「調べは付いてるからね、なまえさん?」

ニコリ、と完璧な笑みを浮かべた奥村を目の前にした私は、蛇に睨まれた蛙のようだった。
奥村の笑顔が完璧すぎて、逆に笑えない。
これが俗に言う黒い笑みと言うやつだろうか…、真面目な理事長と同じくらいの威圧感がある。
恐怖を抱いてるのではない、奥村が負のオーラを放出しているのだ。
そしてその空気に支配された。
そんな所だろう。

「トップシークレットまで?」
「いや流石にそこまでは調べてないけど。なまえさんが名誉騎士<キャンサー>だって事はすぐに解ったよ」
「うわおーそっか」

名誉騎士。
残念な事に、位は上の方の祓魔師だ。
奥村よりも、シュラよりも、上。
ただ、エンジェルよりは下だ。
というより、聖騎士の1つ下。

「普通に、一般人として、生きたかったんだけどなあ」
「…なまえさんは、僕と兄さんが祓魔関連の人だってわかって近づいたの?」
「違うよ!」

これは即答できる。
私だって好きこのんでそっちの世界の人に関わりたいとは思わない。
全くの偶然なんだ。

「ただ純粋に、美味しそうなご飯に惹かれただけだよ」
「……それはそれで、まあなまえさんらしいか」
「ワッツミーニング?」
「で、いつから地の王なんかと親しくしてた訳?」

いやいや無視するなよ、私の問いにも答えろよ。

「お前は私の彼氏か。…えーと、燐が門番の黒猫と闘ってたたとき?理事長室で闘い見ながら座談会してました」
「ストーカーか」
「私じゃなくて理事長とアマイモンさんがな」

そう答えると奥村はちょっと固まって、眼鏡のレンズを吹いた。
ちょっとした現実逃避だろうか。

「何か…その言い回しは違う気がするよなまえさん」
「おい、例えたのは私じゃなくて奥村だからね。しかもストーカーされてるのは奥村じゃなくて燐ね」

まるで私が理事長をストーカー呼ばわりしたような言い回しをする奥村。
私が理事長を貶すような事を言うわけないでしょうよ。
一応「ピンクマン」とか「胡散臭い」とかは彼の前では声には出していない……筈だ。

「そういえばなまえさん、兄さんは呼び捨てだよね」
「燐がそう言えって言ったからね」
「じゃあ僕の事も呼び捨てでいいよ」
「……えー今更。それにあんた塾生の子に雪ちゃんって呼ばれてたよね、ぷくくくー」
「笑いが棒読みだよ。ていうかなまえさんが僕の事を雪ちゃんとか、似合わない」
「あーそー。ところで雪男ちゃんや」
「なに?中途半端にちゃん付けしないでくれる?」
「話思いっきり脱線してるよ」

名前うんぬんの話の前は、確かストーカーとかの話をしていたんだったっけ。
そしてその前は……、ええと、アマイモンさんがどうとか言っていた気がする。
雪男もそれを思い出し、会話を遡って思い出しているようだ。
そして、思い出したのだろう。
あ、と言う声と一緒に手を叩いた。

「なまえさんは、いつから祓魔師になったんだい?」
「…それは言えないな。祓魔師として」
「ならどうしてフェレス卿の所に?」
「親がいなくて」
「訳あり?」

雪男はすぐに察したようだ。
もちろんちょっと考えればわかることだ。
私が普通の一般人だったら悪魔の元には預けられない。
燐だって、同じことだ。
彼が普通の、悪魔とは縁の無い育ち方をしたら、………。
この例えは駄目だな。
あまりにも「if」の要素が強すぎて、これ以上考えても虚しいだけだ。

「うーん…雪男とは普通の友人でいたいんだけど…」

苦笑いで返した。
軽く聞こえるかもしれないが、私の本音だ。

「僕も。悪魔の類には一切関係の無い、一番の友人だと思ってたよ」

向こうは困ったような笑み。
眉尻が下がり、たれ目なことを加えると今にも泣きそうな表情に見える。

「過去形?」

思って、た。
もう違うのだろうか。

「別の繋がりが出来たからね。なまえさんは名誉騎士だし僕は中一級。悪魔の類以外では無くなったかな」
「あ、っそ。じゃあ、友であってくれることは、」
「変わらないよ。隠し事のない、僕の一番の友人」

一番の、友人。

その言葉に感極まって、鼻の奥がつんとした。でも嬉し涙らしきものが出てくる気配は無かった。
そもそも私は滅多に泣かない。
この間のは、だいたい5年ぶりくらいの涙だ。

「なら………私も、話すよ。私の「訳あり」の理由」





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