夏の朝から外に出ることなんて滅多にない。日射しがきついし、暑いし、良いことなんて1つもない。それなのになぜ若者は外に出たがるのか。
私の中では疑問である。

それでも外に出ないといけない場合は日傘は必須だ。それと水分。
人よりも熱中症になりやすい分、夏の外出には特に気をつけている。

「…し、死ぬ」
「お水買ってきますか?」
「私あそこの日陰にいますね」
「わかりました」

てってってっ、とアマイモンさんは自販機に向かっていった。体力には自信があったんだけど日の下に出ると直ぐにくたばる。

事が起こるのは数時間前に遡らなければわからない。と言っても今朝の事なのだが。

私は今日、夏の朝にはよくある暑さで目を覚ました。
冷房をつけて寝るのは翌日に倦怠感が残り、どうも好きになれない。
網戸や換気扇や扇風機を駆使して寝るも、朝方になり気温があがってくると寝苦しさで目を覚ましてしまう。

今日の気温も高くなるんだろうなと携帯で時間を確認しながらぼんやり思った。
そして私は体にじっとりとまとわりつく汗を流さなくちゃと、起きようとした。それなのに一瞬自由がきかなくなり、不思議に思って後ろを見れば緑のトンガリがあった。

「ぎゃああああああっ!」
「うるさいです」

寝起きの低い声で叫べた私もすごいがアマイモンさんの低い声の方が恐ろしく、驚きも一瞬で覚めてしまった。

「念のために聞こう、どうやって入った」
「網戸開けて。大丈夫です。きちんと閉めておきました」
「お気遣いどうも………」

アマイモンさんはまだ眠たいようなので、腰にあった腕をそっとどかしてシャワーを浴びに行った。
アマイモンさんの腕は細かった。

お風呂上がりに朝食としてりんご半分を咀嚼しているとアマイモンさんが飛び付いてきた。
この人はどれだけ食べ物に飢えているのだろうか。

「ください」
「私の朝食はどうしてもあげられません。代わりと言ってはなんですが着色料たっぷりの見た目重視食べにくさ百点満点のペロキャンをどうぞ」
「ありがとうございます。…所詮駄菓子ですね」

ええほんとに。
なにかで貰ったはいいけど、私は着色料を使ったお菓子が食べられないので持て余していたのだ。
ちょうどいい在庫処分が出来た。
ついでにマイナーメーカーの着色料入りオレンジジュースも差し上げる。
彼はそれも喜んで受け取ってくれた。子供か。
マイモンさんって変わってる。

「で、今日はどうしたんですか?」
「なまえさんとデートしたくてですね」
「あっはっはっ!」
「…」
「………冗談ですよね?」
「本気です。兄上にも許可は頂きました」

さらりと言いながらペロキャンをガリゴリ噛み砕くアマイモンさん。

私は項垂れた。
これからアマイモンさんには振り回される羽目になるのかと思うとだるさが一気に体を襲ってくる。

「この間も日本の観光したばかりじゃないですか」
「アレは違います。今回は兄上のところです」

そんなこんなで私たちは今休業中の遊園地に来ていた。
名はメッフィーランド。
理事長の考えていることはたまにわからない。
あなたいつマスコットキャラクターになったんですか。

日陰のベンチに座って今朝の出来事を反芻しているうちにアマイモンさんが水を持って帰ってきた。
他人なんてどーでもいいと思ってそうなアマイモンさんだが、案外人のために動いたりするんだなあと感心した。
受け取る際にアマイモンさんの顔を見すぎたせいか、アマイモンさんは首を傾げた。

「ボクの顔になにか?」
「目と鼻と口と耳ですね」
「くだらない事を言う体力はまだあるんですね」
「すみません。………お水、ありがとうございます」
「どういたしまして。あ、兄上が呼んでるので少し席を外します」
「それなら私は室内の涼しい所で寛いでますね」
「自由な人ですね」
「それアマイモンさんには言われたくなかった」
「では」

アマイモンさんは忍者よろしく、しゅたっと木の上に登った。
というか理事長来てたのか…、どうせ燐に茶々入れに来たんだろうなあ。
理事長室での会話を私はきっちり覚えていた。燐が特別な存在だとかで、闘ってみたいらしい。

それにさっき燐から遊園地なうってメールが来た。
私も全く同じ場所にいるんだけど、どうしてかそれは言えなかった。
プライベートの出先で知り合いに遭遇するのって、なんか気まずい。

まあそれはさておき、早いとこ涼しい場所に避難してしまおう。
熱中症は死ぬ可能性だってある。
それならならない方がいいに決まってる。




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