長っ」
「へへ、聞いて驚け!なんとぉ!」
「なんですか!?」
「流しそうめんだ!!」

ででんっと効果音がつきそうな胸のはり方だった。
燐はへへんと自慢げな顔をしている、奥村は苦笑気味の笑顔を絶やさない。私はというとぽけーっとした顔で燐を見ていた。

「わ、わーおどろいた」
「(棒読みだ…)ごめんねなまえさん。兄さんこんなだから…料理、出来なくなって…」

私の表情から心境を読み取ったのか、奥村はフォローに回った。

「いや、大丈夫だ奥村…。私はホラ、そうめんを流す側の人でいいから……」
「食う気ゼロじゃねーか」
「育ち盛りの二人は食べる側で良いよ。うん、よし、そうと決まったら行こうか」
「あの…なまえ、さん…?」

燐が話しかけてきたが返す気力が無いのでスルーしてしまった。
ごめんね、悪気はないよ。

いやはやしかし、流しそうめんかー…。
もっと別のものを期待してたんだけど、しょうがないよね、そりゃあ二人じゃ無理だもんね、つまんなさすぎるもんね。

流しそうめんって響きはわくわくするんだけどいざ始まってみると全然取れなくて、結局流れ着いて溜まってるところにみんな群がるんだよね。

「よーし、行くよー?」

とりあえず気持ちを切り替えて、テンションをあげていこうと思った。

「雪男ォォォ!てめぇ俺の分取ってんじゃねーよ!」
「兄さんがスルーしたのがいけないんじゃないか!だいたい僕より先の所に立ってるくせして取れないのが悪いんだろ!」
「はい次ー!」
「うおおおおらぁぁぁ!取れたあ!へっへーんお前には渡さねーからな!」
「とかなんとか言って取れない確率の方が高い人にそんなこと言われても説得力無いね」
「ほら次ー」
「んだとっ!?次も俺が取っちゃ、ってあああっ!」
「ほら見ろ僕の言った通りじゃないか」
「はーい次ー」
「ちくしょー次こそは!ぬぬぬ…だああっ!!とれねー!」
「ごめんね兄さん、二回連続で僕がとって。二回連続で」
「つぎー」
「二回連続がなんだ!俺は今から三回連続でお前から勝ち取ってやる」
「へえ、兄さんが?ならやってみせてもらおうじゃないか」
「…………」

いつまで続くんだろう、これ。




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